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WOMAN  作者: 佳穏
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悩み多き年頃21

寿里から出生の詳細を聞かされて半月経った頃お店のポストに凛からのエアメールが届いた。季節は巡り凛が渡米して3ヶ月ほどたった肌を過ぎ行く風が心地よい初夏の頃だった。帰宅して読もうと一度はバッグにしまった手紙を再度手にした志桜里は旅立つまえに渡された時と同じコバルトブルーの封筒を丁寧にペーパーナイフで開封した。仕込みもそこそこに志桜里は凛からの手紙を読み始めていた。


ママおかわりないですか。凛はこちらに来て初日から目が回る忙しさでアパートに帰るとシャワーも食事をとるエネルギーもなく寝入ってしまった事もあるのよ。そんな時はお腹がすいて朝早く目覚めて早朝の5時から卵を茹でてサンドイッチにして食べたり。

慣れない洗濯や料理、何もかもが初めての体験だから四苦八苦しています。だけど日本にいたときより凄く充実していて仕事と語学の勉強の両立は想像以上だったけどその大変さも楽しんでいる自分に驚いています。会社で借りてくれたアパートに山のように積まれていた段ボールに入った荷物もなんとか片付いてテーブルと椅子やソファーを購入したらやっと部屋らしくなりました。そんなわけで手紙が遅くなりました。凛から連絡ないからママはきっと心配してるだろうなって思っていたの。ママ報告遅くなってごめんね。凛はこちらでの生活、結構気に入っているのよ、だから心配しないで。


それとママに聞いてほしい事が。

それはね凛の家庭のこと・・ 


先週お母さんと電話で話していた時のお母さんがいつもと違って変だった


「凛ちゃんはおじいさんから渡米前に何か言われたり聞かされたことはない」って急に聞いてきて。


「なにかって、なに?」


って聞き返したらお母さん黙り込んでしばらくしてから


「今の話は忘れて、もう遅いからもう休みなさい」


って電話を切ったの。凛ねお母さん何か隠してるってすぐわかったわ。お母さんはとっても口達者で頭の回転が早くてどんな人をも論破できる人。

だけど悩みや隠し事があるお母さんは口が貝みたいになって別人みたいになってしまう お母さんは嘘が下手というより嘘がつけないから黙ってしまうのね。凛はお母さんが心配になってすぐ電話を掛けたの


「お母さん又何か悩み事があるんでしょ、凛には何でも隠さないで話すって約束してくれたでしょう」


そう言った直後に電話の向こうからすすり泣く声が聞こえてきたの


「お母さんどうしたの・・泣いているのね 何があったの、黙ってたら分からないわ 凛お母さんのこと心配で仕事や語学勉強どころじゃないわ」


「ごめんなさい、凛ちゃんごめんねって」


お母さんは謝りながらごめんなさいの訳を話してくれたわ


凛の手紙に入り込んでうっかり店をあけるのを忘れていた志桜里はドンドンとドアを叩く音に頭を上げた。打ち付ける音が徐々に大きくなっていた。


「ママいるんだろう」

「もう開店時間だろう開けてよ」

「鍵がかかっていて入れないんだ

「早く開けて珈琲飲ませてくれよ」


常連客らが声が聞こえてきた。


「あっいけない、仕込みもまだ途中だわ」


志桜里は営業中のプレートを持ち慌ててドアを開け頭を下げた。


「ごめんなさい 遅くなって本当にごめんなさいね」


「謝らなくたっていいよ 明かりがついてたから俺たちはママがまた体調崩したのかと、寝込んでなけりゃいいんだ」


「奥のソファーでまた休んでるのかと心配したよ」


「ママが元気な顔みせてくれて安心したよ、なぁみんな」


「いつもいつも優しいお言葉ありがとう 今日もお詫びと感謝を込めて珈琲一杯目は無料にしますね」


凛の手紙をバックに戻した志桜里は常連のお客様にサービスでお出しする珈琲の豆を挽きながら、常連客が口にした体調を崩した自分を思い出していた。


愛した人が妻帯者と分かり深い関係になる前に自ら身をひいた最初で最後であろう最愛の人と別れたあのとき志桜里の身心はぼろぼろだった。


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