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イチオシ短編

「3名でお待ちのえちえちお姉様〜!」って言った?

作者: 七宝

 今日は大好きな元祖メシュカシュらーめんを食べに行く。

 ラーメンにメシュカシュを乗せるなんて最初は「頭おかしいだろ」しか思わなかったが、今では逆の意味で「頭おかしいだろ!!!!」と思っている。天才なのだ、あそこの店主は。


 店に着くと、駐車場がほとんど埋まっていた。平日の11時06分でもうこんなに混んでるのか⋯⋯


 もちろん並んで食べるよ。メシュカシュが俺を待ってんだ。


 車から降りて入口へ向かう。

 もうメシュカシュの匂いがする。たまらん。ヨダレが出てくる。肘からもなんか出てきそう。犬とか。飴とか。レモンとか。


 中を覗いてみたところ、そんなに混んでいなかった。良かった、少し待つだけで済みそうだ。


 順番待ちの紙に名前を書いて⋯⋯っと、3番目か。


 ていうか前の人苗字長っ。

 なんて読むのか分かんないけどたまにいるよね、なんちゃら小路とかなんちゃら院とか。テストの時名前書くだけで時間かかっちゃうから大変そう。


 あ、店員が来た。席空いたのかな。ていうかめっちゃ可愛いんですけど。新しいバイトの子?


「えー、お次でお待ちの⋯⋯あれ、なんて読むんだろ⋯⋯」


「どんな字ですか?」


 近くに座っていたので聞いてみた。


「えっと、お金の金に、前後の後です⋯⋯かねごさん、ですかね?」


「た、多分そうかと⋯⋯」


 力になれなかった⋯⋯


 コソコソ話していると、俺の左隣に座っていた男が立ち上がった。


「すいません、それ自分です。ゴルゴって読みます」


 ゴルゴ⋯⋯?


 ゴールドってこと?


 嘘だよな? ふざけてるだけだよな? まったく、そんなんでいちいち店員に迷惑かけてんじゃねーよ。


 しばらくして、またあの可愛い店員が来た。


「えー、次はですね⋯⋯えっ!? さ、3名でお待ちの、え⋯⋯」


 え?


「え⋯⋯」


 ???


「えちえちお姉様〜!!!」


 えちえちお姉様!?!?!?!?!?


「あ、はい、僕です」


 悪ふざけにも限度ってもんがあるぞ!


「おいお前!」


 俺は立ち上がった男の胸ぐらを掴んだ。


「はい!?」


「なんだえちえちお姉様って! 店員さんが可愛いからそういう言葉を言わせたかったんだろうが、さすがに一線越えてるぞ!」


「いや、本名なんで⋯⋯」


「な訳あるか! ドアホ!!」


 ポケットから財布を取り出す男。


「免許証見てください」


越々(えちえち)尾根江(おねえ) (たん)


 マジで!?!?!?!?


 んで名前(たん)なの!? 親はどういうつもりで名前付けたの!?!?


「お前の親頭おかしいだろ!!」


「⋯⋯あの、なんなんですかあなた。いきなり人の名前にケチつけてきて、親まで悪く言って、僕はやくメシュカシュ食べたいんですけど」


 俺もはやく食べたいよ。


「手、離してくれますかね」


 睨みつけるような顔の舌。


 言われた通り手を離した。


「謝ってください。僕をバカにするだけならまだしも、親の悪口は許せません」


 俺は謝らなかった。息子に(たん)なんて、悪ふざけ以外のなにものでもないからだ。


 いつまで経っても謝らない俺に痺れを切らし、舌は「フン」と言って席へ⋯⋯あれ? こいつ3名って書いてなかったか?


「おい君!」


「なんですか? やっと謝る気になりましたか?」


「いや、それは絶対ないんだけど、君3名って書いてなかった?」


「はい」


 はい?


「それがなにか?」


 なんだこの堂々とした態度は⋯⋯


 もしかしてこっちが間違ってるのか? どういうことだ? 考えろ⋯⋯考えろ⋯⋯ハッ! そうか!


「ごめんごめん、あとの2人は後で来るんだね」


「いや」


 舌はそう言って両胸のポケットに両の手を突っ込んだ。


 なんだ⋯⋯? チクニーが始まるのか? 可愛い店員の前で、チクニーを⋯⋯?


「ほら」


 舌が差し出した両手には、それぞれやたら目のデカい美少女キャラ的なイラストが描かれたカードが乗っていた。


「嫁と妹です」


 これ、3名って書いちゃダメだろ。


「てめぇ殺すぞ」


 可愛い新人の子の口からとんでもない言葉が出た。


「フッ⋯⋯君に僕が殺せるかな?」


 お前も何言ってんだよ。ここラーメン屋だぞ。


「殺せるに⋯⋯決まってんだろうが!」


 そう言って新人の子が殴りかかった。


「フグホッ!」


 右ストレートが顔面に命中し、舌はフラフラとその場に倒れた。


 10秒後、正式に舌の負けが決まった。


「フン、口ほどにもない」


 ほんとだよ。なんでそんなに弱いんだよ。


「いてて⋯⋯ここは⋯⋯」


 舌が目を覚ました。気失ってたのかよ。


「そうか⋯⋯僕は負けて⋯⋯」


 ここラーメン屋なんだけどな。いつまでやるんだろこれ。


 舌はポケットをゴソゴソやっている。


「みっちゃん、ほっしゃん、ありがとう⋯⋯」


 さっきの2枚のカードを見ながら呟く舌。⋯⋯ほっしゃん?


「君たちを胸ポケットに入れていなかったら僕は今頃死んでいた⋯⋯」


「顔殴られてたよね」


「そうだね、ふふっ」


 なにコイツ怖。


「救急車呼んだので、そのまま横になっててください」


 新人の子が電話したようだ。ていうか大丈夫? この子店長に怒られたりしない?


「ということで順番前後して⋯⋯」


 あ、次俺だ。変なこと起こりすぎてメシュカシュのこと忘れてたよ。


「えー、3名でお待ちの3LDK村 ギンヤンマ様〜あっ、間違えたっ、今つけたあだ名で読んじゃった」


 なにこれ現実? こんなあだ名つけられてたの? うち1Kなんだけどな⋯⋯


「失礼しました。3名でお待ちのキムタク様、お席へご案内します」


「はい」


「あの、キムタクっていう苗字なんですか?」


 可愛い子に話しかけられたァーーー!


「はい、キムタクっていう苗字なんです」


「どうやって書くんですか?」


「木木拓って書きます」


「あー、耳で聞いても分かんねーや」


「ホホホハホホ」


 可愛い子と談笑しながら歩けるなんて、夢みたいだ。それにこの後はメシュカシュラーメンが待ってる。天国じゃないか⋯⋯


「ところで、あとの2名様は待ち合わせ⋯⋯ですかね?」


「ああ、僕1人ですよ」


「は? てめぇ殺」


「待ってください待ってください!」


「⋯⋯なんですか?」


「僕ね、おケツが6つあるんですよ。だから椅子が3個いるんです」


「嘘つくんじゃねーよ! さっき普通に座って待ってただろうが!」


「嘘じゃありません! 見ててください! トランスフォーーーーム!!!」


 ガシャンガシャンガシャンガシャン


 カンカンカンカンカン!!!


 ジャーーーーーーッ!!!


 シャッコシャッコシャッコシャッコ


 ジュワジュワジュワジュワー!


 パチパチパチパチ!!!!


 ズコッ


 デロリン


 ピチョッ


 パリーーーーーーン!!!!


 ズゾーーーーーー!


 ちゅるるるるる〜〜〜〜〜〜〜〜!


 ドカーーーーーーン!!!!!!!


「完成です。ほら、おケツ6個に割れてるでしょ?」


「あの、おケツ普通モードで座ればよくないですか?」


 えっ⋯⋯


 ほんとだ!!!!!!!!!!


「あなた⋯⋯天才だ!」


「いかにも、私が天才です。よく分かりましたね」


「え?」


「天才っていう苗字なんです⋯⋯でも、これからはキムタクですね」


「それってプロポーズですか?」


「はい、先祖代々の言い伝えがあるのです。『おケツ6つ現れし時、お前結婚すればよろし』と」


「それって3人のケツでもいいんじゃないですか?」


「3人と結婚しろと?」


「うん。どうせケツしか見てないんだからいいでしょ」


「なんでそんなこと言うんですか?」


「そんな迷信に縛られてちゃダメだっつってんだ。結婚ってのは自由恋愛だろ? チミ」


「⋯⋯チミ?」


「それにしても席まで遠いね。もう10分くらい歩いてない?」


「あと6kmくらいですね」


「6kmかぁ」


 前回来た時は普通の店だったのに、なんでこんな『町』な大きさに⋯⋯どうしようかな。








 結局それから20分くらい歩いたところにすき家があったので、牛丼のミニを食べて帰りました。

 ちなみに作者が順番待ちをする際は100%カタカナで書きます。

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