捨てられた子
「なあ、これからどうする?」
「これから……」
「とりあえず朝までハリーの父ちゃんと警備隊に見つかんねぇようにここにいねぇと、な?アレックス」
「んーー」
「僕はもう家に帰れないし、帰らないから二人の判断に任せるよ」
「んーー」
「そん時は俺ん家にくればいいんだ」
「ふんーーー」
「なんなんだよお前さっきから」
リュウとハリーが今後の話をしてる時、アレックスは足だけ上げて上半身をトロッコの中に寝かせた状態となっており、何か考えているのか言いたげなのか、唸り声のような声を出している。
リュウは眉をひそめてアレックスの方を向き、少しイライラしたような声で問いかけた。
「なあ、ハリー!」
「は、はい!!」
「俺らと冒険しないか!!」
「冒険……?」
アレックスはむくっと起き上がるといきなり顔をこちらに向け、ランプの明かりよりも明るい笑顔で「冒険」という言葉を出した。
ハリーは驚いた様子を見せ、アレックスの急でおかしな言動には慣れっ子なリュウは冒険という言葉よりも「俺ら」といえ言葉に反応した。
「いきなりなんだよ」
しばらくの沈黙の後、リュウが口を開く。その時、ランプに灯されている火がふっと揺れ動く。
「ハリーはもう家に帰れないし、俺達だって戻っても警備隊に捕まるだけだし、いっその事もう村から出て冒険しないかって!! 俺してみたかったんだよー!! 主人公が故郷から出て世界を冒険したりって!! 魔法とか、剣とか盾とか、冒険しつつ戦ってさ!!」
アレックスはトロッコから身を乗り出して、地下通路全体に響くくらいの声を出しながら語るが、リュウは途中から片手で頭を抱えて俯き、ハリーはキラキラと瞳を輝かせながら熱心にアレックスの話を聞いていた。
「無理に決まってんだろ、俺らまだ十二だぞ」とリュウは言うが、アレックスは聞く耳を持たずに立ち上がったハリーとハイタッチを繰り返している。
リュウは年齢的的に無理だと言っているが、冒険自体の事は否定していない。それはリュウの少年心がまだ中で生きているからだ。
同年齢の子供と比べてリュウは達観的であり、冷静沈着の俗に言うマセガキである為に普段は見えないその心が、今言葉として生きている証拠が出された。
この二人に何言ってももう遅いと思ったリュウはため息をつく。だがその時、何かがいる気配をリュウが感じ取る。
「おい、静かにしろ」
リュウの一言で二人は一瞬で口を閉じ、来た道をじっと見つめる。ハリーはビクビクしながらしゃがみ込み、リュウとアレックスは額に汗をかきながら見続けた。
先に何の気配なのかが分かったアレックスは二人に「中に隠れろ」と言ってアレックスは外に出て、ランプの火を消した。
「チッ、ボス、ハリーじゃないっすよ」
現れたのは先程玄関にいた人間とは違う獣人の警備隊。特に鼻が良い牛と馬の警備隊員だ。
直前まで明かりが無かったのは逃げられない為だろう、アレックスの前にランプを出して顔を確認したのち、馬の獣人は舌打ちをして後ろを向き「ボス」という奴に伝えた。
ゆっくりと暗闇の中から出てきたのは被っているハットと生やしている髭に血をつけたハリーの父、エドワード・カリオス。
アレックスの心臓の鼓動はいつも以上に速くてうるさい。だがそんな姿を外に出す訳にもいかなく、拳を握りしめて視線を逸らさなかった。
ハリーの父は何も言葉を出さずに深い深い息をつく。
「ハリー、これで最後だ、父さんを困らせないでくれ」
息をついたと同時に俯いたハリーの父は、言葉と共に顔を上げてトロッコに視線を送る。瞳に光が宿っていない、ハリーの瞳と同じ色をしているが、とてもアレックスはその瞳を見る事ができなかった。
身体が異様に震えるアレックスは顔の表情だけは変えずに立ち向かおうとしている姿勢を見せるが、それはハリーの父には無駄なようだ。
「戻ってこい、戻らなければお前、お前と同じ中にいるガキ、自分の身分が分かっていないこの糞ガキを殺す」
平然と言い放ったハリーの父。アレックスは口を開けるが言葉は出てこなかった。
トロッコの中にいるハリーは目を見開いてブルブルと震えており、隣にいるリュウは冷や汗をかき、必死に頭を使ってこの場から逃げ出す方法を考えている。
警備隊は殺すという単語が出てきた時にピクリとも動じず、まるでハリーの父がよく使う単語として受け取っているようだった。
アレックスは「どっか行け!! ハリーはもうお前の息子なんかじゃない!!」と、ハリーの父に向けて吐き捨てた。
ハリーの父はその言葉の後にしばらく黙り込み、もう一度「ハリー」と呟いた。
ハリーは何も答えずに今この一瞬の長さにひたすら耐え、リュウはそんなハリーの背中に手を回してギュッと目を瞑り時が早く過ぎるのを願い続ける。
「やれ」
返答が来ない。ハリーの父は警備隊に一言言って背を向ける。




