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犯人X


 翌日。


 土曜日の午前授業を受けるために、俺は学校に来ていた。

 私立のいやなところだ。

 部活でいない者もいるが、基本的には全員参加だ。

 峰岸が7m範囲内にいるから当たり前だが、低い耳鳴りがする。


「はあ、くそ。眠い」


 俺は結局、峰岸に従うしかなかった。

 あのキスのあと、アイツは自分の喉元にボールペンを突き立てて、言ったのだ。


『今日の21時に、藤見公園で待っていますね。遅れたら承知しませんよ――。私が死んだら、困るでしょう?』


 それから半ば強制的に連絡先を奪われた俺は、夜の公園で深夜0時まで、7mを目測する訓練をさせられた。

 おかげで7mの目測は俺の特技になったが、代わりに昨日の睡眠時間を失った。


「やべ、筆箱忘れた。ミチル、ペンと消しゴム貸してくんね?」

「お前、学校に何しに来てんだよ」


 眠気を感じるも、いつも通り振る舞いながら、隣に座る翔太に筆記類を貸してやる。

 疑いたくはないが、俺が昨日ずっと行動していたのは、翔太だけだ。


 それ以外の友人は入れ替わり立ち代わりだった。

 契約者Aがクラスメイトなら、可能性が高いのは……。


 覚悟を決めて、峰岸にメッセージを送る。

 大丈夫。

 これは疑いを晴らすための行いだ。


【確かめる。黒板に向かって歩いてくれ】


 峰岸がスマホを見て、頷いて立ち上がる。

 俺と峰岸の位置関係は7m以内だが、俺から黒板までは7mを超える距離だ。


 もし峰岸が離れていても耳鳴りが聞こえるようなら、俺の半径7m以内に契約者Aがいることになる。

 峰岸がゆっくりと歩き、黒板に貼られたプリントの前で立ち止まる。

 手にしたままのスマホで、俺は峰岸に再びメッセージを送った。



【聞こえる】



 依然として、低い耳鳴りが鳴っていた。

 聞こえてほしくなかった。


 翔太が契約者Aだと確定したわけじゃないが、その可能性がぐっと高まった。

 俺は絶望したまま、1時間目の授業を受けた。



 ――翔太は良いヤツだ。素直でムードメーカーの幼馴染だ。

 顔も学力も平均的で、突出した何かもない、だけど俺よりずっと人間ができた友達だ。

 仮に契約者Aが翔太だとして、だとすれば拒絶した内容は、平穏な生活を脅かす何かだろう。


 そうじゃなければ今頃、性格的に翔太はスターか何かになっているはずだ。

 もしかしたら俺と同じように、誰かの死を拒絶して、幸せの中にいるかもしれない。

 俺はコイツから幸せを奪えるのか?

 無理だ。


 俺の半径7m以内にいる別の友人と談笑する翔太を見ながら、頭を抱える。

 峰岸が黒板を消しているその奥、廊下を歩く生徒をドア枠越しに見て、気が付く。

 低い耳鳴りが、止んでいた。



「なあミチル、消しピンやんねえ?」

「やんない! ちょっとトイレ!」

「あートイレね。俺も行こうかなあ」


 慌てて立ち上がり、俺は教室を出て廊下に立った。

 階段を下りていく生徒の後ろ姿が見える。

 振り返って見れば、隣の教室はもぬけの殻だった。


「Aは、隣のクラスのヤツか……!?」


 廊下で自席を横に立ち、空になった隣の教室に向けて歩き始める。

 7m。

 隣の教室の2列目までは、俺の索敵範囲だった。


「なあ、何かあったのか? お前、昨日からちょっと変だぞ。もし峰岸さんとうまくいってないなら、相談に乗るぜ。俺、彼女できたことねえけど」


 翔太が心配そうな顔で言った。

 俺は心底コイツが契約者じゃないことに安堵して、思いっきり翔太を抱きしめる。


「峰岸は彼女じゃねえ」


「あー。悪いけど、俺は女が大好きだ。特に太ももが。知ってんだろ? お前とはずっと友達だぜ」


 終業ベルが鳴り、クラスメイトが休み時間で動き始めると同時。

 廊下が騒がしくなり、理科の教科書をもった生徒が歩いてくる。

 上階のクラスが2時間目に移動していないことは確認済みだ。

 つまり、この中に契約者Aがいる。


 峰岸から離れて教室の後ろで立ち、翔太と談笑していると、低い耳鳴りが聞こえ始めた。

 鬱陶しいと感じていた耳鳴りが聞こえることに、これほど喜びを感じるとは。

 翔太越しにドアの奥を歩いていく連中の顔を見てみるが、ほとんど団子状態で歩いてくるから誰が耳鳴りの発生源かなんて分からない。


 だけど、そう。翔太は敵じゃない。

 小さくガッツポーズをして、峰岸にメッセージを送る。


【契約者Aは、隣のクラスの前列か2列目だ】


【そう。よくやったわ。ゆっくり追い込んでいきましょう】





 放課後。

 俺は友人の翔太と純平の3人で、学校から家までの道を歩いていた。


「土曜の授業はリモートにしてほしいよなぁ」

「僕は皆と喋れるの、嬉しいけど」


「うわっはぁ! 純平がデレたぞ! 聞いたかミチル!」


 ローテンションの純平とハイテンションの翔太がふざけあう。

 悪魔と関わって3日。

 非日常を味わい続けたからか、友人と過ごす時間がとても甘く感じる。


 ――が、すぐに苦味へと変わった。

 峰岸は用事で学校に残っているはずなのに、低い耳鳴りが聞こえ始めたからだ。


 俺の半径7m以内に、敵がいる。

 前方に人はいない。

 俺たちの後ろにいるんだ。


 だが、不自然に振り返ることはできなかった。

 この耳鳴りが聞こえたのはきっと、偶然じゃない。

 初夏の太陽が照り付ける中、黒い画面のスマホを目の前に掲げ、反射させて後ろを見る。


 確認できたのは4人。

 反射で見ているせいか、距離があやふやだ。


「あやふやなら、確かなものにすれば良い」


 小さく呟いて前方の自販機を通り過ぎ、そこから7m数えて、もう1度スマホを掲げる。

 俺と自販機の間にいる人間は、3人。

 内2人は制服で、もう1人は私服のようだった。

 ……学校から出て、すぐに他の契約者に合うとは考えにくい。


 敵はきっと、契約者Aだろう。

 となれば、制服を着た2人のどちらか。


「……」


 契約者Aは、俺と翔太のどちらかが契約者だと考えているに違いない。

 Aは昨日の昼、教室に残った峰岸ではなく、学食に行った俺と翔太を追った。

 峰岸も契約者だと気づけずに俺たちを追ったことから、Aの索敵範囲は、俺とAの距離+俺から峰岸までに満たない距離。

 7+6で、最大13m以内だと推測できる。


 Aは一方的に観察できるはずだし、俺なら2人に絞れた時点で、距離を取って観察する。

 でもAは近づいてきた。

 それはきっと自信の表れ――Aは、強気で積極的な人間だ。

 もしかしたら、何回も戦闘を重ねて勝利してきた強者かもしれない。


「どうした? なんか顔、暗くない?」


 どうやら俺は、思った以上に顔に出やすいらしい。

 平静を装っていたはずなのに、翔太が俺を見て眉をひそめる。


「……後をつけられている」

「誰に? 峰岸さん?」


 純平が尋ねてくる。

 どうしてアイツがでてくるんだと思ったら、翔太が気まずそうな顔をしていた。


「あー。それ、俺の勘違いらしい」


 ただ、後をつけられていると言って「気にしすぎ」とか「被害妄想」とか言わないあたり、やっぱりコイツらは良いヤツだ。

 翔太が立ち止まり、それに釣られるようにして俺と純平も足を止める。


「俺が追っ払ってやるよ」


 男らしく言った翔太に「え?」と聞き返す暇もなく、翔太が後ろを振り返る。

 そして人差し指を突き出して、大声で叫んだ。


「おい! バレてるぞ! ストーカーは止めろっ!」

「ばかっ、やめろ!」


 伸ばされた翔太の腕を下ろさせるが、もう遅い。

 俺たちが通ってきた道を見れば、後方にいる2人の男学生の声が聞こえた。


「何? 中二病?」

「やべぇヤツ何じゃね?」


 そんな会話をして歩いてくる。

 男生徒が俺の7m以内に入っているが、いつの間にか、低い耳鳴りは聞こえなくなっていた。

 耳鳴りがしない? となれば敵は――。

 10mほど空いて、俺たちと同じ様に足を止めているヤツがいた。

 一本道で脇道の無い道路。


 ほかに人影はなく、唯一いたのはデカいリュックを背負ってグラサンとマスクを着けた、金色で短髪の細い男だ。

 男は何も言わず、ゆっくりと振り返って歩き始める。



「え、まじでストーカー?」

「てかあの恰好、不審者の代名詞じゃん」


 翔太と純平が、軽い口調で呟く。

 だけど、俺の内心は穏やかじゃなかった。


 契約者Aは学生だが、俺の高校では金髪は許されていない。

 つまりコイツはAじゃない。

 なのに、俺たちを追ってきた。


 俺を契約者だと知っている人物――もしかして、犯人Xか?

 震えながらスマホを取り出して、自販機の横を通りすぎる背中をカメラで撮る。


【犯人Xかもしれない】


 そう言葉を添えて、峰岸に写真を送る。

 腹が立つとか言うわりに、俺は峰岸を頼りにしているのかもしれなかった。


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