第二十八話・入学式当日
大陸統一歴2317年、4月中小月六日目
ローランディア選王国、王都セントラル
王立アウレアウロラ学園大講堂にて―
スプリングフィールド選公爵家主催の春の園遊会の翌日。
その日は、王立アウレアウロラ学園の入学式が執り行われていた。
学園では午前中に初等部アウロラの入学式が執り行われ、午後からは高等部アウレアの入学式が執り行われる。
そのため、高等部アウレアの組割りの発表や各組での徽章の配布は午前中に行われる。
アレックスは事前の情報通りに学術、武術、魔術共に第一組で各術の首席の成績でもって、高等部アウレアの第一学年総代に選ばれていた。
午前中には学術第一組のホームルームも行われ、そこで第一学年総代として入学式の答辞を述べる様に指名されるのも想定通りと言えた。
昼休みも終わり、真新しい徽章を胸に付けたアレックス達学術第一組の面々は担任教師の指示に従って入学式の会場となる大講堂へと移動した。
大講堂に入ったアレックスは、席に着く前にチラリと大講堂の三階席に視線を向ける。
三階席の真ん中にちらりと見える人影は、ガッチリと鎧を着用する騎士の姿。
「アレックス君、どうかしたのかい?」
アレックスの視線に気付いたヴァレリーが問いかけてくる。
「あぁ、大した事では……あるかもしれませんね」
アレックスの言い回しに、ヴァレリーは不思議そうに首を傾げた。
「何か気になる事でも……あれ?」
ヴァレリーはアレックスの見上げていた三階席に視線を向ける。
「えぇ、気付きましたか?あれは王都騎士団の近衛騎士隊ですよ」
「女王陛下が入学式にご臨席なさるなんて、そんな話聞いてたかい?」
驚きを顔に浮かべるヴァレリーは、アレックスに向き直って疑問を口にする。
ヴァレリーの疑問に対して、アレックスは首を振って否定の意を示す。
「いいえ……。少なくとも、午前中の初等部アウロラの入学式にはご臨席されておられなかったはずですよ」
「そうだよね。ご臨席なされていれば、お昼休みの間に噂になるはずだものね」
二人が話していると、怪訝そうな表情のシェリーが声を掛けてきた。
「お二人ともどうかされたのかしら?早く席に着かないと、あちらで先生がご覧になっておいでよ」
シェリーに促された二人は、席に着いてからシェリーに事情を話していた。
「まぁ、女王陛下がご臨席?本当なのですか?」
シェリーの疑問に、アレックスは頷いて見せる。
学園が王立である以上、入学式に王城から人が来るのは当たり前の事だ。
しかし、陛下の名代として大臣が入学式に列席する場合に近衛騎士隊が警護に着く事は無い。
何故なら、近衛騎士隊の任務は王家の警護なのである。
つまり、近衛騎士隊が警護に当たっているという事は、女王陛下がこの高等部アウレアの入学式にご臨席あそばされるという事の証左であった。
周囲に気を配れば、アレックス達と同じ様に上階を気にして囁き合う生徒達の様子が分かる。
そうして、騒めきがいよいよ大きくなるかという所で教師がやって来て静かにするようにと注意してきたのだった。
しばらくして高等部アウレアの入学式が始まると、アレックス達の予想通りにロザリアーネ女王陛下がご臨席なされた。
女王陛下がご臨席なされると、大講堂に万雷の拍手が鳴り響く。
「ローランディア選王国万歳!」
「女王陛下万歳!」
「ローランディア選王国に栄光あれ!」
「女王陛下に栄光あれ!」
席上に姿を現したロザリアーネ女王陛下は、片手を振って笑顔で人々の歓喜の声に答えていく。
しばらくして、ロザリアーネ女王陛下が手を下げて人々に静まる様に促せば、人々の歓声は先程までの熱狂が嘘のように静まり返っていた。
そしてロザリアーネ女王陛下が着席すると、大講堂の舞台端に控えていた楽団が演奏を再開する。
こうして、大講堂では女王陛下のご臨席と言う一大事に緊張感を持って入学式が進められていくのだった。
……
…………
………………
高等部アウレアの入学式が無事に終わって、アレックスは学生寮へと向かう道を歩いていた。
アレックスとともに歩いているのは、ヴァレリー、レオン、シェリー、リリーの四人である。
大講堂を出て合流した五人は、その足でそのまま学生寮へと向かっていた。
入学式に伴うオリエンテーションや徽章の授受、学生寮の部屋割りといったものは、午前中のホームルームで行われている。
そのため高等部アウレアの入学式が終った後は、生徒達は教室には戻らずにそのまま解散となったのである。
この後は、午前中に発表された組割りや学生寮の部屋割りに従って生徒達は引っ越しをすることになる。
成績の上下に伴って部屋を移動する事になる生徒達が、アレックス達を追い抜く様に急ぎ足で学生寮に向かっていく。
そんな中で、アレックス達は比較的のんびりとした雰囲気のまま、ゆっくりと学生寮へと歩いていた。
「しっかし、まさか女王陛下がご臨席なされるとはなぁ……」
レオンがぼんやりと呟くと、シェリーが呆れた様に声を上げる。
「あら?そんな事、予想して当然の事ではありませんの?何しろ女王陛下が式典にご臨席なされるというのは、初等部アウロラの時から続いておりますのよ」
そう言って、シェリーはアレックスに視線を送る。
「初等部アウロラの時には、高等部アウレアの方にはご臨席なされずにそのままお城にお帰りあそばしておられますわね。今度は初等部アウロラの入学式の方には、女王陛下はご臨席なされておられないわ。そうなると、次は六年後の高等部アウレアの卒業式にご臨席なされるのではないかしら?」
シェリーの言葉を聞いて、ヴァレリーが頷いていた。
「その可能性は高そうだね。昨日の園遊会にも、アレックス君を見るためにいらしたみたいだし……。そうすると、入学式にご臨席なされたのもアレックス君を見に来ていたのかもね」
ヴァレリーの発言に、アレックスは曖昧に微笑んで見せる。
そんなアレックスの様子に、リリーが口を開いた。
「それはそうでしょ。アレックス君は、スプリングフィールド選公爵家の子よ。お兄様が後を継ぐ以上、アレックス君がスプリングフィールド選公爵家の王位継承権保持者になるのだから、女王陛下が注目なさっていてもおかしくないわよ」
それもそっかとレオンが納得している所で、五人は高等部アウレアの学生寮の前に辿り着いていた。
レオンとはここで分かれて、アレックスとヴァレリー、シェリー、リリーは一号棟に、レオンは二号棟に向かう事になる。
「アレックス達は一号棟か……。良いよなぁ、お前らは!一号棟って、遊戯室があるんだろう?俺も遊びてぇ!」
レオンの率直な物言いに、アレックス達は揃って苦笑を浮かべる。
学生寮は一学年につき三棟あるが、校舎側から見て一番手前が一号棟、その奥に二号棟、三号棟と並んでいる。
一号棟は学術第一組に割り当てられており、最上階の四階には遊戯室が設置されている。
対して二号棟と三号棟は五階建てになっており、二号棟には学術第二組から第六組、三号棟には第七組から第十一組に割り当てられていて、遊戯室は備えていなかった。
「悔しかったら、レオンも学術第一組に上がってらっしゃいな」
「チクショウ……。自分は第一組に上がれたからって偉そうにしやがって……」
自慢げな笑顔を浮かべるリリーを、悔しそうにレオンが睨み付ける。
ふざけ合う二人の様子に、アレックス達三人は苦笑を浮かべる。
「まぁ、次の定期試験を頑張ればいいんですよ。私達も協力しますから、一緒に勉強を頑張りましょう」
アレックスがレオンに声を掛ける。
レオンは、パッと顔を上げるとアレックスに顔を向けた。
「おぅ、マジでそれな!俺だけじゃ無理だからさ、よろしく頼むよ!」
和気藹々とお喋りを繰り広げるアレックス達。
そうしてしばらくおしゃべりを楽しんだ所で、レオンが口を開いた。
「さてと、いつまでもおしゃべりばかりしていてもしょうがねぇな。それじゃ、俺はそろそろ行くよ。じゃぁ、また明日な!」
「えぇ、また明日」
そう言って、レオンがアレックス達と別れて歩き出そうとした所で、アレックス達に向かって歩いて来る二人組がいた。
彼らは、アレックス達の下へやって来るとアレックスに声を掛けてきた。
「おい!貴様が今年の高等部アウレアの第一学年総代だな?」
「えぇ、そうですね。それがどうかされましたか?」
声を掛けられたアレックスが答えると、声を掛けてきた男子生徒は腕を組み横柄な態度で後ろに控える男子生徒に向けて顎をしゃくってみせる。
すると、後ろに控えていた男子生徒が前に進み出てきてアレックスに声を掛けてきた。
「貴方が今年の高等部アウレアの第一学年総代ですね?殿下から貴方にお話があります。謹んで拝聴なさい」
二人組の無礼な態度に、アレックス達は唖然としてしまう。
「なんだ、こいつ等?失礼な奴らだな」
レオンが呆れた様に呟いた。
レオンの言葉にヴァレリー達も頷いていた。
しかし、『殿下』という単語に引っ掛かりを覚えていたアレックスは、流石にこちらから無礼を働くわけにもいかずに戸惑いながらも最初に声を掛けてきた男子生徒に問い掛けていた。
「お話とは何でしょうか」
すると、最初に声を掛けてきた男子生徒が嘲る様に口の端を歪めてふんぞり返って口を開いた。
「おいおい!誰がこの俺に対して直言を許した?これだから、田舎の成り上がり共は!礼儀という言葉の一つも知らんのか?」
「おい!お前、いい加減に……」
相手の無礼な言葉に怒って前に出ようとしたレオンを、アレックスは片手で制して首を振る。
アレックスはレオンに向けてこういう時にそれは悪手ですよと、落ち着く様に言う。
アレックスの落ち着いた態度に、レオンは渋々ながら一歩下がった。
ヴァレリー達も不満が表情に出てはいるものの、おとなしく様子を見守る事にしたのだった。
それを見たアレックスは、まずは目の前の相手の事だと気持ちを入れ替えて二人組に相対する。
相手の言動から、面倒くさい事になりそうだという予感がする。
アレックスは内心で溜息を吐きながらも、面には出さずに飲み込む。
とにかく二人組の用事は何なのかと、取り敢えず話だけでも聞いてみる事にしたアレックスであった。




