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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
青年の章

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第二十話・オルランド伯爵家での日々①

 翌日、アレックスはアランと共に再び城の中庭を訪れていた。

 勿論、その目的は剣の鍛練である。

 ただ、前日と違う点があるとすれば、アレックスの目の前には百人を超える男達が居並んでいる事であった。

 彼らは、主家であるオルランド伯爵の命によってアランの剣の鍛練に参加する事になったオルランド伯爵家諸侯軍の軍兵である。

 実は、昨夜の歓迎会の席でオルランド伯爵からアランにオルランド伯爵領に居る間だけでも軍兵の鍛練をして欲しいと頼まれているのだ。

 この頼みをフレデリックは快く引き受け、その結果アランはオルランド伯爵領に滞在する間――とは言ってもレスリーの結婚式が終るまでの四日間ほどだ――に軍兵の訓練を見る事になったのだった。

 とは言っても、軍兵の彼らも四六時中訓練に明け暮れているわけではない。

 普段は、オルランド伯爵家に仕える陪臣として様々な仕事に従事している。

 そのため、アランの鍛練は午前だけと取り決められていた。

 もっとも、アランの剣の鍛練の訓練強度の高さから言うと、並の軍兵である彼らの力量では午前の鍛練だけで手一杯という状況なのが実情だった。

 現に午前の鍛練の終了時には、百人を超える軍兵の男達は皆が地面に手をつき或いは倒れ込んで疲労に喘いでいる有様だった。

 そんな有様を、アレックスはギルバートと共に眺めていた。


「アランさんも容赦がないなぁ。こんな有様を見ていると、僕とアレクサンダー君の鍛練は、随分と優しくしてもらっているんだと良く分かるよ」


 そう呟くギルバートを横目に眺めて、アレックスは苦笑を浮かべる。


「そう仰るのでしたら、もう少し訓練の強度を上げましょうか?」

「いやいや、勘弁してほしいな。これ以上厳しい訓練なんかしたら、本当に足腰が立たなくなるよ」


 ギルバートはそう言ってため息を一つ吐くと、座り込んだ姿勢から勢いよく立ち上がった。


「それに、もうそろそろ時間のようだしね」


 ギルバートの視線の先をたどれば、城のメイド達が歩いて来るのが見えた。

 おそらく訓練の時間が終了した事で、ギルバート達の世話をしに来たのだろう。

 アレックスとギルバートの二人は、黙ってメイド達の様子を眺めていた。


「ギルバート様、お客様。お時間となりましたのでお迎えに上がりました。先ずはこちらで汗をお拭きください」


 城のメイドの一人がアレックスとギルバートの傍へ寄ってきて水と手拭いを差し出してくる。

 中庭へとやって来たメイド達の幾人かはそのまま二人の横を通り過ぎて、いまだに地面に這いつくばっている軍兵の男たちの世話を始めていた。

 訓練終了の時間となり城のメイドから水と手拭いを受け取ったアランが、アレックスとギルバートの下へとやって来る。


「坊ちゃま、ギルバート様。お二人の鍛練の程はいかがでございましたでしょうか。こちらは万事無事に終了してございます」


 二人の下にやって来たアランに対して、ギルバートが言葉を返す。


「お疲れ様です、アランさん。まぁ、彼らの様子を見ると、無事に終わったというのはちょっと……」


 言い淀むギルバートに対して、振り返ったアランは中庭を眺めてニコリと笑顔を浮かべて応じた。


「ギルバート様、訓練とは本番に備えるために行うものです。訓練で出来る限りの手を尽くすからこそ、実戦で確かな働きが出来るというものなのですよ」

「いや、確かにそれはそうなんですが……」


 朗らかに笑みを浮かべるアランを見遣って、ギルバートは苦笑を浮かべる。

 アランの言は至極まっとうなもので、ギルバートとしては返す言葉も無かった。

 ギルバートに向き直ったアランは、ギルバートの目を真直ぐ見据えて言葉を続けた。


「とは言え、昨日の今日ですぐに鍛練の成果が出る物ではありません。今日からの三日間で得たものを、彼等がどう生かしていくかが重要なのです。そしてそれはギルバート様にも言える事です」

「……僕ですか?」


 キョトンとしたギルバートの返答に、アランは鷹揚に頷いて言葉を続けた。


「はい、左様でございます。私にできる事などはたかが知れております。今後の彼等の行く末は、ひとえにギルバート様にかかっておられるかと……。ですから、ギルバート様におかれましては、今後のために今日からの三日間で何が得られるかを考えていただく事が肝要なのでございます」


 アランの言葉を受けたギルバートは、腕組みをして考え込んだ。

 ギルバートは、そうしてしばらく考え込んだかと思うとおもむろにアランに向けて一礼した。


「今後ですか……。ご忠告をありがとうございます、アランさん。今の言葉、自分なりに考えてみたいと思います」

「はい、それが宜しいかと存じます」


 城のメイドと遣り取りをしていたアレックスが二人に歩み寄る。

 そうして、アランとギルバートの会話が一段落したとみたアレックスは、二人に声を掛けた。


「アラン、ギルバートさん。お話はそのくらいにして、そろそろ城へ戻りましょう。昼食の準備が出来ているそうですよ」


 二人が振り向くと、城のメイドが一礼して応じる。


「お客様のおっしゃる通り、昼食の準備は万事滞りなく整っております。お食事の前に身を清められる様に湯浴みの準備も整えてありますので、ご案内させていただきます」


 一礼するメイドに、ギルバートが答える。


「そうか、分かった。それじゃぁ、アレクサンダー君、行こうか。アランさんも、ご一緒にどうですか?」


 ギルバートはアレックスに声を掛けると、アランの方に向き直った。

 アランは、ギルバートの誘いに対して一礼すると頭を振った。


「ありがとうございます、ギルバート様。ですが、私の事はお気遣いなく。坊ちゃまは、ギルバート様とご一緒されるのが宜しいかと……」

「そうですか、分かりました。では、私はギルバートさんと一緒に行きますから、後始末は任せますよ、アラン」

「畏まりました」


 アレックスは、アランの言葉を受けてギルバートと共に行くと告げる。

 そうして、その場の始末をアランに任せたアレックスは、城のメイドに案内されてギルバートと共に城へと戻っていった。



……

…………

………………



 剣の鍛練を終えたアレックスとギルバートは、連れ立って浴場へやって来た。

 二人は、城のメイドが用意した桶のお湯を使って手早く身を清めていく。

 サッと汗を流して手拭いで体をふくと、メイドが用意していた着替えの服に袖を通した。

 そうして身支度を整えた二人は、メイドに案内されて食堂へと移動した。

 二人が揃って食堂へ入ると、既に他の面々が席に着いていた。

 オルランド伯爵家側ではオルランド伯爵夫人が、スプリングフィールド選公爵家側ではキャサリンとアンジェリーナ、レスリーが席に着いている。

 オルランド伯爵とフレデリック、ランドルフはここにはいなかった。

 三人は仕事で午前中から城を出ており、いまだ帰ってきてはいない。

 ポルトゥースの街にある青龍騎士団の支署へと、港湾管理隊アドミニストレイターズの視察に行っているのだ。

 そのため、食堂に入って来たのはアレックスとギルバートで最後になる。

 二人がメイドの引いた椅子に腰掛けると、ギルバートが口を開いた。


「皆さん、お待たせしてしまったようで申し訳ありません」

「良いのよ、ギルバート。さぁ、皆揃った所でお食事にしましょう」


 ギルバートの言葉に、オルランド伯爵夫人は鷹揚に頷いて見せる。

 それから、オルランド伯爵夫人はメイドに軽く手を上げて合図を送る。

 そうして、その日の昼食が始まった。


「それで、ギルバート。アル君との剣の鍛練はどうだったの?」


 スープが終り主菜メインの肉料理を食べ終えた所で、レスリーが口を開いた。


「どうって言われても、昨日と大差ないよ。アレクサンダー君の指導で僕がコテンパンにされて、それで終わりさ。正直、技量の高さレベルが違い過ぎて僕じゃぁ話にもならないよ」


 そう言って肩を落として溜息を吐くギルバートに、アレックスが言葉を掛ける。


「そんなに悲観する事はありませんよ、ギルバートさん。アランの指摘を実践して少しづつ良くなっているではないですか」


 アレックスのその言葉に、ギルバートは苦笑を浮かべる。


「僕よりずっと年下の君に、そう言って気を使わせてしまう時点で駄目なんだけどね……。けど、そう言ってもらえて嬉しいよ。ありがとう」


 ギルバートの感謝の言葉を聞いて、レスリーが自慢げな表情を浮かべる。


「そうよ。アル君は強くて優しくて気が利いて可愛くって最高なんだから!」


 レスリーはそう言って、隣に座るアレックスを抱きしめた。

 アレックスは、レスリーの成すがままにされている。


「本当に、二人は仲がいいね」

「えぇ、本当に……」


 そんなレスリーとアレックスの様子に、ギルバートはクスリと笑みをこぼす。

 ギルバートの呟きに、オルランド伯爵夫人も頷いていた。

 食堂を、笑いが包み込む。

 雰囲気の変わった所で、アレックスが声を上げる。


「所で、午後からは時間が出来ますから、私はポルトゥースの街の観光がしたいと思うのですけれど……」


 その言葉に、キャサリンは少し考えてから口を開いた。


「そうねぇ。午後からも私とアンジェリーナ、レスリーは用事が残っているし、ここはギルバートさんにお任せしたい所なのですけれど?」


 キャサリンの視線に、オルランド夫人が頷く。


「そうですわね。ギルバートでしたら適任ではないかしら」


 オルランド伯爵夫人は、隣に座るギルバートに目を遣る。

 その視線を受けて、ギルバートも笑顔で頷いた。


「そうですね、僕もそれが良いと思います。それじゃ、午後からは僕がポルトゥースの街の案内をするよ、アレクサンダー君」

「はい、よろしくお願いいたします」


 こうしてその日の午後は、アレックスはギルバートの案内でポルトゥースの街の観光を行う事になったのだった。

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