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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
青年の章

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第六話・鍛錬場にて

 翌日、いつもの日課を終えて朝食を取ったアレックスは、アランとギルバートと共に屋敷の鍛練場を訪れていた。

 もちろん、目的は武術の鍛練である。

 アランの前に並んだアレックスとギルバートを見て、アランが口を開いた。


「さて、それでは今日の鍛練を始めましょうか」

「はい、お願いします」

「よろしくお願いいたします、アランさん」


 二人の返事に満足そうに頷いたアランは、話を続けた。


「では、まずは訓練を始めるための準備運動をいたしましょう」

「準備運動ですか?」


 アランの言葉に、ギルバートが疑問の声を上げる。


「左様でございます。訓練の前には適度な準備運動を行うことが肝要です。準備運動で程よく関節や筋肉を動かす柔軟体操を行う事で、訓練中の不要な怪我を防ぐなどの効果が期待出来ます」

「そうなのですか……。分かりました。そう言う事なら、ぜひお願いします」


 アランの説明に納得の表情を浮かべたギルバートは、率先してアランの指導を受け始めた。

 アランも、素直に教えを受け入れるギルバートに対して丁寧に指導をしていった。

 そうして、アレックスも交えてしばらく準備運動を行った。


「さて、続いては、体力作りと基礎訓練のための走り込みです。坊ちゃまはすでにお分かりかと思いますが……。ギルバート様、お屋敷を囲む塀に沿って走り込みを行います。徐々にペースを上げていきますから、ついてこられる範囲で結構ですのでご一緒しましょう」

「分かりました。無様をさらすわけにはいきませんからね。しっかりと頑張らせてもらいます」

「えぇ、その意気でございますよ。それでは、参ります」


 ちらりとアレックスを見遣ったギルバートが、意気込みを込めて拳を握る。

 アランは、そんなギルバートを目を細めて見ていた。

 それから、アランの合図でアレックスとギルバートは屋敷を囲む塀に沿って敷かれた道を走り始めた。

 アランは二人の後について走りながら、適宜声を掛けて二人が走るのを指導していった。

 しばらく塀に沿って走っていた二人だったが、周回を重ね走るペースが上がった所でギルバートがアレックスに声を掛けてきた。


「ハァッハァッ、体力作りの……ハァッハァッ、走り込みって……ハァッハァッ、言うけど……ハァッハァッ、結構……ハァッハァッ、キツイね!……ハァッハァッ、アレクサンダー君は……ハァッハァッ、大丈夫……ハァッハァッ、なのかい?」

「えぇ、学園に入る前には、これくらいの走り込みが毎日の日課でしたから大丈夫ですよ。むしろ、学園ではしっかりした走り込みの時間を取れなかったので、体が鈍っていないかと不安ですね」


 アレックスの言葉に、ギルバートは驚いたように目を見開いた。

 そんなギルバートに、アランが声を掛ける。


「ギルバート様?もう息が上がっておられますよ。ただ走るのではなく、プラーナの鍛練を兼ねててんを意識してください。ただ闇雲に走るのではなく、如何に体を動かしているのか、体から滲み出る霊力オルドの流れを感じてその流れに乗るのです」


 そう言いながら、アランはギルバートの横に並んで走りながらギルバートの様子を窺った。

 そうして少しの間走り込みを続けて、ギルバートは持ち直したかのように見えた。

 しかし、アランはそんなギルバートの肩を叩いて走り込みを中断させる。

 走るのを止められたギルバートは、途端に崩れ落ちて肩で大きく息をしていた。


「坊ちゃまは、そのままもう少し走り込みをお続けください」


 顔を上げたギルバートの目に、アランに言われて走り去っていくアレックスの姿が映った。

 息が切れてしゃべることもままならないギルバートの見ている前で、アレックスは走り込みの続きに戻っていくのだった。

 しばらくして、ようやく多少は息を整えたギルバートがアランに問いかける。


「アレクサンダー君は、いつもあんなに走り込んでいるんですか?」

「左様でございますな。あと何周か走りましたら、坊ちゃまの走り込みも終わります。ギルバート様は、それまでに息を整えて次の鍛練に備えましょうか。息を整えるのも、単なる休憩ではございませんよ。速やかに息を整え体力の回復を図る訓練の一環とお考え下さい」


 アランの言葉に、ギルバートは顔を上げた。

 アランは、そんなギルバートににこりと微笑みかける。


「休憩法の訓練でございます。私の教える通りに息を整え、体力の回復に努めてくださいませ」



……

…………

………………



 アレックスが、走り込みを終えて戻って来た。

 その姿を見て、ギルバートは驚きの表情を隠せないでいた。

 アレックスは、アランからタオルを受け取り額の汗を拭っている。


「僕の倍は走り込んでいるのに、ちょっと汗を掻いているくらいで平然としていられるなんて……。アレクサンダー君は、普段は一体どんな鍛練をしているんだい?」

「今日とは、そんなに変わりませんよ。適度な柔軟体操と走り込み、剣の型稽古から素振りなんかですね。大切な事は、単に肉体を鍛えるための訓練ではなくて、体を動かしながら気の鍛練も同時に行う事でしょうか」

「気の鍛練?絶技の修練という事かい?」


 アレックスの言葉に、ギルバートは疑問の声を上げた。

 それに対して答えたのは、アレックスではなくアランだった。


「ギルバート様は、気の鍛練をどのように行っておられるのでしょうか。良い機会ですから、次の鍛練に移る前に少々講義の時間といたしましょう。それで、ギルバート様、絶技マスターアーツというものは、気の力を利用して様々な現象を起こす技を総称するにすぎません」


 アランの話に、ギルバートは神妙な顔をして聞き入っていた。

 アランの話は続いていく。


「まず、一般的な気の鍛練ですと、瞑想法などで、自らの内より滲み出る霊力を感じ取る『かん』の感覚を養います。そうして『観』を身に付けたら、続いて体から漏れ出る霊力を己が身に留める『纏』の習得を目指します。そうですね?」

「はい、アランさん。そして、身に纏った霊力を体内で循環させて気として練り上げる『れん』を行っていきます」


 アランの問い掛けに、ギルバートが答える。

 その答えに、アランは一つ大きく頷いた。


「はい、ギルバート様。順番としては、仰る通りでございます。この『練』の習得を指して『気を発する』とも言い、それ自体が初級の絶技でございます」


 アランの話に、ギルバートは同意する様に頷く。

 それを見て、アランはさらに話を続けた。


「そこで問題なのが、瞑想法によって『練』の習得を目指す方が陥りがちな悪い癖です」

「悪い癖ですか?」


 ギルバートが疑問の声を上げる。


「左様でございます。確かに、『練』の感覚を掴むための修練に、『観』や『纏』と同様に瞑想法を取り入れる事は良く行われております。ですが、この方法で修練を行う者は、そのまま気の鍛練として瞑想法に頼りがちになります」

「そうですね。ですが、それのどこが悪いのですか?」


 アランの話に、ギルバートは分からないと首を傾げる。


「良いですか?絶技とは、もっと言えば気とは、剣士であれば戦闘の最中の刹那の間に使う技でございます。戦いの最中に、気を練るために瞑想をするような時間の猶予があると思われますか?」

「それは……、難しいでしょうね」

「左様です。瞑想法に頼った気の鍛練では、いざ戦いとなった時に瞬時に気を練り上げて維持したり、絶技を放ったりするといった、実戦で大事な応用が身につかないのです」

「だから、体を動かしながら『練』の修練を行うという事なんですね?」


 ギルバートの答えに、アランは満足そうに頷いた。


「左様でございます。体を動かしながら『練』を行う事が出来るようになれば、気の力を様々に応用できるようになります。そうすれば、『へん』……、気を様々に用いた絶技を使いこなす事が出来るようになるでしょう」

「なるほど。仰る通りだと思います」


 アランの説明に、ギルバートは納得の表情を浮かべて頷いた。


「気を習得するまでは、身体を鍛える鍛練と気の鍛練を分けて行う事は普通の事でございます。落ち着いた環境下で出来ない事を動きながら行う事は、特に難しい事でございますからね。ですが、だからと言ってずっと分けたままで鍛練をしていると、いざ動いた時に集中を乱して気を使う事が出来ないという様な事になってしまいます。そのため、気の習得が出来たなら、積極的に動きながら『練』を行う鍛練が必要なのです」


 そう言って、アランはアレックスを見た。

 アランの視線に気が付いたギルバートは、ハッとした表情を浮かべる。

「走るという動きの中で『纏』を行い、そして『練』へと至る。これも気の鍛練の一環なのでございます。それに、『纏』を行うだけでも、その人の持つ筋力や体力を増強し持久力が持続いたします」


 ギルバートは、アレックスを見ながら数度頷いて口を開いた。


「それが、走り込みでアレクサンダー君が走り切ったのに、僕が途中で息が上がって走れなくなってしまった理由なんですね」

「左様でございます。それでは鍛練に関する講義はこの辺りにして、修練場で剣の稽古を行いましょう」


 アランの言葉に頷いたギルバートは、アレックスと共にアランの後について歩きながらアランに声を掛けた。


「でも、そう言う事だったら、走り込みの前に教えて欲しかったですよ」

「申し訳ございません、ギルバート様。ですが、これも修行の一環だとお考え下さい。先程のお話、ギルバート様が分かっておいでならば走り込みの始めから『纏』をお使いだったはず……。それに、実際に体験してみなければ分からない事もございます。現に、坊ちゃまは柔軟体操の前から『纏』をお使いになられておりますよ」


 そう言われて、ギルバートは立ち止まると隣を歩くアレックスに視線を送る。


「どうかされましたか?」


 ギルバートの視線に気付いたアレックスが、振り返ってギルバートに問いかける。


「いや、何でもないよ。確かにそうだなと思っただけだから」


 そうして、三人は修練の続きをするべく修練場の中へと入っていった。

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