第三十八話・休日①
シェリー達と夕食を共にした翌日。
四月中小月十日目は、学園の授業が無い休日だった。
とは言え、アレックスの朝は変わらない。
日の出とともに起き出したアレックスは、一度ベッドの上で伸びをするといそいそとベッドから起き出した。
そうして、最早朝の習慣と化しているラジオ体操――勿論、前世の知識だ――を始める。
しっかりと時間をかけて体操と気の修練を行うと、続いて魔力操作の訓練――瞑想に入る。
小一時間程かけて瞑想を終えた頃には、朝食の時間になっていた。
アレックスは、手早く着替えを済ませると時計を確認して部屋を出る。
その頃になると他の学生達も起き出してきて、学生寮は一気に朝の喧騒に包まれ始めていくのだった。
部屋を出たアレックスは、手洗いで用を済ませるとササッと身支度を整えいく。
途中、同じように部屋から出てきた生徒達と顔を合わせては挨拶を交わす。
そうして、アレックスは彼らと一緒に、トテトテと階段を下りて一階の食堂へとやって来た。
食堂では既に朝食の準備が進んでおり、扉からは良い匂いが漂ってきていて学生達の食欲を刺激する。
匂いに釣られて競う様に食堂の扉を潜る学生達に揉まれる様にして、アレックスも食堂に足を踏み入れた。
食堂のカウンター奥からは、きちんと整列する様にと注意する寮母マルチナの声が聞こえる。
マルチナの注意する声を受けて、学生達は我先にと列に並んでその日の朝食を次々と受け取っていく。
アレックスはゆっくりとその様子を眺めてから、食事を受け取る学生達の列に並んだ。
そもそも、それ程急ぐ必要も焦る必要も無いのだ。
この食堂は学生寮の中に設営されており、当然の事ながら腹ペコの学生達の胃袋を満たすべく十分な量の料理が準備されているのだから。
「よう!おはよう、アレックス」
「おはよう、アレックス君」
「エディ、ヴァレリー、おはようございます」
アレックスが食堂の列に並ぶと、その後ろにエドウィンとヴァレリーが並んで挨拶してきた。
アレックスは、二人を振り返って挨拶を返した。
「今日は飯の後、シェリーを連れてレオン達と剣の稽古をするんだよな?」
「お昼ご飯の後には、魔術の自主訓練もするんだよね?」
エドウィンとヴァレリーが、今日の予定を聞いてきた。
アレックスは、少し考えてから返事を返す。
「そうですね。魔術の自主訓練の終った後で、夕方にでも皆でまた商店街に行きましょうか」
アレックスの言葉に、エドウィンが不思議そうに問いかけてきた。
「昨日行ったばっかりだろ?何かあったっけ?」
「何言ってるんだい、エディ。魔術道具店の人から言われただろ?魔法の発動体が自分に合っているか、店主のおじさんが見てくれるって」
「あぁ、そんな話もあったっけ?」
「あったんだよ。ねぇ、アレックス君」
ヴァレリーから同意を求められて、アレックスも頷き返した。
「そうですね。それに、リリーさんやレオン、シェリーさんも自分の魔法の発動体を持ってないそうですから、この機会に適性を見てもらったら良いのではないですかね」
アレックスの言葉に、ヴァレリーは頷いた。
そんな二人に対して、エドウィンが声を上げた。
「それも良いけど、とりあえず飯にしようぜ?俺はもう腹が減って仕方がないぜ」
三人が話している間にも、朝食の受け取りを待つ学生達の列は進んでいき、程無くしてアレックス達の順番が回って来た。
アレックスは、礼を言って給仕係の職員から朝食の乗ったトレーを受け取る。
トレーに乗った朝食は、スープとサラダにパンとソーセージ、それにフルーツとヨーグルトとなっていた。
朝食の乗ったトレーを受け取ったアレックス達は、適当に空いている席を探して席に着いて食事を始めたのだった。
……
…………
………………
朝食の後、アレックス達は一号棟と二号棟の間にある中庭に集合していた。
一号棟に暮らすアレックス達が中庭にやって来る頃には、二号棟に暮らすレオン達は既に中庭でアレックス達の到着を待っていた。
「よう!おはよう、アレックス、エディ、ヴァレリー」
「来たわね。おはよう、アレックス君!エディとヴァレリーもおはよう!」
「おはようございます、アレックス様。エドウィン君とヴァレリー君もおはようございます」
中庭へとやって来たアレックス達四人にレオン達三人が朝の挨拶をしてきた。
「おはようございます、皆さん」
「おう!おはよう、レオン、リリー、マリー」
「おはよう、レオン。リリーさんとマリーさんも、おはよう」
アレックス達もレオン達に挨拶を返していく。
「それで、そっちの子は誰だ?」
疑問を顔に浮かべた三人を代表する様に、レオンがアレックスに問いかけた。
アレックスは一つ頷くと、エドウィンとヴァレリーの後に立つ桃色の髪の少女をレオン達に紹介する。
「彼女は、シェリー・ランズベルクさん。私達と同じ学術第一組の方です」
「皆さん、おはようございます。シェリー・ランズベルクと申します。北方領にあるランズベルク伯爵家の第五子です。よろしくお願いいたしますわ」
そう言って、シェリーはズボンを摘まんでカーテシーを披露する。
「あっと、えっと、レオン・グランツです。グランツ騎士の第一子です。よろしくお願いします」
レオンは、僅かに顔を赤らめながら自己紹介をした。
それに対してリリーやマリーは、シェリーに笑顔を浮かべて自己紹介をしていた。
「あら?確か貴方は私と同じ魔術第八組だったわね。だけど、こうして話すのは初めてね。私の名前は、リリー・フレメントールよ。フレメントール準男爵家の第二子なの。よろしくお願いするわね」
「ご丁寧にありがとうございます。私はマリー・タルックボと申します。東方領に店を構えるタルックボ商会の娘です。……、よろしくお願いいたします」
三者三様に挨拶を交わすのを見守っていたアレックスは、声を上げて皆の注目を集めた。
「それでは、皆さんの挨拶も終わった事ですし、早速自主訓練に入りましょうか?」
勿論、ここに集まった面々に否はない。
むしろ、そのために休日にまで集まったのだから。
そうして、七人は簡単に今日の訓練の打ち合わせを済ませると、早速自主訓練に向けた準備運動を始めるのだった。
……
…………
………………
午前中は武術の自主訓練を行ったアレックス達は、一度解散してそれぞれ身支度を整えた後で昼食のために再び集まっていた。
七人でそろって食堂区画に移動して昼食を取った後は、再び中庭に集まって午後に予定していた魔術の自主訓練を始める。
訓練では、マリーとレオン、エドウィンとリリー、ヴァレリーとシェリーで組を作る形で行われた。
これは、組を作る二人の間に魔素感知と魔力操作の力量差がある場合に多く用いられる訓練方法である。
組を作ると向かい合って両手を取り合い、上位者がつないだ手を通して下位者の手に魔力を送り込む。
すると、下位者にはつないだ手を通して流れ込んでくる魔力が感じ取れるのだ。
そうして、両者の間で魔力を循環させる事で上位者は魔力放出と魔力操作の訓練を行い、下位者は体内を巡る魔力を感知する力を養い魔力を操作する感覚を覚えるのである。
エドウィン達六人がそうして魔素感知と魔力操作の訓練をしている間、アレックスは一人で瞑想をして過ごしていた。
一人で行う訓練では、実際に魔術を使った訓練を除くと、アレックスが行っている瞑想が最も安全で効率の良い訓練方法なのであった。
こうして、暫くの間アレックス達は精力的に魔術の基礎訓練を続けた。
やがて日も少しばかり傾きかけた頃、頃合いを見計らってアレックス達は訓練を切り上げた。
午前、午後と行ってきた武術と魔術の自主訓練を終了したアレックス達は、アレックスの計らいで用意したお茶とお菓子で午後のティータイムを楽しんでから、食堂区画の商店街へと向かう事になったのだった。




