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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
少年の章

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第三十二話・生徒会室にて

 セリカに連れられてアレックスが案内されたのは、初等部アウロラ第一学年の講義棟とは別棟になる建物だった。

 学園の建物は、複数の区画に分けられている。

 先ず正門から見た場合、正面左右に二つの大きな建物が建っている。

 右に位置する大講堂に対し、左に建つ建物は学園本館と呼ばれていた。

 学園本館は、教職員の使う職員室や事務員の詰める事務室、その他の部屋――会議室など――と、学生達の使用する部屋――生徒会の使う生徒会室もその一つだ――から成る。

 学園の施設としては、その奥に学生達が授業を受ける講義棟区画がある。

 そして、正門から大講堂と学園本館の間を通り講義棟区画を抜けると、学生向けの食堂や様々な商品を取り扱う商店や娯楽施設がある。

 それらの施設のさらに奥にいった所に、学生達の生活の場である学生寮が扇状に立てられている。

 アレックスは生徒会長であるセリカに連れられて、学園本館にある生徒会室を訪れていた。

 生徒会室といっても、一部屋ではない。

 入り口から入って直ぐの部屋は、学生達が生徒会の活動に利用する事務室である。

 その事務室に隣接する様にして会議室と資料室、小さな倉庫がある。

 他にも、お茶を淹れる等の用途に使える給湯室まで用意してあった。

 生徒会室に到着すると、セリカはアレックスに事務室にある応接セットのソファを勧めた。

 そうして、アレックスを座らせると、セリカは一人奥にある生徒会長の机に歩み寄っていった。


「せっかく生徒会室まで来たのだから、最初にお茶位は用意すべきかしらね?」

「いえ、生徒会長、お気になさらないで下さい。……、それで、渡す物というのは何なのでしょうか?」


 セリカは、アレックスの受け答えに目をパチクリさせた後、気を取り直したように一つ咳払いをした。


「そうね。君はこの後に約束があるようだし、手早く用件だけ済ませてしまいましょうか」


 そう言うと、セリカは机の上に置いていた物を手に取って、応接セットのアレックスの元まで戻って来た。


「渡したいものというのは、これの事です」


 セリカがアレックスに手渡してきたのは、腕章と一冊の冊子だった。

 受け取った腕章はセリカの左腕に付けられているものと同じで、金糸で縁取られた鮮やかな赤い色合いをしている。

 手に持った感触とその見た目から、かなり上質の布地を使っているのが分かる。


「生徒会の役員になったら、その腕章を身に着ける事になっているのよ。後、冊子の方は生徒会役員の仕事についてまとめられたものだから、寮に帰ってからでいいので目を通しておいて欲しいの」

「そうですか。分かりました」


 アレックスは、受け取った腕章を左腕に着けた。

 そうして、受け取った冊子を自分の鞄の中にしまう。


「その腕章も冊子も貸与品、貸した物だから大事に取り扱ってね。別に傷付いたからといって弁償する必要はないのだけれど、それは来年のアウロラ第一学年も使う物だからね。……さて、用件はこれでお仕舞いよ」

「それだけですか?」

「えぇ、ここに連れてきた理由の半分は、生徒会室の場所を案内するためだもの。もう半分が、それを渡す事なのよ。だから、今日の用事はこれでお仕舞い。……生徒会の仕事についてはその冊子にも書いてあるから、しっかり読んでおいてね。それに、お友達と約束があるのでしょう?私とはまた今度、来小月の定例会で会いましょう。そうそう、それと生徒会の定例会は毎小月の初め、一日目の放課後に開かれていますから、覚えておいてね。他に臨時会もあるけれど、それはその都度知らせる様になっているから、安心してね」


 セリカは立ち上がると、アレックスに手を差し出してきた。

 アレックスも立ち上がって、差し出されたセリカの手を取る。

 握手をしながら、セリカはにっこりとほほ笑んだ。


「本当を言うと、スプリングフィールド君が生徒会入りをすぐに承諾してくれて助かったわ」


 どういうことかとアレックスが問えば、セリカは素直に教えてくれた。

 生徒会への勧誘は、通例であれば最初に各学年総代に声を掛ける。

 ただ、これは断られる場合もあるので、その場合は学術首席、武術首席、魔術首席の順番に声を掛ける事になっている。

 それでも断られたら、今度は学術次席という風に声を掛ける決まりになっているらしい。

 ただ、今までのアウレアウロラ学園の歴史に、次席に声掛けが成された事例はないそうだ。

 そこに来て、今年のアレックスの成績である。

 アレックスは今年のアウロラ第一学年総代であり、その成績は学術、武術、魔術の首席でもある。

 仮にアレックスに生徒会入りを断られたら、次に声掛けするのは学術次席の生徒だった。

 そうなると、学園始まって以来初の学年総代や首席生徒以外からの生徒会入りとなる所だったのだ。

 それは、学園の伝統や面目といった意味では外聞が悪いとも言える。

 そのため、もし仮にアレックスが生徒会入りを断っていたら、説得し勧誘する所から始める必要があったのである。

 だから、アレックスが素直に生徒会入りを承諾してくれたことに、セリカは正直に言ってほっとしているのであった。


「そんな事情があったのですね。分かりました。生徒会に入るからには、生徒会役員として恥ずかしくない様に微力を尽くします」

「フフッ、ありがとう、スプリングフィールド君。それでは、貴方の力に期待させてもらうわね。今日は本当にありがとう。それでは、また来小月の定例会で会いましょう。気を付けて帰りなさいね」

「はい、ありがとうございます。それでは、失礼いたします」


 そう言って、アレックスはセリカに一礼すると部屋を出た。

 生徒会室を退出したアレックスは、その足で学生寮へと歩み出した。

 少々時間は経っているが、まだ日は落ちてはいない。

 学生寮の夕食の時間までは、まだまだ時間があるはずであった。

 アレックスは、教室でエドウィン達と交わした約束通りにエドウィン達が中庭で自主訓練をしているならば、まだまだ十分に間に合うはずだと考える。

 講義棟区画を通り過ぎ食堂区画を抜けて、アウロラ第一学年の一号棟の近くにまで来る。

 すると、微かな気合の声と何かがぶつかり合う様な硬質な音が聞こえてきた。

 アレックスは少しだけ考えると、学生寮には寄らずに音の聞こえてきた方――学生寮の間にある中庭の一つ――に歩いていった。

 約束通りなら、そこでエドウィン達が自主訓練をしているはずだった。

 学生寮の周囲と各区画を結ぶ通路を囲むように植栽された木々の間を抜ける通路を進み、植え込みの植物を避ける様にして中庭へとやって来る。

 すると、そこには予想通りエドウィン達の姿があった。

 彼らの姿を認めたアレックスは、腰のポシェットの口を大きく開いて手に持った鞄を収納する。

 代わりに、ポシェットから二本の木剣を取り出した。

 木剣を手に、アレックスは自主訓練に励むエドウィン達に声を掛ける。


「皆さん、遅くなりました。それで、お二人はどうしたのですか?」


 アレックスの視線の先にいたのは、レオンとリリーの二人、共に武術第一組の生徒だった。

 アレックスが挨拶の意味を込めて手を上げる。

 それに応えて二人は言葉を返した。


「あら?スプリングフィールド君。貴方も稽古に来たの?」

「よう、スプリングフィールド。実は、中庭でストームエッジ達が剣を振っているのを見かけてな。せっかくだから混ぜてもらってたんだ」


 リリーに続いて、レオンも手にした木剣を掲げて見せた。

 それを見たアレックスは、笑顔を浮かべる。


「そうだったんですね。私もエディ……ストームエッジ君達と一緒に稽古をする約束をしていたんです」


 アレックスの言葉にレオンは頷いていたが、リリーは不思議そうな顔を浮かべてアレックスに問いかけてきた。


「そうなの?でも、貴方達は同じ魔術第一組でしょ?なんで、貴方だけ遅れて合流しているのよ?」


 一緒に来ればいいのにとつぶやくリリーに対して、アレックスは生徒会長に呼ばれていた事を話した。

 アレックスの話に、二人は驚きの声を上げる。


「おぉ、すげぇな!生徒会かよ!」

「おめでとう、スプリングフィールド君。流石、学年総代ね」

「えぇ、二人ともありがとうございます」


 二人に返礼を返したアレックスは、四人の後でこちらの様子を窺っていたマリーに歩み寄る。


「マリーさん、これを……。そうしたら、夕食の時間までまだ少しありますから、自主訓練を続けましょうか?」


 アレックスは、マリーに持参した予備の木剣を手渡した。


「あの、アレックス様。本当にお借りしてもよろしいのですか?」


 遠慮がちに尋ねてくるマリーに、アレックスは笑顔で応じた。


「はい、構いませんよ。それよりも、これからも自主訓練を続けるなら、自分用の木剣を準備した方が良いでしょうね。そうですね。良かったら、明日にでも食堂区画の売店まで一緒に訓練用の木剣を見に行きましょうか?」

「え!良いんですか?」

「もちろんです。というより、私から誘っているのですから、ご遠慮なさらずに……」


 アレックスの誘いに、マリーははにかんだ笑顔を浮かべる。


「お誘いいただきありがとうございます、アレックス様。本当を言うと、自分ではどうしたらいいのかわからなくって……」

「それでは、明日の放課後にでも一緒に売店を覗いてみましょう」


 そうして、マリーと明日の予定を打ち合わせた後、夕食の時間までの暫しの間、アレックス達は剣の稽古をするのだった。

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