第二十七話・学生寮へ
アレックスとシェリーが昼食を終えて教室に戻って来たのは、お昼休みの終る少し前だった。
教室を見回せば、既にほとんどの生徒は昼休みを終えて教室へと戻って来ていた。
アレックスは、昼食を共にしたシェリーと共に教室へと入室していく。
そのアレックスに声を掛けてくる者がいた。
「おい!スプリングフィールド。ちょっと話がある」
声のした方を見やれば、二人の少年がアレックス達の方に歩み寄って来た。
「エディ、いきなり呼び捨ては失礼だよ」
「うるさいな、分かったよ」
二人は、昼休みになった時に突っかかって来たエドウィン・ストームエッジと、その友人らしいヴァレリー・ヒューエンデンスだった。
「えぇっと、スプリングフィールド……君。さっきはいきなり突っかかったりして悪かった。別に喧嘩がしたいとかそういうわけじゃない。…………、ごめんなさい」
そう言って頭を下げたエドウィンは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「アハハッ、本当に悪気はなかったんだ。許してあげて欲しい」
ヴァレリーはそう言って、エドウィンの肩を押してアレックス達に向き直らせた。
「エディ、自己紹介もしてないだろう?」
「ウッウルサイな、今からするんだよ」
エドウィンは身じろぎしてヴァレリーの手を振り払って、アレックス達に向き直った。
「……、俺の名前はエドウィン・ストームエッジ。西方領ストームエッジ子爵家の第三子だ」
「じゃぁ、僕も改めて自己紹介かな?僕は、ヴァレリー・ヒューエンデンスだよ。西方領ヒューエンデンス侯爵家の第十子なんだ。よろしく」
名乗り上げた後はそっぽを向いたエドウィンとは違い、ヴァレリーは二人にしっかりと向き直った。
そうして、エドウィンに続いてヴァレリーも改めて自己紹介をするのだった。
そんな二人に対して、アレックスは微笑んで見せながら自分も改めて自己紹介をした。
「私は、アレクサンダー・アリス・スプリングフィールドです。東方領スプリングフィールド選公爵家の第三子です。よろしくお願いしますね」
そう言って、アレックスは隣に発つシェリーに場を譲る。
「私は、シェリー・ランズベルクよ。北方領ランズベルク伯爵家の第五子なの。よろしくお願いするわね」
シェリーは自己紹介と共に見事なカーテシーを披露する。
「こちらこそよろしく。……ほら、エディも」
「オウ……、よろしく頼む」
ヴァレリーはにっこりと笑って一礼した。
ヴァレリーに背を押されたエドウィンも、顔を赤くしながらシェリーに言葉を返した。
「えぇ、よろしくお願いするわね」
四人がそうして挨拶を交わしている間に、昼休みの終了を告げる鐘の音が聞こえてきた。
その鐘の音に合わせるかのように、担任教師のオールソン先生が教室に現れた。
オールソン先生がやって来た事で、教室のあちらこちらでおしゃべりに興じていた生徒達は慌ててそれぞれの席に着いていった。
アレックス達も自分の席に着くべく散らばって行く。
教壇に立ったオールソン先生は、ざわつく教室内を見回して声を上げた。
「はい、皆さん、注目!静かにしてくださいね。……、それでは皆さん、お昼ご飯はしっかりと食べられましたか?今後もお昼ご飯は自分で考えて食堂等でそれぞれ取る様になります。朝食と夕食はお昼を食べた食堂とは別に、これから案内する寮に併設されていますからそちらで取ることになります。それでは、これから皆さんが過ごすことになる学生寮に案内しますから、ついて来て下さいね」
そう言ったオールソン先生は教室から出ていった。
アレックス達学生もオールソン先生の後に続いて教室を出た。
「はい!皆さん、並んで!……、それでは、行きますよ!」
廊下で待っていたオールソン先生は、生徒達を整列させて教室の中を確認する。
そうして全員が整列したことを確認してから、学生寮に向けて出発したのだった。
……
…………
………………
オールソン先生の先導で、アレックス達第一組の学生達は学生寮へとやって来た。
学生寮のある区画の入り口には、この区画の地図が掲示してあった。
それによると、この学生寮区画には三十棟の建物が並んでいる。
学生寮は一学年につき三棟が割り当てられており、初等部アウロラが使用するのは十二棟である。
オールソン先生は第一学年に割り当てられた学生寮の一つに入っていく。
その建物は四階建てで、第一学年に割り当てられた他の二棟より一回り小さい建物であった。
「はい、皆さん、どんどん入ってください。……、それでは、ここ、第一学年一号棟が皆さんの生活する学生寮になります」
オールソン先生は、ロビーに集合した生徒達を見回して言葉を続けた。
そうして、ロビー脇にある掲示板横の館内図を指差して説明していく。
館内図によると、一階はロビーとラウンジ、食堂に男女別のトイレと浴場となっており、二階から上が学生達の部屋になっていた。
トイレの扉はラウンジに接しており、丸と三角を使った男女別のピトグラムが掲示してある。
二階から上の階には、ラウンジ横の螺旋階段から上がる様になっていた。
「ここが第一学年一号棟のロビーで、この奥にラウンジと食堂、男女別の浴場があります。皆さんの生活する部屋は二階から上ですよ。皆さんには、それぞれ前もって成績順に部屋が割り振られています。三か月後の実力試験の成績次第で、この部屋は移動する事になりますからね。ですから、自分の使う部屋は普段から綺麗に使用してくださいね」
オールソン先生の指示した館内図には、各部屋に名前の書かれた札が下げられている。
各階は中央に廊下があり、その両側にそれぞれ十部屋、合計二十部屋が並ぶ造りをしている。
四階だけは少し違って、二階、三階より少し広い部屋が五部屋で合計十部屋が並び、四階の敷地の三分の一は遊戯室になっていた。
アレックスが自分の名前を探すと、四階の一番手前、東側の部屋がアレックスに割り当てられた部屋だった。
「それでは、皆さん、食堂に移動してください。そちらで、この学生寮の管理人さん達を紹介しますからね。部屋割りは、後でまた確認してください」
そう言って、オールソン先生は食堂へと移動していった。
アレックスら学生達もその後に続く。
廊下から食堂に入ると、玄関から見て奥側にキッチンがあり、手前の広いスペースには幾つもの長机と椅子が並べられている。
キッチンカウンターの前には、数人の男女が整列していた。
食堂に入ったアレックスら学生達は、オールソン先生に促されて思い思いに食堂の席に腰掛けていく。
全員が席に着き、話を聞く体勢が取れた事を確認したオールソン先生は、キッチンカウンターの前に整列した大人達を紹介していった。
一通りの紹介が終ると、列から女性が一人前に進み出てきた。
彼女は、特徴的な羊角を一撫ですると咳払いをしてにっこりと微笑んだ。
「今紹介されました通り、私がこの寮の管理人、寮母をしていますマルチナ・カンタスです。気軽に寮母さんと呼んでくださいね。普段の生活で困った事があれば、私に相談してください。それではこの学生寮の規則を説明しますので、生徒手帳を出してください」
それからは、オールソン先生に代わって寮母さんが寮生活の注意点を説明していくのだった。
学生達は、生徒手帳に書かれた学生寮の規則を読みながら、寮母さんの話を聞いていった。
一通り食堂や浴場の使い方や寮の規則の説明が終わった後は、学生それぞれに割り当てられた部屋を確認する事になった。
「ロビーに部屋割りが掲示されていますから、掲示板を確認して、それぞれの部屋に移動してください。皆さんの荷物は、既にそれぞれの部屋に運び込まれています。先生と寮母さんが皆さんの部屋を回っていきますから、各自で荷解きを始めていて下さいね。それでは、一旦解散します。自分の部屋に移動してください」
オールソン先生の言葉に、学生たちは一斉に動き出した。
アレックスも、念のためもう一度部屋割りを確認してから、自分の部屋に向かうのだった。
四階まで上がると、階段横は小さな談話スペースになっており、小さなテーブルとソファが置いてあった。
北側にはトイレ、南側には通路が伸びていて東西に扉が並んでいる。
通路の突き当りにあるのが遊戯室だ。
そして、アレックスに割り当てられた部屋は、通路の一番手前の東側の部屋だった。
アレックスは、部屋の扉を前に一つ深呼吸をする。
そうしてこれからの学園生活について気持ちを新たにして、自分に割り当てられた部屋へ入っていった。




