第二十五話・オリエンテーション
アレックス達新入生は、教師に連れられて初等部アウロラの講義棟に移動してきた。
王立アウレアウロラ学園の講義棟は全部で十棟あり、その一つ一つが各学年の講義棟になっていた。
初等部アウロラの第一学年の講義棟に入ったアレックス達は、教師の先導に従って教室まで移動してきた。
そうして教室に到着した教師は、教壇に立つとアレックス達の座席を指示し始めた。
「教室では、あらかじめ決められた座席がありますので、生徒の皆さんはそちらに着席してもらいます。座席表はこちらになりますので、皆きちんと確認して着席してください」
そう言って、教師は黒板横の掲示板に張り出された座席表を指さした。
アレックス達新入生は、張り出された座席表を確認してそれぞれの席へと移動をし始める。
この教室の机の配置は一列八席で縦七列あり、一列目と七列目に六人、二列目と六列目に七人、三列目から五列目に八人が座る様になっている。
座席表によれば、アレックスの座席は四列目の一番前の席だった。
したがって、アレックスの座席は教壇の正面に位置する事になる。
(教壇の真正面ですね。真面目に授業を受けるのならば、一番良い席という事でしょうか?)
ともあれ、アレックスは座席表で確認した自分の座席に着席した。
程無くして、全員の着席を確認した教師が教壇から教室を一望して話を始めた。
「はい、皆さん、静粛に。……静かにしてください、お話を始めますよ。この教室が、これから三か月、皆さんの勉強する教室になります。三か月後の夏の祝祭日に合わせて学力試験が行われて、その成績によってクラスの入れ替えが行われます。試験の成績が悪いと下位のクラスに異動となりますから、皆さん頑張って勉強してくださいね」
そう言って、教師は一旦言葉を区切った。
「私は、学術上位者であるこの学術第一組の担任教師を務めますフローレシア・オールソンといいます。学術第一組の魔法学の授業も担当しますので、皆さんよろしくお願いしますね」
担任教師のフローレシア・オールソンは、自己紹介を軽く済ませると次の話に移っていった。
「次に、武術と魔術のクラス分けを発表します。武術と魔術のクラスについても、学力試験と一緒にそれぞれの実力試験が行われて、試験の成績によってクラスの入れ替えが行われますので注意してください。では、今から所属クラスを識別するための徽章と校則が書かれた生徒手帳を配りますので、名前を呼ばれた順番にこちらに来てください。それでは始めますよ。アレクサンダー・アリス・スプリングフィールド君!」
「はい!」
名前を呼ばれたアレックスは、席を立ち教壇の前に進み出た。
教壇の前に立ったアレックスに対して、オールソン先生はニコリと笑って語り掛けてきた。
「はい、スプリングフィールド君。流石は新入生総代ですね。貴方は学術だけではなく武術と魔術のクラスも第一組ですよ」
そう言って、オールソン先生は徽章と生徒手帳をアレックスに手渡した。
徽章は三枚の小板を枠にはめ込んだ物で、枠は金色にピカピカと輝いている。
徽章にはめ込まれている小板には、それぞれに本と剣、杖の意匠が施されており、その横に数字が記されている。
それぞれの小板の意匠の意味は、本が学術、剣が武術、杖が魔術を意味している。
アレックスの受け取った徽章は、どの小板にも『1』と記されていた。
つまりは、学術、武術、魔術のどれも第一組という事を現しているのだ。
「その徽章は、制服の左胸のポケットの上の位置に付けます。取り付け方は分かりますか?」
「はい、先生、分かります。自分で付けられるので、大丈夫です」
「そうですか。それでは、席に戻る前に皆に向かって自己紹介をお願いします」
オールソン先生に促されて、アレックスは教壇の横に立って教室を見回した。
生徒達の視線が、アレックスに注目しているのが分かる。
「アレクサンダー・アリス・スプリングフィールドです。今年の第一学年総代を務めさせていただいています。皆さん、よろしくお願いいたします」
「はい、それでは席に戻って、先程渡した徽章を付けてくださいね」
アレックスは、一礼して席に戻ると早速受け取った徽章を左胸に付けた。
今アレックスの身に着けている服は、王立アウレアウロラ学園の制服だった。
王立アウレアウロラ学園の制服のデザインは、濃緑色のブレザーに白いシャツとチェック柄のズボンである。
徽章を付け終えたアレックスは、ちらりと他の生徒の様子を窺っていた。
アレックスが徽章を受け取ったその後も、生徒が次々に名前を呼ばれて徽章と生徒手帳を受け取って自己紹介をしていく。
そうして全員の徽章と生徒手帳を配り終えると、オールソン先生は全員の徽章がきちんと付けられているか確認して回った。
徽章を上手く付けられていない生徒には、オールソン先生が徽章を付け直していく。
それから、続いてアウレアウロラ学園の校則についての説明が行われていった。
「……それでは、アウレアウロラ学園の校則、つまり学園生活を送る上での決まり事についての説明は以上です。この後は、皆さんの生活する学生寮に案内します。学生寮への案内は、お昼休みが終わった後になります。お昼ご飯が終ったら、またこの教室に集合して下さい。これで、午前のカリキュラムを終了します。そうしたら、号令を……、そうですね、スプリングフィールド君、お願いできますか?号令は『起立、礼』、そうしたら皆で『ありがとうございました』ですよ。授業を始める時には『お願いします』です。覚えておいてください」
「はい、先生、分かりました。……起立!礼!」
アレックスの号令で、生徒達が一斉に立ち上がって礼をする。
「「「ありがとうございました!」」」
生徒達の声は若干バラバラではあったものの、おおむね揃って声を上げる事が出来た。
オールソン先生は、生徒達の挨拶に満足そうに頷いて教室を後にした。
オールソン先生が出ていくと、途端に教室は騒がしくなっていった。
アレックスの元にも、数名の女子生徒達が集まって声を掛けてきた。
「スプリングフィールド君って、あの選公爵家のスプリングフィールド家なのよね?」
「新入生総代って、すごいね!今度勉強を教えて!」
「スプリングフィールド君って、武術も魔術も第一組なんでしょ?すごいなぁ」
「ねぇねぇ、お昼を一緒に食べましょう?」
迫ってくる女子生徒の勢いに、アレックスはタジタジになってしまう。
そうしていると、一人の男子生徒が近づいてきてアレックスに声を掛けてきた。
金髪碧眼で年の割に凛々しい顔つきで体格の良い男子生徒だった。
「おい!スプリングフィールド!選公爵家だか何だか知らないがいい気になるなよ!俺の家だって、ローランディア選王国の建国から続く名家なんだ!って、なんだよ?」
そう言って声を荒げたのは、隣の席——学術第一組の次席の席だ――に座っていた男子生徒だった。
男子生徒はアレックスに鼻息も荒く詰め寄ろうとして……女子生徒達に阻まれていた。
(彼は確か……、エドウィン・ストームエッジ君でしたか)
アレックスに詰め寄ろうとした少年——エドウィンの胸には、『1・1・1』と数字がはめ込まれた徽章が付けられていた。
アレックスに詰め寄ろうとしていたエドウィンだったが、今は逆に女子生徒達に詰め寄られていた。
「選公爵家だか何だか知らないがって、言うに事欠いてそれはないでしょう?」
「名家だっていうなら、選公爵家の方が上でしょう?」
「学術第一組の一員のくせに、頭悪いんじゃないの?」
「何いきなり喧嘩売ってるのよ、アンタ馬鹿なの?」
女子生徒達に詰め寄られて怯んだエドウィンは、キッとアレックスを睨みつけた。
「チクショウ!いい気になるなよ!第一学年総代だからっていって、負けないからな!」
そう言うなりエドウィンは教室の外に駆け出していった。
アレックスは声を掛ける事も出来ずに、ただ彼を見送るしかできなかった。
そんなアレックス達とのやり取りを見ていた男子生徒の一人が、苦笑を浮かべながらアレックスの元に近付いて来た。
明るい髪色の茶髪に黒目、少し垂目の愛嬌のある可愛らしい顔立ちの男子生徒だ。
彼の胸の徽章には『1・2・1』と記されていた。
「急に騒がしくしてごめんね?エディは決して悪い奴じゃないんだけど……。あっと、いきなりごめん。僕は、ヴァレリー・ヒューエンデンス。君が第一学年総代のアレクサンダー・アリス・スプリングフィールド君だよね?よろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
そう言って、二人は握手を交わした。
「あっと、いけない!エディの奴を放っておけないや。お昼を一緒に食べる約束なんだ。それじゃぁ、また後で!」
「えぇ、また後で!」
アレックスに手を振って、ヴァレリーはエドウィンの後を追って駆け出していった。
「何だか楽しい学園生活になりそうですね。さて、私達もお昼ご飯を食べに行きましょうか?」
こうして、二人を見送ったアレックス達も、遅ればせながら昼食を取るために食堂へと向かう事にしたのだった。




