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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
少年の章

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第二十二話・園遊会

 大陸統一歴2313年、4月中小月春の季節祭

 ローランディア選王国、王都セントラル

 スプリングフィールド選公爵邸にて――


 フレデリックが来た翌日は、祝祭日――春の季節祭だった。

 この日、スプリングフィールド選公爵家では、王都において盛大な園遊会が開かれていた。

 庭園で開かれている園遊会には楽団や芸人が数多く呼ばれており、その楽団の奏でる軽快で華やかな音楽と芸人たちの見せる様々な芸が来た者達を楽しませている。

 とは言っても、今回のスプリングフィールド選公爵家主催の園遊会に、アレックスは出席してはいない。

 なぜなら、アレックスは兄姉とは違ってまだ社交界へのデビュー——言い換えればローランディア選王国の貴族社会における成人——をしていないからだ。

 しかし、園遊会のその賑やかさは、屋敷の外れにある鍛錬所にいるアレックスの耳にも微かに聞こえてきていた。

 実は、庭園で華やかな園遊会が開かれている裏で、アレックスは久々に執事のアランと剣の稽古に励んでいたのだった。


「庭園の方は、ずいぶんと賑やかなようですね」

「アレックス様、気になりますか?」


 掛かり稽古の攻守が交代して一区切りがついた所で、アレックスはアランに問いかけた。


「気にならないかと言われれば、気にはなります。ですが、いずれは嫌でも経験する事です。それに、大人達ばかりの所に子供が混ざっても、遊び相手もいないのではつまらないですよ。それよりは、アランと剣の稽古をしていた方がずっと楽しいのですよ?」

「坊ちゃまにそう言っていただけるとは、このアラン、光栄の極みにございます」


 アレックスの言葉に、アランは微笑みながら一礼して答えた。


「それで、アラン、こうして稽古をしておいて今更なのだけれど……。稽古の相手をしてくれるのは嬉しいのだけれど、貴方は父様の傍についていなくても良かったのですか?」

「はい、坊ちゃま。旦那様からは、坊ちゃまのお相手を務めるように申し付かっております。それに、王都選公爵邸には優秀な使用人が集まっております。今更私が手を出せば、今日まで園遊会の準備をしてきた彼らの仕事に水を差す事になりますし、かえって邪魔になってしまいます。ですから、坊ちゃまはお気になさらずに、稽古に集中なさって下さい」


 アランの言葉に、アレックスは頷き返した。

 そうして、僅かに乱れていた息が整った所で、アレックスはアランに向けて剣を構え直した。


「それもそうですね。では、続きをお願いします」

「畏まりました。それでは、どうぞ打ち込んできてください」


 そうして、アレックスはアランと剣の稽古を再開したのだった。

 それからしばらくの間、鍛錬所にはアレックスとアランの剣を打ち合わせる音だけが高々と響き続けるのであった。



……

…………

………………



 同日、昼

 ローランディア選王国、領都スプリングフィールド

 領主館にて――


 王都で春の園遊会が催されていたその頃、東方領にあるスプリングフィールド選公爵領の領都スプリングフィールドの領主館でも春の祝祭日を祝う園遊会が開かれていた。

 例年なら、この時期は王都セントラルへと赴く当主フレデリックに代わり、その妻であるキャサリンが主催者ホストとなって園遊会を開いていた。

 しかし、今年はアレックスのアウレアウロラ学園入学式に出席するため、夫婦そろって王都セントラルを訪問しており領都スプリングフィールドには不在である。

 そのため、今年の園遊会では、スプリングフィールド選公爵家嫡子であるランドルフ・クロヴィス・スプリングフィールドが名代を務めていた。

 もちろん、ランドルフが一人で園遊会の全てを取り仕切っているわけではない。

 園遊会の準備自体は王都セントラルに向かうまで当主であるフレデリックが取り仕切っていたし、ランドルフは補助としてその準備を手伝っていただけだ。

 そして、園遊会の準備は、フレデリックが王都に発つ前に終わらせてある。

 とは言え、ならば当日は何もしなくて良いのかと言われればそうではない。

 スプリングフィールド選公爵の名代として、園遊会開催の挨拶をしたランドルフだったが、本日の仕事はここからといっていい。

 現に、次期当主であるランドルフの前には、既に挨拶に訪れる東方領の貴族達が列をなしていた。


「本日は、園遊会にご招待いただきまして、誠にありがとうございます」

「流石はスプリングフィールド選公爵家の次期当主様、素晴らしい挨拶でございました」

「御父上に似て、ご立派になられましたな」

「ランドルフ様におかれましてはご機嫌麗しく……」

「御尊顔を拝謁賜り、恐悦至極にございます」


 長々と続いた貴族達の挨拶の列も終わった所で、ランドルフの元に妹――レスリー・ヴィクトリア・スプリングフィールドがやって来た。


「お兄様、お疲れ様!貴族達のお相手なんて、ご苦労様よね」

「レスリー、そう思うのなら、少しくらい手伝ってくれても罰は当たらないぞ」

「何を言うかと思ったら……。兄様、これもスプリングフィールド選公爵家次期当主としての立派な務めよ」

「まぁ、無事に当主になれるのならな。それにしても貴族達の相手は正直気が滅入る……。はっきり言って、疲れた」


 レスリーに向かって、ランドルフは肩をすくめて見せた。

 大袈裟に肩を回して凝りを解す様な仕草をするランドルフの様子に、レスリーはおかしそうに笑って見せた。


「それなら兄様、丁度あちらで今から演劇が始まるのよ。良かったら、一緒に観劇しない?」

「演劇か……。ここを抜け出せるのなら何でも良い所だけど、そうも言ってられないんだよな……」


 ランドルフの視線の先には、こちらへ向かってくる大人たちの集団がいた。

 それを見たレスリーは少しだけ不満げな表情を浮かべたが、直ぐに思い直して笑顔を浮かべた。


「むぅ、陪臣家の面々ね?私、あの方達と顔を合わせると、淑女らしくして下さいだの剣を振り回すのは淑女としてはしたないだのと、色々文句を言われるのよね」

「分かってるんだったら、少しは改めろよ」

「知~らない!それじゃぁ、兄様、あの人達の相手は任せるわね。もうすぐ演劇が始まっちゃうから、私行かなくちゃ」


 そうして、観劇に向かうレスリーと入れ替わる様にしてスプリングフィールド選公爵家の陪臣達がやって来た。

 彼等の年恰好はバラバラで、年配の者もいればランドルフより少し上といった感じの若者まで様々だ。

 次のランドルフの仕事は、貴族の挨拶の列に代わって出来上がった陪臣達の挨拶の列を捌く事になる。

 まだ選公爵立エクウェス学園の学生であるランドルフとしては、まだあまり陪臣達との交流が多くはない。

 そこに来て、今回の園遊会でのフレデリックの名代の仕事だ。

 これは、ランドルフが次期当主として表に出る事になる初仕事でもある。

 だから、こうして陪臣達が挨拶の列を作ってまで顔合わせをしようとするのだった。

 結局、貴族、次いで陪臣に拘束されっぱなしのランドルフが園遊会の出し物を見る余裕等ははなからなかったのだった。

 そうと分かったランドルフは、陪臣達に気付かれない様にそっと諦めの溜息を吐くと、笑顔で彼らを迎えたのだった。



……

…………

………………



 同日、夜

 ローランディア選王国、王都セントラル

 スプリングフィールド選公爵邸にて――


 園遊会が無事に終了したその日の夜……

 夜遅く、アレックスは一人で・・・寝る準備をしていた。

 もっとも準備といっても、後ろで簡単に纏めていた髪を解いたり、寝間着に着替えたりする程度の事だった。

 とは言え、高位貴族家の令息であるアレックスなら、普通はそういう諸々の支度などはメイドが行うものだったりする。

 にもかかわらず、アレックスが自分で支度をしているのには訳があった。

 明日は、いよいよ王立アウレアウロラ学園の入学式である。

 入学式が終わったその日には、新入生は学生寮に入ることになる。

 学園では、貴族も平民も隔てなく学生は平等に扱われる。

 もちろん、身分の差がなくなるわけではないが、建前では完全に平等に学生なのだった。

 当然、学生寮に入れば平民の学生と同じ様に身の回りの事は自分で片付けなければならない。

 その練習の意味もあって、入学試験が終わってからは朝夕の身支度を整えるのはアレックス自身で行う様になっていた。

 始めの内はメイドが付き添っていたのだが、今ではそれもない。

 というのも、アレックスが早々に一人で身支度を整えられるようになったからだ。

 もっとも、前々世、前世の記憶のあるアレックスにとっては、この程度の事は造作もない。

 寧ろ、今までのメイドに傅かれる生活の方が慣れるのに時間がかかったくらいだ。


「さて、明日も早いですから、もう寝る事にしましょう。あぁ、でも久しぶりのアランとの稽古は少しばかり疲れましたね」


 簡単に髪を梳って身支度を整えたアレックスは、そっとベッドに潜り込んでいった。

 アレックスは、今日の鍛錬を思い出していた。

 アランとの鍛錬は、今では剣のみではなく絶技マスターアーツの訓練をも含んだものになっている。

 そのため、鍛錬の内容はもはや子供のそれではないレベルで行われているのだった。

 何だったら、騎士団の訓練でもそうそう見る事の無い様な厳しさだ。

 それに比べると魔術マジックの方はどうだろうかと、アレックスは悩んでいた。

 今のアレックスの魔術の訓練は、魔素マナ探知と魔力マジカ操作という魔術行使に必要なの基礎技術の修練しかできていなかった。

 そのため、個別の魔技マジックスキルの修練はほとんどできていない。

 今のままだと、魔術の腕前は頭打ちであった。

 それは、入学試験で雷撃衝射ライトニングボルトの制御に失敗して、右手を負傷した事からも明らかだった。

 しかし、入学すれば状況は変わる。

 学園では、座学のみならず実践も通して、学問や武術と魔術などを幅広く学ぶ事が出来る。

 魔技の実践を通した訓練も、学園ならば出来るだろう。

 いよいよ、明日は入学式だ。

 アレックスは、これから始まる学園生活を楽しみにしながら眠りについたのだった。

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