第十六話・試験開始
アレックスが席に着いてから暫くの時が過ぎた。
暫く大人しく待っていると、教室の扉が開いて一人の女性が入室してきた。
「皆さん、大変お待たせ致しました。これより入学試験を始めます。保護者の方達は試験が終わるまで廊下か待合室にてお待ちください」
試験監督の言葉に、保護者達は教室の外へと出ていった。
「それでは、アレクサンダー様、こちらの筆箱を……。では、私は外でお待ちしております」
アレックスは、執事から筆記用具の入った筆箱を受け取った。
そうして、筆箱を渡した執事は一礼をすると教室から出ていった。
やがて、保護者達が全員教室を出たのを確認すると、試験監督の女性は紙束を手に話を始めた。
「筆記試験は四回に分けて行われます。これから、第一試験の問題用紙を配ります。始めの合図があるまでは、用紙は裏返しておくように。……一枚とったら後ろに回しなさい」
試験監督は、前列の受験生達に次々と紙束を渡していく。
受け取った受験生は自分の分の用紙を取って、残りの用紙を後ろに回していった。
アレックスの席にも、前の席の受験生から問題用紙が回って来た。
アレックスはその受験生から問題用紙を受け取り、一枚取ったら残りを後ろの席の受験生に手渡した。
そうして、一通り問題用紙が行き渡ったのを確認した試験監督は、教壇に立って声を上げた。
「最初の試験は、制限時間は三十分です。終了十分前になったら合図をします。……それでは、試験開始」
試験監督の開始の声に合わせて、ペラペラと紙を捲る音がする。
アレックスも、自分の問題用紙を表に返して問題を解き始めた。
第一試験は、ローランディア選王国では国語となっている大陸共通語だった。
出題されている問題はアレックスにとっては簡単な物ばかりで、アレックスはスラスラと問題を解いていった。
……
…………
………………
試験科目は、簡単に言うと国語と算数、理科、社会科目の四教科に分かれる。
それぞれを四回に分けられた筆記試験が終わる頃には、昼休みの時間になっていた。
アレックスは、少しだけ考えた後でアウレアウロラ学園初等部の食堂に向かう事にした。
校舎一階の大食堂は在校生だけでなく試験を受けに来た受験生でもごった返しており、料理を提供しているカウンター内では料理人達が忙しく動き回っているのが遠目でも見て取れた。
食堂にいる人々は、アウレアウロラ学園の制服であるモスグリーンのブレザーにチェック柄のズボンやスカートを身に着けた学生達の姿が三割、他は思い思いの服装に身を包んだ受験生とその保護者だ。
アレックスは、食堂に並ぶ受験生達の列の一つに並んだ。
「アレクサンダー様、わざわざご自身で列に並ばれなくとも、私が昼食をお持ちいたしますが……」
「受付の列に並ぶ時も言いましたが、学園では身分は関係ありません。ですから、私もこうして皆と一緒に食事の列に並ぶのです。今日は、貴方も一緒に食べなさい」
「しかし……、いえ、左様でございますか。ご立派なお心掛けに感服いたしました」
執事はそう言うと、アレックスと共に食堂の列に並んだ。
食事を待つ受験生達の列は少しずつ前へと進んでいく。
暫くして、アレックス達の順番が回って来た。
「はい、お待ち!今日は日替わり定食だけだから、ごめんなさいね。食べ終わったら、あっちの端にある食器の返却口に、皿を返しておいておくれよ」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
アレックスはカウンターの女性から昼食の乗ったランチプレートを受け取って、その場を離れた。
そうして、食堂の空いている席を探す。
暫く席を探して周囲を見回していると、カウンターから離れた食堂の端の位置に丁度良く二人分の席が空いている長テーブルを見つけ、執事と共にその席に向かった。
二人が席に近付くと、十人掛けの長テーブルの様子が見て取れた。
「こちらに相席してもよろしいですか?」
アレックスが先客に声を掛ける。
「え?はい、どうぞって、ア、アレックス様っ!」
「お久しぶりですね、マリーさん」
アレックスは、先に席に着いていたマリーに微笑みかけた。
そうして、執事が席を引くとマリーの隣に腰掛けた。
「そう言えば、マリーさんもアウレアウロラ学園初等部を受験されているのですね?」
「はっ、はい。アレックス様もなんですね。……それでは、四月からはアレックス様と同じ学園で一緒にお勉強ですね」
アレックスの言葉に、マリーははにかんだ笑顔を浮かべた。
「そうですね。入学試験の結果次第では、同じクラスになるかもしれませんね」
「そうですよね!あぁ、同じクラスになれるといいなぁ。私、王都にはお友達がいなくって、少し寂しかったんです。アレックス様がいてくれて、私とっても嬉しいです」
マリーの笑顔に、アレックスも笑顔で返した。
「学園が始まれば、新しいお友達もできるかもしれませんよ?」
「そうですよね。今からとっても楽しみです」
そうして、アレックスはマリーと他愛の無いお喋りをしながら学園の昼食を楽しんだ。
やがて、食事の終った二人はお互いに別れの挨拶を交わした。
「それでは、アレックス様。残りの試験、頑張ってくださいね」
「えぇ、マリーさんも頑張ってくださいね。それでは、ご機嫌よう」




