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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
少年の章

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第八話・選公爵邸での一日②

 型稽古を始めてからしばらくたった頃……。

 一通りの型を熟したアレックスたちは、二回目の小休憩を取っていた。

 アレックスはメイドの差し出した手拭いで軽く噴き出してきた汗を拭い、用意された果実水を飲んで一息ついていた。

 そのアレックスの元に、騎士の一人が近寄ってくる。


「アレクサンダー様、型を拝見いたしましたがお見事なものです。アラン殿から指導を受けておられるとは聞き及んでおりましたが、想像以上でございました」


 騎士のその言葉にもう一人の騎士も頷いた。


「確かに!アラン殿からアレクサンダー様には既にかかり稽古をつけておられるとお聞きした時にはまさかと思いましたが……、型の習熟具合を見るからに本当の事だったのかと思い直している所です」

「アランから聞いているのですか……。だとしても、次は打ち込み稽古なのでしょう?」


 アレックスの言葉に、騎士達は困った様に顔を見合わせた。


「アレクサンダー様、かかり稽古には、十分な訓練を行うために技の受け手には相応の実力が求められます。このような事を言うのは騎士として恥じ入るばかりではございますが、正直に申し上げれば我々ではアラン殿の様には稽古をつける事は出来ないでしょう。それでもかまいませんか?」


 騎士の言い様に、アレックスは笑顔を浮かべて答えた。


「はい、構いません。私は、今までアランとしか稽古をしていませんから、他の方と稽古をできるというだけでも勉強になるのですから」

「そう仰って頂けるのであれば、幸いです。それでは、休憩はこのくらいにして打ち込み稽古に入りましょうか」

「えぇ、よろしくお願いしますね」


 アレックスの答えに、騎士達は安心したかのように笑顔を見せる。

 そうして騎士達の合図で、従士達とアレックスは二手に分かれた。

 それぞれを二人の騎士が受け持って、打ち込み稽古が始まる。

 アレックスは、目の前に立つ騎士に対して二振りの木小剣を手にして構えを取った。

 騎士の中段に構える剣に対して、アレックスは一足で間合いを詰めると右手の木小剣を素早く突き出す。

 相手の騎士は木剣を立ててアレックスの打ち込みを受け止めた。

 アレックスは、一撃を打ち込んだら素早く下がって残心をとる。


「素晴らしい打ち込みです、アレクサンダー様」

「そういってもらえると、嬉しいですね」


 そうして互いに構え直して、アレックスが再び打ち込む。

 数合の間アレックスが打ち込みをしたら、今度は攻守を変えて打ち込み稽古が続けられていく。

 騎士の放った中段への打ち込みを、アレックスは左手の木小剣で受け止める。

 打ち込んだ騎士が一歩下がって残心を取れば、アレックスも受けた木小剣を構え直す。

 見つめ合うその顔には、自然と笑顔が浮かび上がる。

 お互いに間合いを測り合い、両者の息が合えば続けてさらに打ち込みを行う。

 こうして幾度となく攻守を入れ替えながら、昼食を知らせるメイドがやってくるまで打ち込み稽古は続けられていくのだった。



……

…………

………………



 昼食の後、アレックスは王都邸で自分に与えられた自室に戻っていた。

 午後からは、アレックスのためにアウレアウロラ学園の制服などを用意するための仕立て屋が来訪する事になっているからだ。

 部屋で来客を待つ間、アレックスは魔術の修練をして過ごしていった。

 

「世界に満ちる魔素マナの力よ、我が指先に集いて光となれ、そは道行きを照らす輝きとならん、光魔技マジックスキル小灯火スモールライト


 アレックスは小灯火の魔術を維持したまま、一人ダンスのステップを踏んでいく。

 暫くはそうしてステップを踏む時間が過ぎていった。

 アレックスが一頻りダンスの練習を終えた頃、ドアをノックする音が室内に響いた。

 ドア脇で控えていたメイドがドアを開けて来訪者を確認する。


「どうぞ、入ってください」


 アレックスの許可を受けて一人の壮年男性が入室してくる。

 彼は、この王都選公爵邸に詰めている執事の一人であった。


「アレクサンダー様、お洋服を仕立てるため採寸を行う職人が到着いたしました。このまま、お部屋にお通ししてもよろしいでしょうか?」

「はい、わかりました。構いませんので、お通ししてください」

「はい、畏まりました。それではすぐにお連れいたしますので、もう暫しお待ちくださいませ」


 執事は一礼すると部屋を出ていった。

 そうして、少しの時間をおいて再びノックの音が聞こえてくる。

 アレックスが入室を許可すると、先程の執事が数人の男を連れてきたのだった。

 執事の後について入室してきた男性達の列から、一人の人物が進み出てくる。

 中背中肉でピンと伸びた背筋に白髪交じりの壮年の男だった。

 彼はその頭に狐の耳を持ち、ふさふさとした尻尾を隠そうともしない狐人族であった。


「お初にお目にかかります。私は王都セントラルにて服飾店を経営しておりますジョージ・テイラーと申します。以後お見知り置きを」

「挨拶ありがとうございます、テイラーさん。私はアレクサンダー・アリス・スプリングフィールドです。今日はよろしくお願いしますね」

「はい、畏まりました、アレクサンダー様。それでは早速ではございますが、お服の採寸をさせていただきたく存じます」


 ジョージが合図をすると、そばに控えていた職人たちが動き出した。

 一人がメジャーでアレックスの身体を測り、もう一人の男が計測した体のサイズを手元の紙に細々と記載していく。

 アレックスは、暫くの間は職人の指示に従って体を測ってもらっていった。


「アレクサンダー様のお年でございましたら、お身体も日々ご成長なされるでしょうから、お服は余裕を持ったサイズでお作りになられた方が宜しいかと存じます」

「そうですね、ぴったりに作って直ぐに着られなくなってしまっては困りますものね」

「左様でございます。アレクサンダー様はよくご存じで……」


 職人の持ってきた本を開いて、ジョージは幾つかのデザインを指し示した。


「今の王都で流行りの服でございますと、こちらのデザイン画の様な服が人気でございます」


 そうして、いくつかの服のデザインを見比べながら注文を進めていく。

 数着分の服の注文を終えるまでにはしばらくの時間がかかった。


「それでは、アレクサンダー様、ご注文いただいたお服は四月上小月にはの初めには仮縫いも終わりますので、ご用意できましたら裾直しに再びお邪魔させていただきます」

「えぇ、よしなに……」


 ジョージと職人たちは一礼して部屋を辞していった。

 それを見届けたメイドがお茶の準備を始める。

 アレックスはそれを見て、どれくらいの時間がたっていたのかを改めて感じていた。


「ふぅ、服を作っていただくというのは、存外疲れるものなのですね」

「アレクサンダー様、お疲れ様でございました。本日この後は予定もございませんので、夕食まで暫しお寛ぎいただければと存じます」


 執事の言葉に、アレックスは静かに頷いた。


「そうですね。お茶をいただいて少しはゆっくりしましょう。王都に来たのだから、王都観光もしてみたいですが、今日でなくとも時間はありますからね」


 左様でございますなと相槌を打つ執事を横目に、アレックスは領都スプリングフィールドから持ってきた本に目を遣る。

 夕食までにはまだ時間がある。

 それまではゆっくりと本でも読みながら過ごすのも悪くはないかと思いながら、メイドの淹れたお茶に口を付けるのであった。

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