第六話・王都選公爵邸到着
王都のメディーム空港を馬車で出発すれば、直ぐに王都を囲む外壁が見える。
外壁の大門から、空港から降りた人や荷物の列が長々と続いている。
アレックス達の乗る馬車は、王都に入るための検問の列の横を通り過ぎていった。
そうして、市民用の検問所とは別の検問所に近付いていく。
そちらは貴族専用の検問所であるが、空港方面の外門から王都に出入りする貴族は少ない。
何しろ、空港方面の外門は基本的にメディーム空港を利用するものしか通らないからだ。
そのため、アレックス達の乗った馬車は、列に並ぶことなく大門の検問所までやって来る事が出来た。
検問所まで来ると、馬車は衛士の合図に従って停止した。
衛士の一人が、アレックス達の乗る馬車に近寄ってきて声を掛けてくる。
「長旅お疲れ様です。規則に則り検査をさせていただきますので、ご協力お願いいたします」
「えぇ、構いません。よろしくお願いしますね」
馬車の中からキャサリンが衛士に応対した。
衛士はキャサリンに一礼すると後方に控えた別の衛士達を振り返って手で合図を送り、あらためてキャサリンに向き直った。
彼は、手元に持った書類に目を通しながら話を続けていく。
「スプリングフィールド選公爵家……。事前申請の書類ですと、馬車二台で、御者が二名、乗り込んでいるのがスプリングフィールド選公爵夫人とその子息、メイドが二名……」
衛士は手元の書類と馬車の中を交互に見ながら確認を続けていく。
「馬車の随行として護衛の騎士二名とその従士六名ですね。……後ろの荷馬車の確認が終わりましたらお通りいただけるので、それまでしばしの間ですがお待ちください」
馬車内の確認を終えた衛士は、そのまま後ろに続いていたスプリングフィールド選公爵家の荷馬車の確認の応援に入っていった。
荷物の確認に少しばかりの時間を掛けたものの、先程と同じ衛士が再び馬車の方へとやって来た。
「スプリングフィールド選公爵夫人、お待たせいたしました。確認は滞りなく完了いたしましたので、ご安心ください。それではお通り下さい」
「えぇ、ありがとう。貴方もお仕事ご苦労様」
キャサリンが目線で出発の合図を送ればメイドが覗き窓から御者に声を掛けて、馬車はゆっくりとした速度で検問所を出発した。
大門を潜れば、そこはもう王都の中である。
王都は活気に満ちており、大門前の大広場では魔導飛行船から降りてきた乗客を目当てにした露店や屋台の客引きの声が聞こえてくるのだった。
「母様、王都は賑やかなところですね」
行き交う人々は皆一様に明るい笑顔で、喧噪の中にも明るく活気を感じさせる。
見れば、人族以外にも妖精人族や亜人族の姿もちらほらと見受けられた。
石畳で舗装された大通りを馬車は進む。
その馬車に気が付いた住民たちは、端に並んで道を開けていく。
居並ぶ人々は馬車を見送りながら手を振って歓声を上げている。
馬車の中から、キャサリンとアレックスは手を振り返してその歓声に応えていった。
市内をしばらく進み王都の中央に近付いていけば、市民街と貴族街を隔てる内壁が見えてくる。
アレックス達の乗った馬車は、その内壁の内側へと続く内門へと近付いていった。
門へと近付いていくと、詰所から衛士が出てくる。
「ご苦労様です」
馬車の上から御者が身分証を提示する。
「ご苦労様です。それでは拝見します……。それでは、規則に則り確認をしますので、ご協力をお願いします」
衛士は、テキパキと検査を進めていく。
外門での検査と同じように、乗員の確認、荷物の検査が行われていった。
程無くして、全ての検査が終了する。
「ご協力ありがとうございます。検査の方は無事完了いたしました。それでは、どうぞお通り下さい」
衛士の合図で、貴族街へと続く内門の扉が開かれていく。
馬車は静かに出発していくのだった。
貴族街へ入ると、町の様子も変わってくる。
多くの人々で賑わう市民街とは違い、貴族街は閑静な様相を呈している。
高い塀で区切られた中には、王都に住む、或いは滞在する貴族のための邸宅が建っている。
アレックス達の向かう先も、そういった貴族のための邸宅の一つである。
王城テネブリスを間近に臨む位置に、スプリングフィールド選公爵家王都邸はある。
そこは、所謂王城のお膝元と呼べる立地であった。
貴族街は、その地位によって屋敷を持てる場所が変わってくる。
王城に近い程に、爵位の高い貴族の邸宅であるというわけだ。
そういう意味では、スプリングフィールド選公爵家はもっとも王城に近い一角に屋敷を構えている貴族の一人である。
したがって、それ相応にその屋敷は広くて立派な造りをしている。
馬車は、高い塀に沿って進む。
やがて、門扉の様子が窺える所までたどり着く。
門番の一人が、馬車に気付いて出迎えに出てきた。
「ご苦労様です。今、扉を開けるので少し待ってください」
「はい、ご苦労様です。お願いしますよ」
そう言って御者が応じて、馬車を止める。
扉が開いて馬車が進み始めれば、目的の邸宅までもう少しだった。
馬車がロータリーを回って玄関前階段に着けると、館の使用人達が立ち並んでキャサリン達を待ち構えていた。
馬車が停車して扉の前に乗降台が置かれると、護衛の騎士の一人が扉を開いてキャサリンが降りるのをエスコートする。
すると使用人たちの列から、一人の執事が進み出てきた。
「奥様、お待ちしておりました」
「えぇ、ありがとう」
使用人が玄関扉を開き、出迎えた執事が先導する形で二人は屋敷に入る。
「長旅でお疲れではございませんか?お部屋の準備は整っております。先ずはそちらでお寛ぎなさってはいかがでしょうか」
「そうね、そうするわ。アレックス、貴方の部屋も既に用意させているから、案内してもらいなさい」
「はい、母様。……それではお願いできますか?」
「畏まりましてございます」
先を行く執事が合図をすれば、別の執事が進み出てくる。
「それでは、アレクサンダー様、お部屋にご案内させていただきます」
「よしなに……」
アレックスは、エントランスロビーでキャサリンと分かれて自室へと案内された。
アレックスの案内された部屋は、領都の居館にある部屋と比べても遜色ない広さと豪華さであった。




