第二話・魔導飛行船
王都へと向かう魔導飛行船に乗るべく、アレックス達は空港へとやった来ていた。
空港のエントランスロビーの前まで、ゆっくりと馬車が進んでいく。
馬車がエントランスに着けると、空港の玄関口から仕立ての良い服を着た男が部下と思わしき供回りを数人引き連れて歩み寄って来た。
御者が足台を置き、馬車の扉を開く。
護衛の騎士の一人が馬車に駆け寄ってきて、キャサリンが降りるのをエスコートした。
アレックスも、母キャサリンの後に続くようにして馬車を降りる。
空港の玄関口から来た男は、二人に恭しく礼をして迎えていた。
「ようこそおいで下さいました、スプリングフィールド選公爵夫人。ここからは私、フルグファヴェノ空港を管理しております東方領方面航空管理局局長のカゼルノンがご案内申し上げます」
「よろしくお願いいたしますね、カゼルノン局長。こちらは息子のアレクサンダーです」
出迎えに来たカゼルノン局長に、キャサリンは笑みで返してからアレックスに視線を向けた。
「お初にお目にかかります、スプリングフィールド選公爵家が第三子、アレクサンダー・アリス・スプリングフィールドと申します」
アレックスの挨拶に対して、カゼルノン局長は丁寧な紳士の礼で返していた。
「ご丁寧な挨拶を恐れ入ります。私の名はカゼルノン・ヤッカミン法衣子爵。東方領方面航空管理局局長の座についております。以後、お見知り置きを」
顔を上げたカゼルノン局長は、二人を先導して歩き始めた。
程無くして、三人は待合室に到着していた。
待合室と言っても一般人の使うそれとは異なり、貴賓用の特別室である。
二人を案内してきたカゼルノン局長は、別れの挨拶を済ませると部屋を出ていった。
部屋にはアレックスとキャサリンの二人の他にも魔導飛行船を利用する客が数人寛いでいた。
護衛の騎士達は扉の前に控えている。
部屋に待機していた従業員がお茶を準備して席に配した。
「何か御用がありましたらお申し付け下さいませ」
そう言って、部屋の隅へと下がっていった。
「母様、ここから魔導飛行船が見えます」
窓際まで歩み寄ったアレックスは、窓の外にいくつも見える大小の魔導飛行船を見入っていた。
前々世の知識として魔導飛行船を知るアレックスではあるが、実際に魔導飛行船に乗るのは初めてである。
というのも、魔導飛行船の運賃は馬鹿にならない程に高いのである。
それに、前々世では冒険者として大陸各地を旅したことはあっても、魔導飛行船を利用する様な事もなければ魔導飛行船を利用するような人物の護衛依頼であるとかそういった類の依頼を受けたこともないのであった。
だから、アレックスは今回の旅をとても楽しみにしていた。
前世では飛行機を利用した事はあるので、空の旅が初めてというわけではないが、それはそれ、これはこれである。
「アレックス、私達が乗るのは、あそこに見える一番大きな船ですよ。あれはローランディア選王国に六隻ある魔導飛行船の内の一つです。ここから王都まで二日で行けるのよ」
「二日ですか?確か王都までは馬車でも一ヵ月近くはかかるのでしたよね。魔導飛行船って、とっても速いのですね!」
ニッコリと満面の笑顔を浮かべるアレックスの様子に、それを見ていた待合室にいる他の客達の間にも笑顔が広がった。
……
…………
………………
しばらくの間、アレックス達は待合室で寛いでいた。
やがて、乗客を案内するために係員の男性がやって来た。
「大変お待たせいたしました。搭乗の準備が終わりましたので、ご案内させていただきます」
係員に声を掛けられて、待合室から乗客が次々と出ていく。
キャサリンに促されて、アレックスも席を立つのだった。
アレックス達は、廊下をしばらく歩いて搭乗口へとやって来た。
「スプリングフィールド選公爵夫人、ここからは魔導飛行船の搭乗員がご案内いたします」
「ご苦労様でした」
一礼して係員が一歩下がると、搭乗口の前から一人の女性が進み出てくる。
「スプリングフィールド選公爵夫人、私が御身のご利用なされる客室担当の客室係でございます。船内へとご案内させていただきます」
「よしなに……」
アレックス達は、そうして客室係の先導で魔導飛行船へと乗り込んでいく。
魔導飛行船は、大きく分けて六階層構造をしている。
各階層は、上から順に操舵室等のある業務区画、貴賓室のある特等船室区画、一等船室区画、二等・三等船室区画、四等船室区画、貨物室区画である。
搭乗口は二つに大別され、一等船室区画と四等船室区画にあり、荷物は最下層の貨物室区画に搬入口が別に設けられていた。
アレックス達は一等船室区画に設けられた搭乗口から魔導飛行船に搭乗し、階段を上って特等船室区画に案内されていくのだった。
魔導飛行船の船内は煌びやかな装飾に彩られ、ここが特別な乗客に向けた造りである事を一目で感じさせる。
特等船室区画にやってきた一行に客室係が振り向いた。
「こちらのお部屋が、ご利用いただく特別室でございます。何かありましたらお声かけ下さいませ。それでは、王都までの道中をどうぞお楽しみください」
護衛の騎士が扉を開けて中に入っていった。
続けてキャサリンとアレックスが扉をくぐる。
扉を潜った先は、特別室の玄関といった所であった。
奥に特別室へ続く扉がもう一枚、騎士が扉を開いて二人を待っていた。
騎士の開いた扉を抜けて、二人は室内へと歩みを進める。
室内に入れば、そこは華やかな調度品の飾られたまさに特別と言える空間であった。
アレックスは、早速部屋の造りを見て回っていった。
特別室は入り口に玄関と護衛の詰める待機所があり、そこを抜けるとエントランスロビー、ここに扉がいくつもあって、侍従の待機所、応接室とリビングルームにつながっている。
リビングからはダイニングルームと寝室へとつながる扉があり、この特別室には寝室が三部屋用意されていた。
「アレックス、もうすぐ出航ですよ。大人しくしていなさい」
興味深そうに室内を見て回るアレックスに、キャサリンは微笑みながらも注意をする。
「はい、母様。……飛んでいる?」
飛行機とは違う縦にふわりとした浮遊感を感じて、アレックスはリビングの窓辺に歩み寄った。
徐々に高度を上げる魔導飛行船の船窓からは領都スプリングフィールドの街並みがよく見えた。
「母様、飛んでいますよ」
「えぇ、そうね、アレックス」
キャサリンはリビングのソファーに腰掛けて、アレックスに微笑みかけた。
メイドがやって来て、準備したお茶を入れて下がっていく。
キャサリンは淹れられたお茶を一口飲んで寛いでいたが、アレックスは高度を増していく魔導飛行船から覗く景色に見入っていた。
「そんなに景色が気になるのだったら、後で展望室へ行ってみましょうか?」
「そんな場所があるのですか?ぜひ行ってみたいです」
こうして、短いながらも魔導飛行船による空の旅が始まるのだった。




