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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
青年の章

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第六十七話・祝勝会①

 学生寮で湯浴みをして身支度を整えたアレックスは、予定の時間より少し早く迎賓館へと到着していた。

 迎賓館を前に、アレックスは建物の外観を見渡す。

 迎賓館と言うのだから、もちろん来賓を持て成す為の施設だ。

 そのため、建物の外観からしても他の校舎の様な実用性重視の質素なものとは違い、瀟洒な装飾が施されてある。

 その迎賓館の玄関には守衛の男が立ち、アレックスが近付くとこちらに気付いて会釈をしてくる。


「今年の武術大会の優勝者であるスプリングフィールドさんですね?中で案内役が待っていますので、どうぞお通り下さい」


 玄関の戸を開けてアレックスを招き入れる守衛に礼を言い、アレックスは迎賓館の中へと入っていった。

 中へ入ると、玄関ホールの端に案内役の教師が立っており、アレックスに気付いて近寄って来た。


「スプリングフィールド君、早かったですね。まだ時間には余裕がありますよ?」


 ニコリと微笑む案内役の教師へ向けて、アレックスは会釈をして言葉を返した。


「はい、先生。祝賀会に参加するのは初めてなので、少し早めに来ておこうと思いまして」

「それは良い心掛けです」


 アレックスの返答に、案内役の教師はウンウンと何度も頷く。


「まぁ、もうすぐ時間になりますし、皆が揃ったら案内しますよ。それ程待つ事も無いでしょうしね」


 そうして、アレックスは案内役の教師と共に玄関ホールで他の生徒――ムイラスとマーガレット、アルアレアロの三人――を待つ事になった。

 しばらく待っていると、ムイラス達三人が姿を現す。


「……何だ?早いな!スプリングフィールドの奴はもう来てたのか?」


 アレックスを見て待たせたかと問いかけるムイラスの言葉に、案内役の教師は時間どおりですねと言って微笑む。


「さて、皆さん揃った事ですし、さっそく部屋に案内しましょう。こちらです。ついて来て下さい」


 そう言って、案内役の教師が四人を先導する。

 案内役の教師に連れられてアレックス達の向かった先は、祝賀会の会場ではなく別室だった。

 その部屋の前には出迎えのメイドが二人控えており、案内役の教師に連れられたアレックス達の姿を認めると恭しくお辞儀をしてくる。


「皆様、お待ちしておりました。それでは男性陣はこちらの部屋で、女性は隣の部屋で祝賀会のお支度をお願いいたします」


 メイドの一人が、そう言って部屋の扉を開く。

 ムイラス、アルアレアロに続いてアレックスもその部屋に入ろうとすると、毎度が声を掛けてきた。


「こちらは男性用の控室でございますよ?女性用の控室は隣でございますわ」


 メイドのその言葉に、アレックスは苦笑を浮かべて口を開く。


「いいえ、こちらで合っていますよ。私は、これでも男です」


 アレックスがそう言うと、メイドは一瞬驚きに目を見開いた後深々と頭を下げていた。


「あぁ、申し訳ありませんでした。そうですわよね。聞いていたお話では、今年の武術大会の表彰者の内の三人は男性と言うお話でしたのに……。お姿を見た時に男性がお二人だけに見えたものですから、おかしいとは思っておりましたわ。坊ちゃまがあまりにもお綺麗で可愛らしいものでしたから、つい……。ご無礼の程はどうかご容赦いただきたく……」


 恐縮するメイドに向けて、アレックスは気にしていませんと答えると控室へと入っていった。


「こちらでございます……」


 部屋に入ると、そこにはさらに数十名のメイドが控えていた。

 そうして、最初に数着の礼服が掛けられた衣装棚の前に案内される。

 すると、ムイラスとアルアレアロの周りにメイド達が付いてその身に合う衣装を手に取って合わせ始めた。

 それを見ていたアレックスの下に、一人のメイドが歩み寄ってきて頭を下げる。


「スプリングフィールド様、申し訳ありません。学園側で事前に用意されている衣装では、坊ちゃまの体型に合う衣装がございません。恐れ入りますが……」


 恐縮した様子を見せるメイドに向かって、アレックスは微笑みを浮かべてゆっくりと頭を振った。


「いいえ、大丈夫ですよ。こんな事もあろうかと、自分の着る礼服は前持って準備してありますから」


 アレックスの答えを聞いて、メイドはまぁと口に手を当てて驚いた顔を浮かべる。


「左様でございますか。それは、ご用意いただきありがとうございます。そうしましたら、坊ちゃまのご用意されているお服を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」


 それでどちらにお持ちでと問うメイドの言葉に頷いて、アレックスは腰のベルトポーチからニュルリと礼服を取り出して見せる。


「あらまぁ、魔法の鞄マジックバックでございますか?なるほど、それなら……。それではお服を調整する必要があるかどうか確認いたしましょう。袖や裾の調節であれば、こちらに控えているお針子がおりますのでご安心ください」


 アレックスから礼服を受け取ったメイドは、服を広げてアレックスの体に当てていく。

 三人がかりで礼服のサイズを確認したメイド達は互いの目を見て頷き合うと、その内の一人がアレックスに向き直る。


「坊ちゃま、礼服のサイズは丁度良い物の様でございます。これならば、手直しの必要はございません。それでは、礼服はこちらで一旦お預かりさせて頂きましてアイロンを掛けさせて頂きますが、よろしいでしょうか?」

「えぇ、構いませんよ。お願いします」


 アレックスの返答に一礼したメイドは、礼服を持った他の二人のメイドと共にアレックスの下を離れていく。

 それとは入れ替わりに別のメイドが近付いて来ると、アレックスに声を掛けてきた。


「坊ちゃま。それでは祝勝会へ御出席なされる前のお支度をいたしますので、こちらへどうぞ」


 アレックスがメイドに案内されるその先には、三台の鏡台と簡素な寝台が置かれている。

 寝台の脇には、色々な道具の載せられたワゴンも用意されていた。

 そうしてアレックスが寝台へ案内されていると、礼服を選び終えたムイラスとアルアレアロも、アレックスと同様にメイド達に案内されてきた。


「さぁ、坊ちゃま。それでは祝賀会の会場に入る前に、綺麗におめかししてしまいましょうね」


 アレックスの席を担当する年かさのメイドの一人が、アレックスに向けてにこやかに微笑んでくる。

 そのメイドは、アレックスの顔をまじまじと見つめて口を開いた。


「坊ちゃまはお若いから、お肌もお綺麗ですしお髭もまだ生えておりませんわね。これなら、顔剃りの必要はございませんわよ。直ぐにお肌磨きを致しましょうか」

「お肌磨きですか?」


 アレックスの疑問に、メイドはにこやかに笑って頷く。

 室内に置かれた時計をチラリと身ながら、アレックスは気になった事をメイドに問いかける。


「何だか大事になっていませんか?それにもう少ししたら、祝勝会が始まってしまうのではないのですか?」


 アレックスの問い掛けに、メイドは笑顔を崩すことなく答えを返す。


「大丈夫でございますよ、坊ちゃま。祝勝会が始まっても、しばらくの間は武術大会決勝トーナメントに出場した他の生徒の皆さんの紹介で相応の時間がかかりますから。坊ちゃま達が会場入りされるのは、祝勝会が始まってから一時間は経ってからです。ですから、それまでにお肌磨きとお化粧は十分に間に合いますよ。ですから、何もご心配なさらずに……」


 それではこちらに横になって下さいと、メイドが寝台を指し示す。

 アレックスは、それに従って寝台に上がりながら横目にムイラスやアルアレアロの様子を窺う。

 見てみれば、二人共落ち着いた様子で既に寝台に横になっていた。


「さぁ、目を閉じて楽になさってくださいな。まずは、オイルマッサージでお顔を綺麗にしていきますからね」


 それから時間をかけて肌磨きを施されたアレックスは、続いて鏡台の前に案内されていく。

 すると、先程と担当を代わった別のメイドが、アレックスに声を掛けてきた。


「さぁ、坊ちゃま。続いてはお化粧を致しましょうね。……大丈夫でございますよ。坊ちゃまはお肌も白くてお綺麗ですし、お顔付きがとっても可愛らしいですから、ごく簡単なお化粧でお支度が整いますからね」


 そう言ったメイドは、これなら白粉なんかはいらないかしらねと口にしながら、鏡台の脇に引いてきたワゴンの品物を物色していく。

 やがて、アレックスの化粧に使う品々を用意し終えたメイドは、化粧水を手に取ってアレックスに向き直る。


「さぁ、まずは化粧水からでございますよ。お化粧は、全て私にお任せくださいませ。坊ちゃまは素材が良くていらっしゃるから、何もご心配はいりませんよ」


 化粧を施す事に複雑な心情のアレックスの様子を読み取ったのか、メイドが心配いらないと念押ししてくる。

 そうして化粧が始まって少しした頃、部屋に入ってくる人影があった。

 その手に恭しく箱を抱えたメイドが、真直ぐにアレックスの下へと向かってくる。

 アレックスの傍まで近寄ったメイドは、鏡台に座って化粧を施されているアレックスの様子を後ろで窺っていたメイドの一人に声を掛ける。


「お待たせしました。隣の部屋では、お嬢様が祝勝会に身に着ける髪飾りを選び終えました。お言い付け通りに、他の髪飾りをお借りして参りました」


 声を掛けられたメイドは、箱を持ってきたメイドに礼を言って箱を受け取り、その中身を確かめると頷いた。


「坊ちゃまの化粧が終ったら、次は御髪を整えましょうか。あちらの礼服のデザインを考えたら、どれがお似合いになるかしらねぇ。このルビーの髪留めも良いけれど、こちらのエメラルドの逸品も捨てがたいわね」


 その呟きを聞いたアレックスは、大人しく化粧を施されながら鏡台の鏡越しに背後のメイド達の様子を窺う。

 数本の櫛を手にして楽し気に笑顔を浮かべるメイド達の様子に、アレックスは祝勝会の支度はまだ続くのかと内心で溜息を吐くのだった。

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