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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
青年の章

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第六十一話・決勝戦①

 昼休憩の時間も残りわずかとなった頃。

 昼食を終えたアレックスは、レオン達と共に講義棟区画の大ホールにある全学年用掲示板の前までやって来ていた。

 全学年用掲示板には、今年の武術大会決勝トーナメントの組み合わせ表が掲示されている。

 それを見れば、決勝戦の組み合わせとしてアレックスの名前と対戦相手であるチョセフ・デア・ムイラスの名前が書かれた名札が下げられているのが見て取れる。


「いよいよ決勝戦だね、アレックス君」


 全学年用掲示板を見上げながら、ヴァレリーがアレックスに語り掛けてきた。


「決勝戦かぁ……。アレックス君が強い事はもちろん知っていたけれど、本当に決勝戦にまで進むとは思ってなかったよ。皆と一緒に第二体育館で決勝トーナメントの試合を見ているけれど、どの先輩方もすごい人ばかりだよね。今の僕ではとても敵わない人ばかりで……」


 ヴァレリーの言葉を聞いて、リリーが頷きながら口を開く。


「本当よね。でも、そんな相手に勝ってきたんだから、やっぱりアレックス君はすごいのよね。もしかしたら、このまま決勝戦も勝ってしまうんじゃなくって?」


 リリーの問いに、アレックスは曖昧に笑みを浮かべる。

 実力を出せば負ける事は有り得ないが、すんなり勝ってしまうのもどうなのだろうかと、アレックスは考えていた。

 とは言え、万一手加減して負ける様な事があればガーンズバック先生のお説教は確実だろうし、スプリングフィールド選公爵家としても黙ってはいないだろう。

 なにしろ、ここローランディア選王国の国是は実力主義なのだ。

 アレックスが決勝戦で優勝すれば大きな騒ぎになる事は間違いないが、だからと言ってそれを厭うからと言ってわざと負けるわけにもいかなかった。

 そもそも目立つ事を避けるのならば、最初から武術大会に出なければよい話だった。

 それが武術大会に出ると決めた以上は、アレックスとしても手加減こそすれ手抜きをするつもりは毛頭なかった。


「もしもアレックスさんが優勝なさったら、王立アウレアウロラ学園始まって以来の快挙ですわよね。学園の歴史に名を刻む偉業ですわ」


 シェリーが、目を輝かせながらアレックスを見つめていた。

 私応援しておりますわと、まばゆいばかりの笑みをアレックスに向けてくる。

 ヴァレリーとリリーも、応援していると笑顔を向けてくる。

 それを見て、レオンは少し不機嫌そうに口を尖らせて口を開いた。


「そんなもん、当たり前だろ?なにしろアレックスだぜ?学園の外の大人相手の決闘だって勝ったんだから、学園の生徒相手の武術大会だって優勝するに決まってるだろ!」


 まぁ、いずれは俺が勝つけどなと、レオンは嘯いた。

 それを聞いたリリーが、レオンに向かって口を開く。


「一回戦も勝てなかったからって、何むくれてんのよ?男のくせにみっともないわね」

「何をぅ!」


 リリーに挑発されたレオンがムキになってリリーに詰め寄る。


「まぁまぁ、レオン。落ち着いて……。ほら、リリーもそんなこと言わないでさ……。周りの迷惑になるよ?」


 ヴァレリーが、レオンとリリーの間に割って入って二人を仲裁する。

 シェリーは、その様子を見て呆れた様に溜息を吐いた。


「ハァ、お二人共、アレックスさんの晴れ舞台なのですから、こんな所で喧嘩をなさってどうされるのかしら?もうすぐ武術大会も決勝戦でしょう?それを応援する私達は、アレックスさんを笑顔で送って差し上げないと……」


 シェリーの言葉にリリーが頷いて見せると、レオンも渋々といった風に身を引いた。


「それもそうね……」

「フンッ……!」


 そんなちょっとした騒ぎはあったものの、もとより賑やかな学園での事だ。

 実の所、本格的に喧嘩に発展するでもない彼らの様子を気にする目と言うのはほとんど無い。

 とは言え、貴族の端くれでもある彼らにとっては、その外聞も大事な事ではあった。

 そう言った事を注意するシェリーのお小言に、レオンもリリーもばつが悪そうにお互いの顔を見合わせる。

 その様子を見ながら、アレックスは決勝戦でどうするかを考えていた。

 二人にお小言を言うシェリーの言を借りるならば、ローランディア選王国の貴族としての面子や外聞と言ったものは重要である。

 アレックスが勝利すれば、それは相手にとって『たかが一年生相手に負けた』と言うレッテルになるだろう。

 それは今までの試合全てで同じだった。

 となると、その彼等が『たかが一年生相手に負けた』という不名誉なレッテルを貼られることを避けるためには、ただ勝つだけでは駄目だろう。

 観客である生徒や来賓の方々に相手の実力を十分に示し、その上で皆が納得するような勝ち方が必要なはずだ。

 つまりは、それだけ見ごたえのある試合にする必要があるという事だ。

 これは中々に難しいなと、アレックスは独り言ちる。

 そうしていると、レオンとリリー――ついでに巻き込まれたヴァレリー――にお小言を言っていたシェリーがアレックスに向き直る。


「さぁ、アレックスさん。いよいよ決勝戦ですわよ!私達は第二体育館で応援しておりますから、どうか頑張ってくださいましね」

「ありがとうございます、シェリーさん。……そうですね、もうそろそろ時間になりますから、私とレオンは第一体育館に戻ります。ヴァレリーとリリーも、応援よろしくお願いしますね」


 アレックスがそう言うと、ヴァレリー達は頑張ってねと返事を返してくる。

 それではと言って、アレックスはレオンと共に第一体育館へ向けて歩き始める。

 それを見送るシェリーは、ヴァレリーとリリーに向き直ると二人の手を取った。


「さぁ!私達も、第二体育館に行ってアレックスさんの応援をしましょう!」


 そうして三人はアレックスの向かう方とは反対側、第二体育館へ向けて歩き出したのだった。



……

…………

………………



 アレックスとレオンが第一体育館へと戻ってくると、そこは既に観客の生徒達が集って試合の開始を待ちわびていた。


「さてと……、じゃぁ、アレックス。俺はあっちの席だから、また後でな。勝てよ!」

「えぇ、レオン、分かりました。それでは、また後で……」


 そう言って、二人は生徒待機席のそれぞれの席に着く。

 アレックスの周りでは、武術大会決勝トーナメントに進出した生徒達がアレックスの様子をうかがう様にチラチラと視線を送って来ていた。

 アレックスはそれらの視線を極力無視する様に努めて、平然とした様子で時間が経つのを待っていた。

 そうしてしばらく時間がった頃、ようやく拡声魔道具マイクを持った教師の姿が舞台の上に現れた。


「注目!皆さん、静粛に!只今を持ちまして、昼休憩の時間を終了といたします」


 拡声魔道具を持った教師が場内を見渡し、観客の生徒達が静まるまで待つ。

 やがて、場内の喧騒が十分に静まった所で、教師は拡声魔道具を構えて口を開いた。


「それでは、これより武術大会決勝トーナメント決勝戦を開始いたします。決勝戦出場生徒、チョセフ・デア・ムイラス!」

「はい!」

「アレクサンダー・アリス・スプリングフィールド!」

「はい」


 拡声魔道具を持った教師の呼び出しの声に答えて、ムイラスが、続いてアレックスが返事を返して立ち上がる。

 舞台の脇へと歩む二人に対して、場内から拍手が沸き起こる。

 拡声魔道具を持った教師と入れ替わりに、審判役を務めるガーンズバック先生が舞台に上がる。


「両者、前に!」


 ガーンズバック先生の合図で、アレックスとムイラスの二人はそれぞれ舞台の上へと上がっていく。

 舞台の中央へと歩み寄り、試合の開始位置で二人はその足を止めた。

 アレックスとムイラスの二人は、決勝戦の開始を前ににらみ合う。

 そして、先に口を開いたのはムイラスの方だった。


「よぅ!一年生……。いいや、アレクサンダー・アリス・スプリングフィールド!いよいよ待ちに待った決勝戦だな。正直に言って、最初に見た時にはお前がここまで来るとは思ってなかったんだぜ?だけど、マーガレットの奴を倒して決勝戦まで来たんだから、お前の腕前は本物って事だよな……。準決勝戦であんな試合を見せられちゃぁな。だから、お前を相手に手加減は無しだ!本気でいくから覚悟しろ!」


 ムイラスの口上に、アレックスは落ち着いた様子で微笑みを浮かべながら口を開いた。


「ムイラス先輩、お手柔らかにお願いしますね。もちろん、一年生相手なんだから手加減しろだなんて事は言いません。王立アウレアウロラ学園の名に恥じぬ様に、私も精一杯お相手をさせていただきますから」


 アレックスが応じると、ムイラスもニヤリと笑みを浮かべる。


「言うじゃねぇか。お前の実力、見せてもらうぜ?その上で勝つのは俺だ!」


 そう言うと、ムイラスは腰の木剣を抜き放つ。

 アレックスも一つ頷くと、ムイラスに応じる様に腰の木剣を引き抜いた。


「用意はいいか?……それでは、構え!」


 二人の様子を見たガーンズバック先生は、用意の声を掛けると共に片手を挙げると二人を見比べる。

 アレックスは基本に忠実な中段の構え。

 それに対してムイラスは、その手の木剣を天高く掲げると大上段の構えを取る。

 二人が構えを取ると場内に緊張が走り、観客の生徒達の喧噪は静まり返っていく。


「それでは、試合……始め!」


 ガーンズバック先生が、試合開始の号令と共に掲げた手を振り下ろす。

 こうして、アレックスとムイラスによる武術大会決勝トーナメントの決勝戦が始まったのである。

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