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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
青年の章

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第五十九話・準決勝戦②

 白熱した接戦を演じたムイラスとアルアレアロの準決勝戦第一試合は、ムイラスの勝利に終った。

 観客達は二人の熱戦に拍手と歓声を送り、二人が舞台から降りた後もその熱は冷め止まなかった。

 場内の熱気が高まり、次の試合にも大いに期待が寄せられる。

 騒めきの収まらない場内で拡声魔道具マイクを持った教師が舞台に上がってくると、次の試合に出場する生徒の二人を呼び出していた。


「準決勝戦第二試合、マーガレット・エレノア・クレメンタイン」

「はい!」

「アレクサンダー・アリス・スプリングフィールド」

「はい」


 名前を呼ばれた二人が席から立ち上がると、二階の観覧席から歓声が上がる。

 生徒待機席の横を通り過ぎて舞台へ向かおうとするマーガレットに、生徒待機席からムイラスが声を掛ける。


「おい、マーガレット!俺は決勝に進んだぞ。お前も、さっさと勝負を決めて来いよ」


 ムイラスの言葉に、マーガレットはちらりと視線を向けると肩をすくめる。


「もちろんだとも。私だって、負けるつもりで舞台に上がるわけではないさ」

「あ?」


 マーガレットの返答に引っ掛かりを覚えたムイラスが疑問の声を上げるが、その時には既にマーガレットは舞台端へと移動していた。

 舞台の上で拡声魔道具を持った教師と入れ替わったガーンズバック先生が、舞台端に立つマーガレットとアレックスに目を遣って登壇の合図を出す。

 マーガレットとアレックスの二人は、その合図を受けて舞台の上へと登っていった。

 二人が舞台の上に立つと、再び歓声が上がる。

 生徒達の歓声を背に、二人は試合の開始位置まで歩み寄って顔を合わせる。

 先に口を開いたのはマーガレットだった。


「やぁ、アレックス君。君には随分と前から注目していたけれど、ようやくこうして手合わせできる機会が巡ってきたようだね」

「六年生武術次席の先輩に注目していただけているとは、感謝を申し上げるべきでしょうか?」


 マーガレットの言葉に、アレックスは微笑みを浮かべると小首を傾げた。


「いや、礼には及ばない。手練れの相手に注目するのは、武術大会に出場する生徒として当然の事だからね。それに……」

「それに?」


 言い淀んだマーガレット。

 アレックスは続きを促すように言葉を紡いだ。

 一度目を閉じたマーガレットは、一つ深呼吸をして口を開いた。


「そう……。君に注目したのは、武術大会があるからではないんだ。四月の決闘騒ぎがあっただろう?」

「あぁ、神聖カルディア王国の王子殿下との件ですか?」


 アレックスの言葉に、マーガレットは小さく頷いた。


「そうだよ。あの決闘騒ぎを直で見た六年生はほとんどいないけれど、私はその数少ない一人でね。あぁ、決闘騒ぎをどうこう言うつもりはない。一応は学則に則っての事だしね」

「それでは何が……」


 マーガレットは批判めいた言い様にならない様に注意して話を続ける。


「あの時、決闘の相手が君ではなく私だったら、はたして私は相手に勝っていただろうかと考えるんだ。……認めるのは癪だが、おそらく難しいだろう。そんな相手に君は勝利して見せた。だから、機会があれば、ぜひ君と手合わせしたいと思っていたんだ」


 そう言ってマーガレットはニヤリと笑みを浮かべる。

 その目には、強者に挑む挑戦者としての闘志が漲っている様にアレックスには感じられた。


「そして、とうとう君と手合わせできる機会が訪れた。これから行う戦いにワクワクしているよ。君にどこまで通じるか、正直楽しみなんだ」

「それはどうも……」


 マーガレットの眼差しに、アレックスは戸惑いを覚えた。

 正直に言って今まで話していたマーガレットは落ち着いた理知的な雰囲気で、今口にした様な好戦的な物言いとは縁遠い印象だった。


「待ちきれないな。さぁ、やろう!」


 そう言ってマーガレットは満面の笑顔を浮かべて腰の木剣に手を掛けた。


「両者、よろしいか?」


 頃合いを見計らっていたガーンズバック先生が声を掛けてくる。

 マーガレットが大きく頷くのを見て、アレックスもガーンズバック先生に頷き返す。


「よし。それでは両者、構え!」


 ガーンズバック先生の掛け声に、マーガレットは勢い良く腰の木剣を引き抜いて構えを取った。

 アレックスも、静かに木剣を引き抜いて構えを取る。


「試合……始め!」


 ガーンズバック先生が、開始の合図と共に上げた手を振り下ろす。

 試合が始まると、マーガレットは気合の声を上げて絶技マスターアーツを発動させる。


「ハァァッ!戦技バトルアーツ闘気解放バトルオーラ!」


 マーガレットの体から力強く闘気が噴き上がる。

 アレックスは、その様子を静かに眺めながら自身のオーラを練り上げる。

 戦闘態勢に入ったマーガレットが、木剣を引いて構えるとグッと足に力を込めた。


「行くよ!アレックス君!」


(戦技、瞬歩クイックムーブ


 次の瞬間、マーガレットは彼我の距離を一気に詰めてその手の木剣を鋭く突き込んできた。

 一撃、二撃、三撃と突き込まれる木剣の切っ先を、アレックスは木剣を小さく動かして捌いていく。

 受けに回ったアレックスの構えが動いた所で、マーガレットは半歩下がって木剣を引くとそれまでを上回る高速の突きを放つ。


剣技ソードアーツ流星刺突シューティングスター!」


 マーガレットの気を纏った剣閃が、一直線にアレックスを襲う。

 しかし、アレックスは、その切っ先を半身に体を捌いて躱すとマーガレットの左側面に一歩踏み込んで位置取りを変える。

 マーガレットの背後に回ったアレックスはその手の木剣を一薙ぎするが、マーガレットは木剣を突き込んだ勢いそのままに前方に身を投げ出す様にして躱していた。

 転がってアレックスの木剣を躱したマーガレットは、素早く身を起こしながら下段から切り上げる様にして木剣を振るう。

 追撃のために踏み込んでいたアレックスが、マーガレットの切り上げた木剣を受け止める。

 木剣が打ち合う度に、キンキンと甲高い音が場内に響き渡る。

 立ち上がり態勢を整えたマーガレットは、上下左右と木剣を振るっての連撃を仕掛けていく。

 しかし、マーガレットの連撃をアレックスは事も無げに受け止め、捌き、躱して踏み込んでくる。

 たまらずマーガレットが間合いを取ろうと後ろへ下がる。


「さすがだね、アレックス君。……悔しいが、まるで届く気がしないよ」


 そう言うと、マーガレットは苦笑を浮かべる。


「だけど、まだまだ諦めるわけにはいかないな。これはとっておきなんだけど……、君が相手なら、出し惜しみをしているわけにはいかないね」


 マーガレットは木剣を構え直すと、昂る自身の気をさらに練り上げて息吹を吐く。


「フゥゥ、戦技、限界突破リミットブレイク!」


 マーガレットの放つ気の圧力が増す。

 アレックスは、マーガレットへの警戒レベルを引き上げて木剣を構え直した。

 わずかな間二人はにらみ合ったかと思えば、マーガレットが先程以上の速さでもって一気に間合いを詰めてくる。

 一撃、二撃と木剣を振るい、アレックスの構えを揺さぶる。

 そして、三撃目を打ち込み、それをアレックスが受け止めた瞬間、マーガレットは木剣を引いてそこに力を込めた。


「剣技、流星爆散スタースプラッシュ!」


 闘気を込めたこれまで以上の高速の連続突きが、アレックスに襲い掛かる。

 さしものアレックスも、ただで受けるわけにはいかずにその場から半歩後ずさる。


(戦技、能力向上アビリティブースト


 絶技で身体を強化したアレックスは、マーガレットの放つ怒涛の連続突きを最小の動きで受け流していく。

 都合二十一連続の高速突きを全て受け流したアレックスは、マーガレットの剣戟の止まった瞬間に攻撃に転じていた。

 木剣を突きだし身体の伸びたマーガレットの胴をめがけて、アレックスの木剣が振り抜かれる。

 マーガレットは突き出した木剣を引き戻そうとしたが間に合わず、強かに胴を打ち据えられていた。


「カハッ!」


 マーガレットの顔が苦痛に歪み、返す刀で首を狙ったアレックスの木剣がぴたりとその首筋に突き付けられる。


「それまで!」


 ガーンズバック先生が制止の声を上げる。

 その声を聞き、それまで事の成り行きを見守っていた観客の生徒達から歓声が上がる。


「クッ。さすがだね、アレックス君」


 片膝をつき打たれた腹に手を当てたマーガレットが、アレックスを見上げて口を開いた。


「まさか、あれをすべて捌いて切り返してくるとまでは思わなかったよ」


 アレックスは跪くマーガレットに手を差し伸べて言葉を掛けた。


「私も、先輩が限界突破までしてくるとは思いませんでした。体に負担がかかったでしょう?」


 大丈夫ですかと問いかけるアレックスに、マーガレットは笑みを浮かべてその手を取った。


「幸いと言っていいのかどうか……。決着が付くのが早かったから、そこまでの負担ではないさ。何なら、この後でもう一試合くらいできる余力があるよ」


 立ち上がったマーガレットは、溜息を一つ零すと試合の開始位置へと戻っていく。

 アレックスも、それに続いて位置へと戻る。

 二人が位置に戻ると、ガーンズバック先生がアレックスを手で指示して勝敗を宣言する。


「勝者、アレクサンダー・アリス・スプリングフィールド!」


 場内を歓声が包み、二人の健闘を讃える拍手が巻き起こる。

 二人は一度互いに見つめ合って礼をすると、ガーンズバック先生にも一礼して舞台の上から降りるのだった。

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