第五十話・決勝トーナメント開始①
大陸統一歴2317年、7月中小月七日目
ローランディア選王国、王都セントラル
王立アウレアウロラ学園講義棟区画の大ホール、全学年用掲示板の前にて――
7月中小月六日目の武術大会予選予備日――実質は休日――を終えた翌日。
アレックス達は、武術大会本戦である決勝トーナメントのトーナメント表を確認するために朝から講義棟区画の大ホールへと足を運んでいた。
アレックス達が大ホールへとやって来ると、丁度トーナメント表の掲示作業が行われている所だった。
大ホールの壁一面を使う大きな全学年用掲示板の両脇には脚立が立てかけられており、それぞれで職員が二人一組になって掲げられたトーナメント表に出場生徒のネームプレートを掲示していく。
トーナメント表は掲示の都合上、左右2ブロックに分けて掲示されていた。
右側には、第一試合が予選第一組一位対予選第十六組二位、第二試合が予選第二組一位対予選第十五組二位と続いており、第八試合が予選第八組一位対予選第九組二位となっていた。
そして、左側、第九試合は予選第九組一位対予選第八組二位、第十試合は予選第十組一位対予選第七組二位と続き、最後の第十六試合が予選第十六組一位対予選第一組二位という具合に対戦が組まれていた。
今日は、午前中に決勝トーナメントの第一回戦十六試合が行われ、午後に第二回戦八試合が行われる。
明日は、午前中に準々決勝と準決勝の計六試合が行われ、午後に決勝戦を行ってその後は表彰式と選手の健闘をたたえるためのパーティが執り行われる予定となっている。
「さぁ、いよいよ決勝トーナメントだな!腕がなるぜ!」
掲示の進むトーナメント表を見上げながら、レオンが気合の声を上げる。
「レオンは気合が入ってるね。応援する僕でも、ちょっと緊張するのに……」
気炎を吐くレオンを見て、ヴァレリーが感心した様に声を掛ける。
「当たり前だぜ?なんたって、俺の目標は優勝なんだからな!一回戦なんか、楽々勝つくらいの気持ちでいかないとな!」
「相変わらずアンタは自信過剰ね。第一回戦の相手だって、予選一位通過なのよ?アンタは予選二位通過でしょ!油断していると痛い目を見るわよ?」
リリーが呆れた様にレオンを見ていると、シェリーも同意する様に頷いていた。
「おやおや?威勢がいいのは良い事じゃないか?試合の始まる前から負けたと思って意気地の無い様子でいられるよりも、そちらの方がよっぽど気持ちの良い態度だと思うよ?」
アレックス達が話していると、その後ろから声を掛けてくる人物がいた。
振り返ってみれば、先日第二体育館でアレックスに声を掛けてきたマーガレット先輩だった。
「……おはようございます、先輩」
「あぁ、おはよう、スプリングフィールド君」
マーガレットは、そう言ってにこやかに微笑みながらアレックス達の下に歩み寄って来た。
レオン達も先輩であるマーガレットに挨拶をする。
それに軽く頷いて返したマーガレットは、アレックス達を見比べるとレオンに目を留めた。
「さっきの様子からすると、君が今年の武術大会に出場しているもう一人の一年生だね?」
「おっおぅ……いや、はい、そうです……。あの……どちら様でしょうか?」
マーガレットに微笑みかけられたレオンは、顔を赤らめながらもマーガレットに聞き返していた。
「おや?そう言えば自己紹介がまだだったね。これは申し訳ない。私は、六年生のマーガレット・エレノア・クレメンタイン。王都のクレメンタイン子爵家の第一子だよ。今年の武術大会決勝トーナメントの君の一回戦の相手でもあるね。よろしく頼むよ?」
「ハッ、ハイ!よろしくお願いします!あっと、えっと、俺っ、いや、僕はレオン・グランツです。王都のグランツ騎士の第一子です」
マーガレットが自己紹介をすると、レオンはビシッと姿勢を正して名乗り返した。
続けて、ヴァレリーとリリー、シェリーも自己紹介をしていく。
「そうか、皆よろしくね。所で、グランツ騎士というと、王都騎士団に所属の方だよね。グランツ騎士の御高名は、私も耳にしているよ。立派な父君をお持ちなのだね」
「ハイ!ありがとうございます!」
マーガレットに対して、キビキビとした調子で答えるレオン。
その赤くなった顔を見ながら、リリーは呆れた様に呟いていた。
「何よ、あれ。レオンってば真っ赤になっちゃってさ……」
「まぁ、レオンさんって、ああいう方がお好みなのかしら?」
リリーの呟きを聞き、シェリーも小声で応じる。
その様子を見たマーガレットは微苦笑を浮かべる。
「おやおや、そちらのお嬢さん達には嫌われてしまったかな?」
マーガレットの呟きに、リリーとシェリーは慌てた様に頭を振ると口を開こうとする。
すると、その横からレオンが口を挟んできた。
「先輩!そっ、そんな事は全然ありませんよ!な?」
「そうだけど、私達じゃなくて何でそれをアンタの方が言うのよ?」
「んな事どうでもいいだろ?」
「何よ、その言い方!」
レオンの態度に、リリーが怒った様にレオンを睨みつける。
二人が今にも一触即発といった雰囲気になった所で、ヴァレリーが口を開く。
「所で、もうそろそろ会場に移動しないと、時間的にまずいんじゃないのかな?」
ヴァレリーの言葉に、鬼気迫る表情でレオンとリリーが振り向いた。
二人の気迫に、思わずウッと怯むヴァレリー。
その様子を見て、マーガレットはクスクスと笑い声を上げる。
「フフフッ、あぁ、すまない。君達を馬鹿にするつもりじゃないんだ。皆、随分と仲が良いなと思ってね。……確かに、もうそろそろ移動しないといけないかな?」
マーガレットの言葉に、時間を確認していたアレックスも頷く。
「そうですね、先輩。……レオン、そろそろ行きましょうか?」
「おっ、おぅ、そうだな。それじゃぁ、ヴァレリー、シェリー……後はリリーも、また昼休みにな!」
レオンの言葉にリリーが文句を言おうとするが、ヴァレリーとシェリーに押し留められて押し黙る。
その様子に、アレックスは小さく溜息を吐く。
そうしてアレックスとレオン、ヴァレリーとリリー、シェリーで分かれて歩き出す。
五人が二手に分かれるのを見て、アレックス達と一緒に歩き出したマーガレットが口を開く。
「おや?あっちの三人とは別行動なのかい?三人の内の二人は武術第一組だったようだけど?」
決勝トーナメントの試合が行われる第一体育館の観覧席には、各学年の武術第一組と第二組の生徒が入館する事が許されている。
マーガレットは、ヴァレリーとリリーにはその入館資格がある事を指摘したのだった。
マーガレットの疑問に、アレックスが答えを返す。
「あぁ、それですか?シェリーさんが、試合の行われる第一体育館に入れませんからね。ですから、初等部アウロラの頃から、私達は第二体育館の観覧席を使ってきたんですよ。そうすれば、一緒に観戦できますからね」
「なるほど、そうだったのか」
マーガレットは、武術大会決勝トーナメントの観覧方法について思い出していた。
第一体育館の観覧席には、貴族や騎士団の騎士達が本戦の観戦に来る。
他には、後学のために武術第一組と第二組の生徒が入れるようになっている。
それ以外の生徒達と一般市民の観客は、第二体育館か大講堂に設置されている放映用の魔術道具を通じて試合を観戦するのだ。
「ですから、本戦の試合会場の雰囲気と言うのが、いまいち分かっていないんですよね」
アレックスが呟くと、マーガレットはどうだろうねと首をひねる。
アレックス達とは逆で、マーガレットは初等部アウロラの頃から第一体育館で観戦している。
そのため、アレックス達とは反対にマーガレットは第二体育館や大講堂での観覧というものを経験した事が無い。
そう言った事をマーガレットとアレックスが話していると、レオンがのほほんとした調子で口を開いた。
「別に、本戦だからどうのこうのって事は無いだろ。やる事は変わんないんだから、全力でやるだけさ!」
明るく言い放つレオンの様子を見て、マーガレットとアレックスは苦笑を浮かべる。
そうして三人で話をしている内に、アレックス達は第一体育館に到着した。
第一体育館の入り口を前にして、さぁいよいよ本戦だとアレックスとレオンは顔を見合わせて頷いたのだった。




