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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
青年の章

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第三十話・決闘①

 決闘だと騒ぎ立ててその場を立ち去ったヴァッカーディ王子の背を見送ったアレックス。

 アレックスは呆れた様に溜息を吐いた。

 そんなアレックスの周りを、周囲で様子を見守っていた生徒達が取り囲む。


「スプリングフィールドさん、大丈夫?」

「あの王子とかって言うヤツ、ムカつくな!」

「怪我しないでね?」

「スプリングフィールド君なら、大丈夫さ!」

「頑張って!」

「応援するよ!」


 口々に言い募る生徒達に囲まれて、アレックスは困惑の表情を浮かべる。

 正直に言うと、アレックスは困り果てていた。

 周囲を熱の籠った生徒達に囲まれているからではない。

 明らかに問題しかない決闘など挑まれてしまった事についてである。

 相手は神聖カルディア王国の王子、こちらはスプリングフィールド選公爵家の者だ。

 お互いに王位継承に関係ある立場であり、その名誉を背負う事が責務となる立場なのだ。

 そんな両者が決闘?

 どちらが勝っても遺恨しか残らない上に、下手をすれば外交問題だろう。

 何より、私的な決闘は学則で禁じられている。

 もちろん、貴族も通う学園の事であるから、決闘に関しても学則で定められている。

 とは言っても、それ程難しい規則ではない。

 決闘を行う場合には学園に届け出なければならないという程度である。

 しかし、先程のヴァッカーディ王子の様子であると、こちらで届け出ておいた方が良いであろう。

 何しろ、ヴァッカーディ王子は決闘を申し込んだ後学生寮へ向けて去って行った。

 あの様子では、学則の事など頭に無いに違いあるまい。

 どの道、相手が相手なのだから、学園にはこちらから報告をしておいた方が良いだろう。

 もちろん、実家であるスプリングフィールド選公爵家にもだ。

 そこまで考えて、アレックスはヴァレリー達を振り返った。


「私は今から学園に事の次第を報告してきます。皆さんは、先に学生寮に帰っておいてください」

「分かりましたわ。それで、大丈夫なんですの?」


 アレックスの言葉に、シェリーが不安そうな表情で問い返してくる。


「心配はいりませんよ。まずは取り急ぎ学園に状況を報告して決闘の申請をしておく必要があります」


 アレックスがそう言うと、レオンがニカッと笑いかけてくる。


「へぇ、アレックスはやる気なんだな」


 それに対して、アレックスは肩をすくめてみせる。


「そういうわけではありませんけどね。ヴァッカーディ王子殿下のあの様子では、学園に決闘の申請などという事は頭から抜け落ちているでしょうから」


 そう言うと、ヴァレリー達の間に小さく乾いた笑いが起こる。


「あぁ、何かそんな感じだったな」

「じゃぁ、僕達は先に学生寮に戻っているよ」

「アレックスさん、お気を付けて」

「そうね、アレックス君なら余計な心配なんていらなそうだけど」


 ヴァレリー達は、そう言うとアレックスを送り出した。

 そうして、アレックスは彼らと別れて講義棟区画へ向けて元来た道を足早に引き返していった。

 行き先は、この王立アウレアウロラ学園の職員室だ。



……

…………

………………



 夕方、日も暮れようかという時間帯ともなると、講義棟区画の人影はまばらである。

 その中でも遅くまで人の気配が残るのは、講義棟区画の一角にある職員室くらいだ。

 アレックスは職員室に辿り着くと、その扉をノックする。

 そうして職員室に入室すると、目当ての人物がまだ残っていないかどうかと室内を見回した。

 最悪、他の教師でも構わないのではあるが、こういう場合は担任に話を持っていくのが正解だろう。

 果たして、アレックスが室内を見渡せば、目的の人物は簡単に発見する事が出来た。

 燃える様な赤髪と遠目でも分かるがっしりとした肩幅の広い背中、椅子からはみ出してフラフラと揺れる尻尾と小さな翼が特徴的だ。

 アレックスが近付いていくと、相手もアレックスの事に気が付いていたのだろう。

 一人の男性教師が、不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。


「おや?スプリングフィールド君ではないですか。こんな時間にどうかしましたか?」


 アレックスを迎えた担任教師は、穏やかな笑みを浮かべながら問いかけてきた。


「ガーンズバック先生、お話があるのですが……」


 いざ職員室にやって来たアレックスだったが、どう話したものかと言い淀んでしまう。


「うん?話があるのでしょう?何か困った事でもありましたか?」


 ガーンズバック先生と呼ばれた教師は、アレックスに向き直ると腕を組んで話を聞くぞとばかりに椅子に座り直した。


「ハァ、実はガーンズバック先生、少々問題があります。今年の一年生に神聖カルディア王国の王子がいるのはご存じでしょうか?」


 アレックスが問いかけると、ガーンズバック先生は大きく頷く。


「もちろんだとも。何か事件でも起これば、外交問題になりかねんからな。その王子様がどうかしたのかね?」


 ガーンズバック先生の問い掛けに、アレックスは小さく頷いた。


「はい、その王子の件です。実は……」


 そう言って、アレックスはガーンズバック先生に学生寮前で起こった事のあらましを語った。

 それを聞いたガーンズバック先生の顔は、見る間に険しくなっていく。

 困ったなと頭を搔いたガーンズバック先生は、己の額の角を指先で弄びながら思案気に眉を寄せる。



「学生間の修練の一環として決闘が行われる分には、教師として特段の問題とは思わんが……。その相手が神聖カルディア王国の王子で、君が相手をするとなると困ったな……。正直、私の一存でどうこう言う事は難しい」


 そう言うと、ガーンズバック先生は立ち上がった。


「事が事だけに、学園長に報告の必要があるな。決闘が明日というのであれば、悠長にはしておれん。この時間なら、まだ学園長は学園長執務室におられるだろう。スプリングフィールド君、君もついて来なさい」


 アレックスが頷くと、ガーンズバック先生はアレックスを伴って職員室を後にする。

 向かった先は、学園長のいるであろう学園長執務室だった。

 部屋に着き扉をノックして、ガーンズバック先生が名乗りを上げる。

 すると直ぐに、中から入室を許可する声が聞こえた。

 ガーンズバック先生とアレックスは、共に学園長執務室へと入室する。


「ガーンズバック先生、どうかされましたか?……おや、君は高等部アウレア第一学年総代のスプリングフィールド君ではないですか!二人で来訪とは、何か問題でもありましたか?」


 学園長であるイザベラ・ケレスの問い掛けに、ガーンズバック先生は一つ頷くとアレックスの方をチラリと見やる。


 「はい、学園長。取り急ぎ、ご報告しておきたい事が……。詳しくは、こちらのスプリングフィールド君から」


 そう言って、ガーンズバック先生はアレックスの背中をポンと叩くと一歩前に押しやる。


「ガーンズバック先生」

「君から、学園長に先程の話をもう一度して欲しい」

「分かりました」


 ガーンズバック先生に促されて一つ頷いたアレックスは、先程職員室でした様に学生寮前で起こった出来事をケレス学園長に向けて話した。

 その話を聞いたケレス学園長は、苦虫を噛み潰したように渋い表情を浮かべる。


「困ったものね。仮にも神聖カルディア王国の王子なのだから、軽々に事を起こしては欲しくないのだけれど……。勝敗の行方は、王家やスプリングフィールド選公爵家のご意向次第といった所でしょうね……」


 ハァと溜息を一つ零したケレス学園長は、顔を上げると二人に向き直る。


「とにかく、決闘の件は了承しました。立会人には、ガーンズバック先生が適任でしょう」


 ケレス学園長の言葉に、ガーンズバック先生は分かりましたと頷く。

 それを確かめると、ケレス学園長はアレックスに目を向ける。


「スプリングフィールド選公爵のご意向は、申し訳ないけれどスプリングフィールド君が確かめておいてくれないかしら?夜間外出……いえ、外泊の許可を出しましょう。お願いできるかしら?」


 ケレス学園長の言葉に、アレックスは頷いた。


「はい、分かりました。王都スプリングフィールド選公爵邸であれば長距離魔導通信機がありますから、早速父に話を聞いてみます」

「お願いね」


 そう言うと、ケレス学園長は引き出しから一枚の書類を取り出してスラスラとペンを走らせて行く。

 やがて書き上がった書類を一度端から端まで確認し直してから、出来上がった書類をアレックスの方に差し出してきた。

 ケレス学園長から外泊許可証を受け取ったアレックスは、早速家に向かいますというと一礼して部屋を出ていった。

 その姿を見送ったケレス学園長は、フゥと溜息を吐くとガーンズバック先生に向き直る。


「全く……。カルディアの王子にも困ったものですね」


 ケレス学園長は、頭痛を堪えるかのように眉間に皺を寄せる。

 それに対して、ガーンズバック先生は笑みを浮かべてさえいた。

 笑顔を浮かべるガーンズバック先生に気付いたケレス学園長は、恨めしげに睨み付ける。


「ガーンズバック先生は、随分とお気楽な様子なのですね」

「えぇ、まぁ。所詮、私はただの立会人にすぎませんからな」


 ハハハッと快活に笑うガーンズバック先生。

 ケレス学園長は、呆れた様に何度目かも分からない溜息を吐く。


「私は、頭が痛いですよ。ガーンズバック先生の様に、暢気に構えてはいられません」

「まぁ、カルディアの貴族連中ときたら昔っから馬鹿が多いですからなぁ」


 腕を組んだガーンズバック先生は、顎に手を添えて懐かしむ様に頷いていた。


「フラれた腹いせに侵略戦争を仕掛けてくるような輩ですからな」

「それは、建国戦争の頃のお話で?」


 ケレス学園長の問い掛けに、ガーンズバック先生は二度三度と首を縦に振る。


「左様ですな。私も若かりし頃にはランと……失礼、初代国王陛下と轡を並べて、共に戦場を掛けたものです」

「ハァ、本当に……。当代の神聖カルディア王国国王は賢王と伝え聞きますし、第一王子も聡明な方だとか?賢明な判断をしてくれるように祈るばかりです」


 左様ですなと笑うガーンズバック先生を見て、ケレス学園長は再び頭を抱える。

 そうして、ひとしきり脳内で愚痴をこぼして気持ちを切り替えると立ち上がる。


「それでは、ガーンズバック先生。私は今から王城に事の次第を説明に向かいます」

「お気を付けて。それでは私は失礼いたします」


 ガーンズバック先生の退室を見送ると、ケレス学園長は王城に向かうべく身支度を整え始めるのであった。

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