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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
始まりの章

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プロローグ中編④

  巴と別れた後、一樹は屋敷の端にある駐輪場へとやって来た。

 小屋に入ると、オイルの匂いが鼻につく。

 倉庫扉の前を通って休憩室を抜け、ロッカールームに移動する。

 ロッカーの鍵を開け、キーとヘルメットを二つ取り出して振り向くと、部屋の入り口に龍次が立っていた。


「龍次さん?」

「調子に乗んなよ?天国は俺が継ぐ……」

「そうですね。桜ヶ埼の事、龍次さんにお任せします……」

「チッ、テメェは!……ッ!!」


 一樹の言葉に、龍次は怒りの眼差しを向けた。

 そのまま一樹に掴み掛かろうとして、その眼差しに息を呑んだ。


「……先に出ますね?万葉かずはを迎えに行かないといけないですから……」


 龍次の脇を通り過ぎ、一樹はそのまま部屋を出た。

 一樹が龍次を振り返る事は、二度となかった。


 しばらくして、駐輪場からバイクのエンジン音が聞こえてきた。

 ゆっくりと、バイクの走り去る音が聞こえる。


「ド畜生がっ!ッザケンなよ!!クソがぁ!!!」


 龍次は、怒りに任せてロッカーを殴りつけていた。


「クソッ!クソックソックソがぁ!ンな目してんじゃねぇよ!……ザケンなよ…………」


 今にも泣き出しそうな一樹の悲しみを帯びた眼差しに、淋しげな微笑みに、龍次は何も言えなかった。

 本当は何に苛立っているのか、どうしたいのか、龍次が答えを出すのには後少しばかりの時間が必要なのだった。



……

…………

………………



 屋敷を出てからすぐ、丘を降る長く緩やかなカーブをゆっくりと流していく。

 眼下に広がる街並みを一望すると、この街の様子がよく分かった。

 街の中心部は、南北に走る私鉄と東西に走るJRが交差していて大きな駅ビルを構成している。

 街の中心からは八つの大通りが郊外に向けて放射状に広がり、私鉄環状線が外環状、内環状の二本の環状道路に挟まれる様にして走っている。

 一樹は外環状道路を西に曲がり、街の北西部に位置する住宅街の一画を目指してバイクを走らせた。


 一樹は、住宅街に隣接する駅の一つでバイクを止めていた。

 商店街に接続するロータリーの片隅まで流して、目当ての人物の姿を探す。


 アーケードに掲げられた「乾通り商店街」の看板に、つい懐かしさを感じて目を細める。


「かずくん、おはよう!ちょっと待たせちゃった?」

「おはよう、万葉。僕も今来たばかりさ」


 一樹は、商店街を歩いてくる幼馴染みに片手を上げて応じ、ゆっくりと歩み寄る彼女の姿を眺めていた。


 ゆっくりとこちらに歩いてくる幼馴染み──万葉は、有り体に言って美少女だった。

 ほっそりとした小顔に切れ長の瞳は、凛とした意志の強さを感じさせる。

 それでいて、ふわりとした笑みを浮かべる小さな唇は柔らかく、自然に色付く桜色はあでやか。

 歳の割に背丈は低く、一見すると子供の様でありながらも、胸元の自己主張はとても激しく、一歩毎にその存在感を見せつけている。

 腰まで届く濡羽色の黒髪を白い組紐で一度後ろに束ね、毛先は白い和紙で纏めて赤い組紐で留めていた。


「それじゃ、行こうか?可愛いね、それ。似合ってるよ」


 万葉にヘルメットを手渡しながら、一樹は自分の頭をちょんちょんと突いて微笑んで見せる。


「フフッ、新しいの買ってみたの。って、かずくん?もぉ!」


 サイドを止める猫をデフォルメしたヘアピンを抑えて照れ笑いを浮かべる万葉だったが、気付いた時には一樹はバイクに跨っていた。

 万葉は急いでヘルメットを被ると、タンデムシートに跨って一樹の背にしがみつく。

 一樹は万葉の様子をチラリと確認すると、キックスターターを蹴り込んだ。


 通勤通学時間帯の駅前は人通りも多い。

 駅前にバイクで乗り付ける高校生というのは、それだけでも道行く人の好奇の目を引いた。

 衆目が集まってくると中には足を止める者もおり、次第に人垣の様相を呈してくる。

 殆どの大人達は一瞥するだけで、大体が少しすれば立ち去っていく。

 しかし中には、二人を遠巻きにして騒ぎ出す人達もいて……


「ねぇ、アレ!よくない?」

「アレ?どこの子?」

「桜ヶ埼じゃん!知らないとかヤバくね?」

「一樹様よっ!一樹様ぁ!!」

「「「様?!……」」」


「おい、見ろよ!」

「おぉ?すげぇ、デケェ!」

「桜ヶ崎?めっちゃ美人!チョーイイじゃん!」

「ウワッハァ?スンゲー、踏まれてぇ!」

「「「???、!!!……」」」


 彼等を取り囲んで騒つく人垣を置き去りにして、バイクは軽快なエンジン音を響かせながらロータリーを走り抜けて行く。

 北東方面に抜けて行く道にバイクが消え去るまで、その人垣が解散する事はなかった。



……

…………

………………



 一樹達の通う桜ヶ崎高校は、布都間市の北東に位置する。

 運営母体の学校法人桜ヶ崎学園は、小学校から大学まで一体運営しており、桜ヶ埼家が経営していた。

 一樹は学園の持つその広い敷地を、バイクで走り抜けていく。

 高校校舎の駐輪場に入り、定位置でバイクを止める。

 ヘルメットを脱ぐと、遠くから三三七拍子の声が聞こえてきた。

 一樹はそれを、聞くとはなしに聞き流していた。


 背後から聞こえたガラガラと扉の開く音に振り返ると、校舎へ入る通用口が開いて一人の男が姿を現した。


「よぉ、孺子こぞうじゃないか。夏休みだってぇのに、お忙しいこったな」

「師匠、おはようございます」

法眼ほうげんさん、おはようございます」


 法眼と呼ばれた男は万葉の言葉に軽く手を振って返すと、ヨレヨレの作業着のポケットからタバコを出して火を付けた。

 一樹は、そんな法眼の手元のビニール袋に目を止める。


「また朝から……仕事の方はいいんですか?」

「ウルセェ、その辺に抜かりはねぇよ!」


 法眼はニヤリと笑って袋から出した缶を一口煽ると、


「つぅか、俺から酒とタバコを取り上げたら、人生の三分のニは無くなっちまうぜ。んな事より、早く行ってやんな。あのハゲ!またハッスルしてやがんぞ?」

「あぁ、やっぱり・・・・。それじゃ、直ぐに片付けてきますよ」


 一樹がヘルメットを投げてよこすと、法眼は片手で器用にキャッチして見せて、そのまま駐輪場横の用具室に入っていく。


「おい、一樹・・!」

「何です?師匠……」


 法眼は無精髭の生えた顎に手を添えてしばらく考えを巡らせたものの、結局は何も言わずに頭を振っただけだった。


「……はぁ、いや、なんでもねぇ」

「そうですか?なら、僕はもう行きますね」


 結局、法眼はそれをチラリと横目に見遣るのみで一樹達と別れた。

 確かに何かを感じていたのに……



……

…………

………………



 四月一日わたぬき義彦よしひこは、今日も今日とて司書室の隅で本の山に埋もれていた。

 静かな室内には、カリカリとノートにペンを走らせる音だけが聞こえてくる。

 手慰みにと手元のカードをめくって、義彦は直ぐ隣で参考書と向き合う金髪頭に向かって声をかけた。


「タツ?生徒会長のご到着だが、行かなくていいのか?」

「あぁん?何で、俺が一樹の所に行かなきゃなんねぇんだよ?」

「今朝方、何かあったんだろ?」

「ウッセェ、知るか!テメェにゃ関係ねぇだろ……」

「そうか……なら、いい……」


 金髪が顔を上げると、これ見よがしに身に付けていたネックレスがジャラリと音を立てる。

 ジロリと睨み付けてみても、猫背の背中からはボサボサ頭の後頭部が覗くばかりで、その表情は窺い知れない。

 それ以上の話は一つとして無いまま、結局は参考書と向き合う時間を再開するのだった。


 義彦は視線の圧など意にも介さず、己の手中に視線を落とす。

 半ばから崩折れる塔と全てに平等な収穫の鎌、巡る運命は円環を成して終わり無く回り行く……



……

…………

………………



 一樹達が玄関前に顔を出してみると、ロータリーに並ぶバスの横で、ジャージ姿の生徒達を前に声を上げる年配の男性を相手に、屈強な男達が二人掛かりで宥めている所であった。

 男達に挟まれながらも、その痩せぎすの年配男性は二人を押し切るかの様な勢いで気炎を上げていた。


「良いですか?貴方達は、由緒ある桜ヶ崎学園の栄えある生徒の一員として、高い志を胸に常日頃から学園の一員として恥ずかしくない振る舞いを求められ、本競技会においては一人一人が学園の代表たる自覚を持って競技に臨み……」

「校長先生!」

「おぉ!生徒会長、良い所に!君からも陸上部の諸君に学園の代表たる立場を自覚し競技会には全力でもって学園の名に恥じぬ立派な成績を残すよう……」

「校長先生、落ち着いてください。それから、理事長は所用を片付けた後で、午後から直接競技場に来られるそうです」


 一樹の言葉を聞くなり、校長は急速に落ち着きを取り戻していった。

 咳払いを一つ吐くと、ガッチリと整えられた豊か過ぎる立派な黒髪・・・・・・・・・・を両手でしっかりと撫で付けて乱れたスーツの襟を正した。


「そうですか、それでは私も忙しい立場ですから後の事は生徒会長である君に任せます。」


 校長は早口で言いたい事だけ言い放つと、サッと踵を返して立ち去っていった。

 一樹の方も話は終わったとばかりに振り返り、先程まで校長を宥める事に苦労していた教師に向き合った。


「まったく、校長先生にも困ったものだなぁ」

「まぁ、それは……所で五利田ごりた先生、生徒会からの付き添いの件は大丈夫ですか?」


 ジャージの上からでも分かるはち切れんばかりの筋肉を、サイドチェストでアピールしている教師の様子は、勤めて無視する。

 五利田もそんな一樹の事などお構い無しに、モストマスキュラーに移行していく。


「フン!心配はいらない。生徒会顧問・・・・・として、陸上部顧問の代役についてはきちんと確認している」

「……。さぁ、陸上部の皆さん、騒がせてしまって申し訳ない。時間も押してますね、準備はいいですか?」

「ハハハッ、何時もの事だが、ちょっと寂しいね……」


 周囲を見廻すと、先程まで校長相手に一緒に苦労していた応援団長の姿も既に遠い。

 夏だというのに破帽に黒い外套を靡かせて、風を切って歩く下駄の音、その広い背中もまた、何時も通りだった。


「ハッハッハ!皆、もう少し構ってくれてもいいんだがねぇ」


 陸上部員を手際良くバスに誘導し、運転手に合図を送る一樹の様子に、五利田もそそくさとバスへ乗り込んでいった。

 競技場に到着してからの事を陸上部とチア部の部長、付き添いに出る養護教諭に申し送りを済ませてから、ずっと後に控えて待っていた万葉の元へと戻る。


「お帰り、かずくん」

「ただいま、万葉。じゃぁ、行こうか」


 テキパキとその場を片付けていった一樹の何時もの様子からは、誰一人としてその後の運命に気付く事など出来はしなかった……

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