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プロローグ前編①

 大陸統一歴2310年、9月

 ローランディア選王国、東方領領都スプリングフィールド

 選公爵立エクウェス学園附属大図書館にて──


 青く澄み渡る空に過ごし易い暖かな陽気、緩やかに優しい時間が流れ行く、そんな麗らかな午後の一時……

 静謐な凛とした空気の漂う広々とした図書館の一角で、柔らかな光の照らす窓辺の席に一人の幼子が座っていた。


 ローランディア選王国東方領の領都スプリングフィールドにあるこの図書館は、同じく東方領にある選公爵立エクウェス学園に併設されている。

 その、王国に全部で5つある学園併設の大図書館は、学び舎の一つとも言える巨大施設である。

 その建築の巨大さとそれに見合う莫大な蔵書量は、王国内でも有数の規模を誇るものであった。


 幼子が今いるこの閲覧室は、大貴族が開く舞踏会のホールの様に広々としていて天井も高く、煌びやかな装飾の施されたシャンデリアが幾つも吊り下げられている。

 閲覧室にはその規模に見合う数多くの机が並べられているにも関わらず、その天井の高さの為に窮屈さの様なものは一切感じられない。

 高い天井から幾つも吊り下げられたシャンデリアから降り注ぐ魔術の灯りは、利用者のために読書のし易さを最優先に計算して配されており、高い位置にあっても読み手の影が読書の邪魔になることもない。


 この大図書館は、全階層を貫く巨大な吹抜け構造によって、大きく二つの空間に分かたれていた。

 吹き抜けには三つの螺旋階段が並び、大図書館の屋根を支える柱の役目を果たしている。

 その三つの螺旋階段を起点として閲覧室と蔵書室を繋ぐ通路が渡されており、さながら空中回廊の様に二つの空間を繋いでいるのである。

 この吹抜け構造を挟んだ二つの空間は、四階層からなる閲覧室と五階層からなる蔵書室となっており、各階層はそれぞれが互い違いに配されていて、空中回廊によって往き来が出来る造りになっていた。


 この一階から天井までを貫く巨大な吹き抜けに渡された空中回廊には、今も数多くの学生達が行き交っており、静けさの中にあっても一種独特の活気を感じさせるものとなっていたのであった。

 そんな幾多の学生が利用する大図書館の中にあって、一般市民にも開放されているとは言っても、まだまだ幼い子供が一人で本を読んでいる光景というのは珍しくもあった。


 すりガラス越しの柔らかな日差しが、窓辺に座る幼子の手元の本を優しく照らしだしている。

 金と銀の輝きを放つ真摯な眼差しが、熱心に本の上の文字を追いかけていた。

 本を読み進めるその動きに合わせて、かすかに揺れ動くしなやかで長い金の髪は、光を映して黄金色の煌めきを纏っている。

 そうして透き通る白磁の様な真白の肌を黄金色の煌きに彩り、金糸銀糸で縁取られた首輪チョーカーも細く滑らかな首筋を飾っていた。

 首輪に留められた闇夜の如き漆黒の花の飾り石が、幼子の柔肌のきめ細やかな白さと対をなしており、お互いの色を見事なまでに引き立て合っている。

 その幼子のほっそりとした肩の描く滑らかな曲線と物静かな佇まいが、幼子の姿を目に留めた者達にまるで今にも消えゆく夢幻ゆめまぼろしであるかの様に脆く儚げな印象すら与えていたのだった。


 机の上に開かれた分厚く重量感のある本に幼子が優しくその白く細い指先を添えると、本の持つ重量感との対比が幼子の印象をより一層際立たせていた。

 分厚い本の上を静かになぞる指先は、滑らかにそろりとページをめくっていく。


 そのゆったりとした優しげな仕草に、幼子は妖しい色香すら漂わせて見る者を惑わせていった……


 静かなはずの閲覧室では行き交う人々が一人、また一人とその足を止めていく。

 その数を時と共に増やし、微かな騒めきは少しずつ大きく、やがては喧騒と言って差し支えなく周囲にその声を広げていく。


 また1ページ、幼子の細く白い指先が本のページを捲っていく微かな音が聞こえる。

 その仕草に騒めきはしんとして静まり返り、幼子が顔に掛かった髪をそっと掻き揚げればその度にため息が漏れ聞こえた。


 ここは、ローランディア選王国東方領領都スプリングフィールド、選公爵立エクウェス学園附属大図書館……


 ただし、今足を止めている者達の多くが一時ここに来た本来の目的も忘れて、静かに本を読み耽る幼子の美しさに魅入られていた。

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