#3
それから勝は、マナとよく話すようになった。
マナが「おはよう」と言ってきたら、「おはよう」と返した。話をするときは基本的にマナの方から話題をふってくるが、時々勝も話題をふることがあった。
話の内容は、好きなものや、今日や昨日あった出来事など、他愛のないような話ばかりだった。
「ねえ、マサくんは昨日のスーパーラッキーヒーロー見た?」
スーパーラッキーヒーローは、今社会現象とも言えるほど人気のアニメで、少年漫画が原作になっている。勝はそれを見たことがないのであまり詳しく知らない。
「見てないけど」
「そっかー、すっごくかっこいいんだよ。特にゾル様のあのシーンがね…」
――という具合だった。
マナは少し前までふわふわしたかわいい系のゲームやアニメのキャラが好きだったが、今は真逆でかっこいい少年漫画やアニメのキャラが好きになっている。人って趣味や好みがコロコロ変わるんだな、と勝は思った。
勝は、いつからかマナに対して複雑な感情を抱くようになった。マナといると楽しい。マナがそばにいてくれると、自分まで元気になる。マナのことが、どうしようもなく気になる。気になって、マナのことをもっと知りたくなる。知りたくなれば知りたくなるほど、モヤモヤする。
人はそれを『恋』というが、まだ未熟な勝にはそれが分からなかった。
それからいくらか年月が経ち、勝は六年生になった。
一方で、マナは六年生になってからよく休むようになった。マナのクラスの担任の先生の話によると、あまり体調がよくないらしい。
勝にとってマナがいないのは少し寂しいけれど、それでもマナがいつか元気に毎日学校に来れるようにと、勝は毎日祈っていた。
さらに年月がたち、勝は小学校を卒業し、中学生になった。今日は勝が通うその中学校の入学式だ。
校舎の周りには桜の木が植えてあり、それが可憐な薄いピンク色の花を咲かせていて、綺麗に晴れた青空に映える。校門付近には入学生とその保護者たちが大勢集まり、入学式の看板の前で笑みを浮かべながら写真を撮っている。
勝は入学式やオリエンテーション、記念写真撮影などを終えて、多分ぼくには中学でも新しい友達はできないんだろうなと思いながら、先生と話している両親のもとへ向かおうとした。
その時だった。
「マサくん」
マナの声だった。振り返ってみると、そこにはやはりマナがいた。少し元気がなさそうな雰囲気だった。
「ああ、マナ。久しぶり」
「久しぶり」
マナは話し声にも少し元気がなかった。
「マナもこの学校なんだね」
「うん…」
マナはしばらく黙りこんだあと、続けた。
「でも、あんまり長くいられないの」
「なんで?」
「わたし…入院するの」
「えっ…」
「マサくんにはずっと言ってなかったけど、わたし、小学校の五年生あたりから病気にかかったの。結構重い病気。だからよく学校を休んで病院に行ってたの。それで、この前お医者さんに治療のために入院してくださいって言われたから…」
言葉が出なかった。マナが続ける。
「でも、完全にさよならってわけじゃないよ。わたし、この前スマホ買ってもらったの。友達といつでも話せるようにって。だから…ライン交換しよ?そしたらいつでも話せるから」
「……」
やはり勝は何も言えなかった。あまりにもこの出来事がショックすぎる。いつでも話せるとマナは言うけど、ほとんど会えないと言うのは、勝にとって辛すぎる。
「…嫌ならいいよ」
マナがそう言いかけたとき、勝は言った。
「嫌じゃない。交換しよう」
マナは少し嬉しそうな顔で返した。
「ありがとう」
それから勝とマナはラインを交換した。
「また今度お母さんにてマサくんに面会に来れるようにお願いするよ。もしできるようだったらいつでも来てね」
その言葉で、勝の寂しいという気持ちは少し晴れた。「…うん」
それから勝とマナはそれぞれの向かうところへ向かった。
それから勝は、マナのいない毎日を過ごすことになった。新しい学校でもあまり友達はできず、小学校の頃と変わらない毎日を繰り返していた。
勝はいつも心の中で(マナにまた会えますように)と祈っていた。
マナがまた元気に学校に来て、また楽しくて寂しくない毎日を送れるように。
自分が安心できるように。
自分もマナも、幸せになれるように。
毎日祈っていた。