僕は一番にはなれない
僕はゆりさんのそばにいたい。だけど、ゆりさんには特別な人がいる。
どうしたら今の関係以上になれるのか。
どうしたらゆりさんのそばにいれるのか…
ぎゅっと胸が苦しくなっていく。
そう悩んだとき、優人さんに会いたいと思った。
僕は優人さんがいる祈平霊園へ向かった。
夕方だったこともあり、あたりは静寂で。
風に揺れる木々の音が、優しく霊園を包んだ。
「優人さん。はじめまして、伊藤大吾といいます。」優人さんに挨拶をする。
大吾は正座になり優人に語りかけた。
「ゆりさんは、優人さんのことが本当に大好きなんですよ。優人さんのお話をするゆりさんは、本当に可愛くて…僕はゆりさんの一番になれないんだなぁって。」
「優人さんが一番ゆりさんを幸せにしたかったと思います…でも本音をいうと、優人さんが本当に羨ましいです。」
「優人さん、俺はどうしたらいいですか?」
情けない質問だと分かっている。返事が返ってこないことも分かっている。
それでも、優人さんに聞きたかった。
すると後ろから声がした。
「あら!優人のお知り合いの方かしら?」60代半ばぐらいの女性がそこにいた。
「あ、はじめまして。ゆりさんの知人で。優人さんにご挨拶がしたくてきました。」
大吾は急いで優人が眠るお墓から降り、挨拶をする。
「あら、ゆりちゃんの~!はじめまして。優人の母です。わざわざここまで来てくれてありがとう!」
それから優人の母と大吾は、一緒に掃除をしながらたくさんお話をした。
「お名前聞いてもいいかしら?」
「伊藤大吾といいます!」
「大吾くんね!ゆりちゃんの知り合いか~ゆりちゃん元気かしら?」
優人さんのお母さまは気さくな方で、徐々に深い話まで聞かせてくれた。
「7月7日の命日はね、優人に会いにいかないようにしているの。
私たち家族にとって、とても大切な日だけれど…
優人が愛したゆりちゃんに2人で過ごしてもらおうって主人と決めたの。
実はね、優人が亡くなってから、ゆりちゃんに他の人を見つけて幸せになってほしいって言ったことがあるの。そしてゆりちゃんこう言ったのよ。」
『私はこれからも優人さんを世界で一番愛しいきます。だって、私の中で優人さんは生きていますから。だから、毎年7月7日に優人に会いに来てもいいですか?』
「だから命日の次の日に、優人に会いに来ているの。でもまぁ、毎月掃除で来ているんだけどね。」
ふふっと笑う優人の母。
「ゆりちゃんの日記もね…。
優人をこんなにも愛してくれて、母としては嬉しいんだけど…でもやっぱり、いつかは幸せになってほしいと思うの。もう私たちにとって、ゆりちゃんは大切な娘だからね。」
優人の母は、ゆりが毎年置いている日記をそっとなでた。
「それにね、優人もゆりちゃんには幸せになってほしいと思うの。
その幸せの隣が自分じゃなかったとしても、大好きな人には幸せになってほしいものよ。」
そして優人の母は、優しく微笑み大吾に伝えた。
「大吾くん、ゆりちゃんのことを守ってあげてね。」
僕は優人さんのお母さまの言葉に、涙が止まらなかった。
大切な人だからこそ、人は幸せになってほしいと願う。
だけど、それは心から信頼できる人と一緒になってほしいもの。
……杏ちゃんも、深い絆がある優人さんのお母さまも、僕を信じて応援してくれる……
すっと心が明るくなっていった。
僕は優人さんになれないのは当たり前のことだ。
ゆりさんの一番になれなくてもいい。それでも、ゆりさんのそばにいたいんだ。
「……はい!お話たくさん聞かせてくださりありがとうございました。ゆりさんのこと諦めません!」
優人の母は笑って、「頼んだわね!」と言った。
大吾は、優人の母に挨拶と感謝を伝え、霊園を後にした。
帰りの途中で、ゆりにメッセージを送る。
「今どこにいますか?ゆりさんに会いたいです。」