優人へ紡ぐ日記
あの日のご飯から、数か月がたった。
特にゆりさんと僕と距離が空いたわけでもなく、これまで通りに過ぎていった。
僕はゆりさんを想い続けていいのか、迷惑じゃないか…
ゆりさんの特別にはなれないことを知ったからこそ、何もアクションができなかった。
「大吾。」休憩時間に杏から顎で呼びだしを受けた。
「杏ちゃん怖いよ。カツアゲするみたい…」そういいながらついていった。
「優人さんについて聞いたんだって?」腕を組みながら聞く杏。
「うん…ゆりさんにとって大切な人なんだって」
「大吾、ゆりちゃんのこと好きなんでしょ?諦めないでよね。好きで居続けるのは迷惑じゃない。大吾頑張って。ゆりちゃんを幸せにしてあげて。」僕のシャツを握りしめて、涙を堪えながら話す杏。
きっと、ずっとゆりさんをそばで見てきたからこそ、ゆりさんに幸せになってほしいと、心から願っている。そして大切なゆりさんを僕になら幸せにできるんじゃないかって信じてくれている杏ちゃんに泣きそうになった。
「杏ちゃんありがとう…これからも相談にのってくれる?」弱気になっていた僕は、杏ちゃんの言葉に元気をもらった。
「当たり前でしょ!」そういう杏ちゃんは世界一かっこよかった。
それからゆりさんが大丈夫であれば、優人さんの話をたくさん聞くようになった。
優人さんの話をするゆりさんは、恋をしているかのように可愛いくて。
他の男性の話を聞くのはって思ったけれど、ゆりさんに会えること、そして話を聞けるのならそれでよかった。
実は杏ちゃんに、どうしもうないプライドなんて捨てろって言われたのだ。
好きなら、ゆりさんの全部を好きになりなさい、と。
その言葉を聞いてから、心が軽くなった。
ゆりさんの一瞬一瞬変わる表情がさらに愛おしく感じるようになった。
そんなある日、僕はゆりさんのお家に上がらせてもらう機会があった。
恒例のご飯の後、予想外の大雨が降りびしょ濡れになってしまったのだ。
ご飯屋さんから家が近かった、ゆりさんの家で雨宿りをさせてもらった。
ゆりさんがお風呂に入っている間、机におかれたノートを見つけた。
棚には古くなったノートが何冊か置かれている。
開いてみるとそれは日記だった。
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◆4月9日(月)
今日の撮影では、ハプニングがあったけれど何とか乗り切れた。
優人だったらもっと上手に場を盛り上げることができたんじゃないかって。
ついつい優人を思い出しちゃうよ。しっかり反省をして明日も頑張る!
辛いこともあるけれど、私は明日も明後日も優人の分も生きるからね。
これは、はじめて橘さんと会った日の出来事だ…
◆5月10(火)
最近現場で一緒になる人が増えてきた!知っている人がいると安心感があるよね。メイクを担当する杏ちゃんは、いつも私のことを心配してくれるの。優人も一度だけあったことあるよね?とっても可愛い子なの!
あと、カメラマンの伊藤くん。私より年下なんだけど、周りをよくみてる子でしっかりしてる。私があの年齢の時は、もっとバタバタしてたな~とってもいい子なんだよ。
素敵な人たちと出会えて、一緒にお仕事ができて、本当に環境に恵まれているよ。優人とも絶対に仲良くなれると思うの!
私、優人のようにチームを大事にする人間になれているかな?
◆7月7日(水)
今日は特別な日だね。優人がこの世界からいなくなってから、4年がたったね。
この日記も4年目に突入!三日坊主の私が続けられるなんて思わなかったでしょ?
でもこの日記を書くことで、優人と繋がっている気がするんだよ。
優人大好きだよ。ずっとずっと大好きだよ。
7月7日は、優人さんの命日…
大吾は新しい日記を手に取った。
はじめて優人さんの存在を知った日、7月7日のページを開いた。
◆7月7日(木)
今年は急遽お仕事がはいっちゃって。朝からずっと一緒にいられなくてごめんね。
優人なら、自分を必要としてくれている仕事に誇りをもってしっかりやり切れ!ていうだろうなって思って。最後までやりきってから、会いに来たよ。えらいでしょ!
この日は、前に話した伊藤くんと一緒にきたんだよ。
帰りに優人とのこと話したの。そしたら伊藤くん泣いたの(笑)
話すつもりなかったんだけどさ。伊藤くんが真剣な顔で、知りたいですっていうから…
泣かせるつもりはなかったんだよ。とっても優しい子なんだなって思った。
一緒に泣いてくれる人たちが周りにいて幸せ者だね!優人、私と出会えて幸せだった?
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「優人さんのことを心から愛してるんだなぁ」僕は涙を堪えながらぽつりとつぶやいた。
『ちょっと!恥ずかしいから!』大吾が日記を読んでいるのを見つけたゆりは、真っ赤になって叫んだ。
「優人さんへの愛を感じました!」ニヤニヤしながら僕はいう。
『勝手に人の日記はみちゃいけないって教わらなかったの?』怒っているゆり。
それすらも可愛くみえるのは重症なんだと僕は思った。
「ごめんなさい」と、いつものお願いポーズをした僕。
仕方ないな~となんだかんだ僕に甘いことを知っているからこそできるのだ。
「ゆりさん、僕も優人さんには劣るかもしれませんが、ゆりさんのこと大好きです。」
実は自分の気持ちも会話の間に言えるようになった。
始めは、『はいはい、ふざけているんでしょ。』って受け流していていたゆりさん。
だけど少しずつ反応が変わってきた。
それは僕のことを考えてくれているからなのかな?