物語の始まり
僕はまだまだ新人のカメラマン。
はじめての現場では、いつもたどたどしくなってしまう。実際僕は内気な性格だ。
アシスタントからスタートし、やっとカメラをもって自分の写真が雑誌に掲載するようになった。徐々に俳優さんや現場のスタッフさんとも積極的に話せるようになった。
彼女と出会った日を今でも覚えています。
企業の宣伝商品が、スタッフさんの手配ミスで足りず凍りついた。
その時、彼女が一番に声をあげ最後まで諦めなかった。
最終的に、彼女の素晴らしい案により想定していた以上の作品を作ることができた。
当時の僕はシャッターを押すことしかできなかった。
次第に明るくなっていく現場に、
みんな「ゆりさんナイス案!」「どうなるかと思った!」「ありがとう!」
と彼女の周りをたくさんの人が囲んだ。
『大事なのは、この状況をどう乗り越えるかですよ!』笑いながらガッツポーズをする彼女はとってもかっこよかった。
『皆さんもご協力いただきありがとうございました!お疲れ様です!』彼女はそういい、現場にいた1人1人に挨拶をしていた。
僕のところにも挨拶にきた彼女。
『カメラマンさんも急な変更に大変でしたよね!臨機応変な対応流石です!』そう笑顔でいう。
きっと1人1人にポジティブな言葉をかけていたのだろう。彼女の笑顔や言葉に胸が弾んだ。
「ぼ、僕!伊藤大吾といいます!今日一緒に仕事ができて幸せでした!」
うわっ緊張で言葉が裏返った…恥ずかしい!
僕の言葉にきょとんとしていたが、彼女は笑ってこう言った。
『ふふ!伊藤さん、こちらこそ!私橘ゆりといいます。今後ともお世話になります。』
そういい彼女は手を振って、現場を去っていった。
「橘ゆりさん…」僕は彼女の背中を見つめた。
僕はもっと彼女を知りたいと思った。
撮影の片付けをしながら他のスタッフさんに橘さんについて聞いた。
「橘さんってどんな人なんですか?」
よく橘さんと現場が一緒だという男性ディレクターの須藤さんに聞く。
「ユリさん?雑誌の編集者でね。ほんと現場を盛り上げてくれるし、太陽みたいな人だよね。企業やモデル、俳優さんからも厚い信頼があるみたいだよ。」
「凄い人なんですね、さっきの対応もそうですし…」
「そうそう!彼女がいれば、きっと大丈夫って思わせてくれるんだよね」
僕はもっと橘さんと仕事がしたいと強く思うようになった。
お疲れ様~とその日の仕事は終わった。
これは恋なのか?それとも尊敬なのか?
あの時の僕は、好奇心の気持ちから橘さんともっと時間を過ごしたいと思った。