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聖女の位を奪われたけど、精霊の加護は私に与えられたようです  作者: 三門鉄狼


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真相

「な、なんだあれは……」


 王都の空に出現した巨大な魔獣に、近衛兵は私を捕らえる命令も忘れてその場に立ち尽くしていた。


 無理もない。

 ザインから魔獣のことを聞いていた私でさえ、その姿に怯えてしまう。

 巨大さも、恐ろしさも、思っていたのと桁違いだ。



 ――キアアアアアアアアッ!



 魔獣が咆哮した。

 この世の終わりのようなその声に私たちは耳を塞ぐ。


 魔獣はゆっくりと羽ばたきながら王都へ向けて降下し始めた。


 私はザインに問いかける。


「どうすればいいの? あんなのを倒すなんて……」


 そんなの無理……という言葉をなんとか飲み込んだ。

 言ってしまえば心が折れてしまう気がした。


 ザインは私の前に立つと、そのオニキスのような黒い瞳で私をまっすぐ見て言ってくる。


「伝説にも詳しいことは伝わっていない。ただ、聖女と竜王の心のままに行動すれば魔獣の脅威は去るはずだ」


 なにそれ!

 つまり私たち任せってことじゃない!


 私の不満が顔に出てしまったんだろう、ザインは視線を逸らし小さくつぶやくように言った。


「……すまない」


 あ、困ってる。

 ちょっと可愛い。


 なんて和んでいる場合ではない。

 魔獣をどうにかする方法を考えないと。


「あれ、でもクリスティナにも聖女の力が宿ったんだから、協力すればいいんじゃない?」


 二人分だから二倍の浄化能力だ。


 彼女と手を組むのは気が乗らないけど、大勢の人々が犠牲になることを考えたらそんなこと言っていられない。


「ちょっと待って。クリスティナ嬢が聖女の力を? どういうことアリシア」


 リゼルが聞いてきたので私は先ほどの出来事を話す。

 クリスティナが突然聖女の力を発揮して魔物を消滅させたこと。

 今ごろはセウェルスと一緒に王都の魔物を掃討しているはずだ。


「バカな……そんなことありえない……まさか!」


「どうしたんだいリゼル?」


「あ、はい、カルカス殿下。考えたくはありませんが、クリスティナ嬢は禁忌の力に手を出した可能性があります。そして、そうだとすると……彼女の活躍は長くは続かないでしょう」



◇◆◇◆◇



「聖女様が魔物を倒してくれたぞ!」

「ありがとうございます!」

「聖女万歳! セウェルス殿下万歳!」


 これだ。

 これこそが自分の求めていたものだ。


 王都の市民の歓声を浴びながらクリスティナは恍惚としていた。


 セウェルスとともに立ち、聖女の力をふるい、人々から称賛される。

 これが自分のあるべき姿だ。

 高貴な自分にふさわしい立ち位置だ。

 アリシアなどという下賎な女には不相応な聖女という存在だ。


(それにしても、本当にすごい魔道具……魔物がどんどん消えていく)


 クリスティナは自分のみぞおちのあたりをそっと撫でる。

 そこには使用人から受け取った宝玉のような見た目の魔道具が埋め込まれている。


 身体に埋め込むと聞いたときは気が進まなかったが、簡単に取り出せるというので仕方なく使うことにした。

 なによりクリスティナにとっては聖女の力を手に入れセウェルスの心を、そして自分の地位を取り戻すことが重要だった。


 そして……彼女は魔物を倒す力を手に入れた。


 本来聖女が持つべき治癒魔法ではない。

 だが歴代の聖女の中には魔物退治をし続けた者もいる。

 ならばこれで面目は立つ。


(わたくしは聖女でいられる……!)


「大丈夫か、クリスティナ」

「はぁはぁ……問題、ありませんわ、セウェルス様……っ」


 そしてなによりセウェルスに目を向けてもらえる。

 そのことに強い満足感を覚えながらクリスティナは荒い呼吸の間から答えを返した。


 息が苦しい。

 まるで全身の力が奪われていくようだ。

 けれどここで休むわけにはいかない。

 もっと魔物を倒して自分が聖女だと見せつけなければ。



 ――キアアアアアアアアッ!



 そのとき上空から恐ろしい咆哮が聞こえた。

 顔を上げれば、見たこともないほど巨大な禍々しい姿の魔物が空に浮かんでいた。


「な、なんですの、あれは……」

「クリスティナ、いくぞ」


 クリスティナは恐怖を覚えるが戦わないという選択肢はなかった。

 魔物を倒さなければ、自分は聖女ではいられないのだ。


「はい、セウェルス様……ぐっ!?」


 突然強い痛みがクリスティナの全身を襲った。

 まるで身体中を太い針で刺されるような痛みに立っていられなくなりクリスティナはその場に倒れる。


「クリスティナ! どうした、クリスティナ!?」


 セウェルスの声を聞きながらクリスティナの意識は遠のいていった。



◇◆◇◆◇



「昔、邪悪なる魔法使いが生み出したとされる魔道具に、魔物をおびきよせ操るものがあったといいます。それは魔物を消滅させることも可能だったそうです」


「エシャート公爵令嬢はその力を使っていると?」


「はい。どこで手に入れたのかは知りませんが……」


 カルカス殿下とリゼルの会話を聞いていた私は愕然とする。

 魔物をおびきよせる?

 ということはつまり……。


「王宮や王都に魔物が現れたのはその魔道具のせいなの?」


 私の問いにリゼルは頷く。

 なんてこと……。


「困ったことに、その魔道具は使用者の魔力を強制的に引き出して力の源とします。ですから……」


「エシャート公爵令嬢の魔力が尽きたら魔物は倒せない、というわけか」


「はい。そして上空に出現した魔獣はおそらく大量の魔物の魔力に惹かれて魔道具とは無関係に出現したものでしょう。あれはクリスティナ嬢では操ることも倒すことも不可能です」


 ……ということは結局、ザインが言っていた伝説のとおりに聖女と竜王がなんとかするしかないってこと?


 つまり、私とジルが……。


「……ジル?」


 ふと目を向ける。

 ジルが上空の魔獣を睨みつけていた。


 そのシトリンのような金色の瞳が異様に輝いて見えた。


「ジル……」


 不安を覚えて声をかけたその瞬間。



「ぐああああああああああっ!」



 突然ジルが吼えた。

 人のものとは思えないすさまじい声量の叫び。

 そしてすごい勢いで彼の身体から魔力が溢れ出る。


「ジル!」


 私は駆け寄ろうとした。

 けどジルを中心に吹き荒れる強い風に阻まれて近づくこともできなかった。


「あ……うそ……?」


 私は信じられない思いでその光景を見る。


 一度は元に戻った彼の左腕がふたたび鱗に覆われる。

 左腕だけではない。

 身体中が竜化して、元の人間の皮膚のほうが少なくなったみたいだ。


 そして彼の背中からは、よく似合っていた軍服を突き破って巨大な一対の翼が生え出てきた。


「うぉおおおおおおお!」


 もう一度巨大な咆哮を放ったあと――



 ――ジルは上空の魔獣へ向かって飛び立っていった。

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