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聖女の位を奪われたけど、精霊の加護は私に与えられたようです  作者: 三門鉄狼


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暗殺者

 私たちはシャルロッテ王女の居城を出発して、リゼルが待つロミア北端の街ザレスに向かった。

 私とジル、カルカス殿下とそれぞれの護衛だ。


 第五王子と隣国の第二王子がそろって国を縦断……なんて知られると大騒ぎになってしまうのでどちらも少ない人数でお忍びの形だ。


 それでもどちらの馬車も庶民のものとは思えない豪華なもの。

 立ち寄る街々でもてなされ、一番いい宿に案内される。

 中にはわざわざ町長が挨拶に来るようなところもあった。


 ジルはそれを面倒くさそうに、カルカス殿下はそつなく受け流していた。


 私は端っこのほうで侍女みたいな顔をしておとなしくしようとしていたのに、カルカス殿下がわざわざジルの隣に座らせたりして、けっきょく『噂の聖女』だとバレて拝まれたりした。


 なんでも『カザハンの奇跡』とかなんとか呼ばれて話が広まっているのだとか。

 あまり騒がれたくないんだけどな……。


 でもカルカス殿下が言うには、


「それは仕方ないよ。今各地で魔物の出現数が増えていて、怯えている民は多い。そこに国一つ救った聖女が現れたなんて噂が流れればみんな飛びつくさ」


 とのことらしい。

 いや国一つなんて大げさな……。


「噂なんてそんなものさ。みんな自分が思いたいほうに考えるんだよ」


 そういうものなのね。

 しかしこの噂が広まって、エルテシアの王都に届いたら……と思うとちょっと気が重かった。


 クリスティナにはやはり聖女の力は宿っておらず、そのことは王室内には知れ渡っているらしい。


 カルカス殿下によると、


「今のところ目立った動きはないようだけどね。聖女庁はクリスティナを聖女に据えたまま、打開策を探っているようだよ」


 という状況らしいけど。

 そこにもし、聖女として活動している私の話が伝わったら……どうなるのだろう?


 連れ戻され、無理やり聖女にされるのだろうか。

 かつては聖女に憧れていた私だけど、今となってはもうあの王都で聖女になりたいとは思えなかった。




 二週間ほどで私たちはザレスの近くにある山間の村に到着した。

 今夜はここに一泊して、明日ザレスに着くとのこと。


 ジルの護衛の人が泊まれる宿を探しにいっている間、私たちは村の入り口で待っていた。


 夕暮れどきで、農作業を終えた村の人たちが家に帰っていく。

 道では子供たちが駆け回って遊んでいる。


 そんな穏やかで平和な光景に似合わない絶叫が響き渡った。


「た、助けてくれ! 魔物だぁ!」


 森のほうから聞こえてきた声に、私とジルは駆け出した。カルカス殿下もあとからついてくる。


 現場にたどり着くと、親子が数体の魔物に取り囲まれていった。

 父親が手に持った農具を振り回して魔物を追い払おうとするけれど、当然そんなことで魔物はあきらめてくれない。


「ルー!」


 私は急いで浄化の魔法を発動しようとする。

 けれどそれより早く、オオカミのような姿の魔物が牙をむいて親子に飛びかかった。


 ダメ! 間に合わない!


 そう思った次の瞬間。

 ざっ、と黒い人影が現れたかと思うと、親子を抱え上げて魔物の輪から救い出した。


「え……?」


 真っ黒な装束に身を包んでいて、フードをかぶっていたので顔もはっきりとは見えなかったけど、めずらしい黒い髪とオニキスのような黒い瞳が印象的だった。


「誰だか知らないが助かった! アリシア!」

「う、うん!」


 ジルに言われ私は魔法を発動した。

 ルーが放出した清浄の力で魔物たちはあっという間に消滅する。


「大丈夫? 怪我はないかな」


「はい……ありがとうございます!」


 カルカス殿下にお礼を言う父親。

 子供は大泣きしているけど怪我はなさそう。

 よかった……。


 私は親子を助けた黒衣の彼にお礼を言おうとしたんだけど……。


「あれ……?」


 その姿はもうどこにもなかった。




 その夜。

 私たちは村を救ってくれたお礼をしたいと言う村長さんの家に招かれた。


 大げさな、とは思うけど、あの魔物は放っておいたら村を襲い大勢の村人が犠牲になったかもしれない。

 そう考えると村長さんの気持ちもわかる。


 私たちは出された料理をありがたくご馳走になった。猪の肉が入ったスープは野生的だけど美味しかった。


 村長さんが宿も手配してくれたので私たちはそこに泊まることになった。

 二階の一室に案内してもらった私はすぐにベッドに横になった。


 明日にはザレスに到着して、久しぶりにリゼルに会う。


 何年振りだろう。

 私の中のリゼルは、頭がいいけどまだ幼い子供の姿のままだ。

 リゼルにとっても私は子供のままだろう。


 それでもきっと顔を合わせたら昔と変わらずに言葉を交わせる。

 そんな気がした。


 楽しみだな……。




「……?」


 なんだかおかしな感覚に目が覚めた。

 誰かに呼ばれたような気がしたのだ。


 起きるにはまだ早い時間だ。

 外はまだ真っ暗で、冷えた夜風が窓から流れ込んでくる。


 ……あれ?

 私、窓開けてたっけ?


「っ!」


 次の瞬間、音もなく人影が私に飛びかかってきた。

 腕を抑え、手にしたナイフを振り上げる。


 黒い髪と、オニキスのような黒い瞳が月明かりに輝いて見えた。


「あなたは……」

「ちっ!」


 小さく舌打ちしてそのままナイフを振り下ろそうとする。

 そこへ。


「アリシア!」


 カルカス殿下が部下と共に部屋に飛び込んできた。


「くそっ」


 黒装束の彼は窓から逃げ出そうとしたが外を見て踏みとどまった。

 外にも兵士の人たちがいるのだろう。


「殿下……これは?」


「ごめんねー。こんなこともあるんじゃないかと思って、ずっと見張りを立たせてたんだ」


「誰かが私を狙っていると?」


「そう。誘拐か暗殺かはわからないけどなんらかの動きはあると考えていた。捕まえれば目的も命じた人間も聞き出せるしね」


 もしかして、カルカス殿下はそのためにわざと私が聖女だとアピールしてたのかもしれない。私を狙っている誰かが居場所をつかめるように。


 謝るということはそういうことなんだろう。


 腹が立つ……より前に怖いと感じた。


 この幼い笑顔の裏でそんな思考を張り巡らせていなければ、常勝将軍なんて呼ばれるような人間にはなれないんだと思う。


 カルカス殿下の部下が黒装束の彼を取り囲んで捕らえる。


「いろいろと話を聞きたいところだけど、ここじゃ村の人たちに迷惑がかかるから、明日ザレスに着いてからにしよう。ところで……」


 とカルカス殿下は首を傾げる。


「これだけ騒ぎが起こっているのにジル王子はどうしたんだろうね」


「っ……まさか!」


「いや、見張りはちゃんと立ててるよ。誰も侵入してない」


 だったら……どうして?

 私は慌てて部屋を飛び出し一階のジルの部屋へ向かった。


 ジルの部屋の前には彼の部下が集まっていた。

 みな困惑した様子だ。


「どうしたんですか?」

「あ、アリシア様……それが……」


 部下の皆さんはどう説明すればいいかわからない、といった様子だ。

 私はそのまま開いていた扉から部屋に飛び込んだ。


「ジル……!?」


 そして息をのむ。


 ジルはベッドから転げ落ち床にうずくまって苦しそうにうめいていた。

 暴れるのを押さえつけるようにされた左腕。



 それはまるで竜のような鱗に覆われていた。

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