家族を遺族にしよう
ブチ切れた愛子はそのまま立ち去ってしまう。
もうちょっとテンキチを殴るシーンを見たかった気もするが、
この部屋から出る方法を探す方が先だ。
「いやー、失敗しちゃったね」
ケロッとした表情に戻ってテンキチは復活してしまった。
「誰のせいだよ」
「まったくだね。たかし君は女ごころってモノが理解できていないようだから」
お前に言われるぐらいならナメクジとでも恋愛をするよ。
「じゃあ他の手段を出せ」
ここまで来ると俺の言い様もかなり雑になろうと言う物だ。
「うーん、愛子ちゃんがダメなら他の女の子にしよう。
たかし君は他にセックスしたい学校の女の子とかいないの?
このさい相手は男でも動物とかでも良いけど」
「いねえよ」
いないし、仮にいたとしてもどうせまたテンキチが余計な事を言って台無しにするだけだろうが。
「はぁ……。たかし君はもうちょっと学校でまわりに目を向けた方が良いよ?
そういうの人としてどうかと思うよ」
一瞬で顔面が真っ青になるレベルの殺意が湧くが、落ち着け。
そうだ。テンキチを殺そう。
そうと決まれば大丈夫だ。
どうせ部屋を出たらテンキチはどうせ俺の手で殺すんだ。
だとすればテンキチは既に死を約束された死人にすぎない。
死人が何を言っても、それは負け犬の遠吠えだ。
怒るには値しない。
OK。
よしよし。俺は怒ってなどいない。
冷静だ。
いいぞ。
コメカミをビキビキさせながらも話を続ける。
「おっしゃる事は非常によくわかるのですが、他の案はございますでしょうかねええ?」
ブチ切れると逆に敬語になってしまうのはよくある事だ。
「うーん。
じゃあ思いついた事があるからちょっと待っててね」
そう言われてから数時間後。
待たされてる間にアレやコレやした事は省略する。
これを読んでいる君が普段監禁されている時にしているような事を俺はして過ごした。
「お待たせしましたあ」
テンキチの代わりにモニターに移されたのは
化粧の濃い感じのお姉さんだった。
「あっ、あのっ、どなたですか?」
「あっはぁい。ハケンされて来ましたぁ。」
「ハケン? ですか?」
テンキチが手配した女性と言う事だろうか。
「なんかぁ、テレフォンセックスみたいな事すれば良いって聞いてぇ。
でも私の世代じゃもうそんなキモい事やった事ないんですけどぉ。
まあ料金はハズんでくれるって言うんでぇ。
がんばりますぅ」
お姉さんはどうやらそういう職業の人のようだ。
ああ。
風情もクソもない。
俺の初めてはこうさ。
つきあいはじめて3カ月目の夏休みにさ。
デート帰りに夕立が降ってきて家には両親がいなくて
「今日家に誰もいないんだ」みたいな事いって黙って見つめあってさ。
雨はますます降りだす中をこう。
「でぇ、さっさと済ませちゃいますぅ?」
はっ! ボーッとしてた。
「ああ、よくわかんないですけど。はい」
色々な事が面倒くさくなって、俺はテキトーに返事をした。
その瞬間。ファンファーレが鳴り響き部屋中の壁が発光し
ピーヒャラピーヒャラドンドンドンと言う音と共に
モニターには「セックス大成功!!」と画面狭しといかがわしいお店の広告でしか見ないような
過度な装飾を施されたフォントが映しだされ、
銀行の金庫の扉のように重かった扉がガシャンガシャンガシャングイーンガッチャーンズーンと音を立てて
ゆっくりと開いて行くのが見えた。
「いやー、おめでとうおめでとう」
モニターの画面にはテンキチが現れ、拍手をしている。
俺は笑顔で手を振り返した。
さあ、外に出てあいつの所に向かおう。
あいつをどうやって殺そうかと考えて俺はとてもワクワクしていた。
色々な殺し方を考えたけど、
あいつをあの部屋に閉じ込めみるのはどうだろう。
もちろん、一人でだ。
あいつ、いったいどんな顔をするかなあ。
今から俺はとても楽しみでならない。