41 陛下の不安。
「有紗が私に危害を加えるって、どういうことですか?」
「そう怖い顔をするな。まだ可能性の話だ。だが、無視できない可能性になってしまった。これは俺の落ち度だ。すまぬ」
そういって陛下は深く頭を下げた。
けど、どういうことだろう。
お昼ご飯を食べるまでそんな感じじゃなかったと思う。
「お昼ご飯の時に何かあったんですか?」
「うむ、そうだ。あの昼食の場でモーラが有紗を受け入れてしまった」
そういわれたら、確かにモーラ様と有紗は仲良くなっていたように思う。
だけど、それがそんなに悪いことなのだろうか。
「そうだな。この状況を理解してもらうには俺の家族、王家のことを知ってもらわなければならない。これから話すことは国家機密だ。絶対に他言無用で頼む」
それから、陛下から王家の抱えている問題について話を聞いた。
有紗が巻き込まれているのは陛下の息子たちの後継者問題らしい。
陛下には3人の息子、ラグズマ殿下、ジェラシュ殿下、ザイル殿下がいる。
普通なら長男であるラグズマ殿下が第一王位継承権を持っている。
国民も当然次の王はラグズマ殿下だと思っている。
けれど、陛下はラグズマ殿下に王位を継がせる気はないという。
表向きには3人とも陛下の息子ということになっているが、陛下は自分の血が繋がった息子はジェラシュ殿下ただ1人だと思っているそうだ。
陛下にはモーラ様より前に結婚していたサラという女性がいた。
サラ前王妃との間に生まれたのがジェラシュ殿下だったが、サラ前王妃は出産後あまり体調が良くなかった。
そこにモーラ様が城に乗り込んで来た。
モーラ様は4歳になるのラグズマ殿下を抱えて、この子は陛下の子供、ラグズマこそ陛下の嫡男であると主張した。
陛下はモーラ様となんの関係もなく、絶対あり得ない話だったけど、当時国王だった陛下のお父さんがラグズマ殿下を認めてしまった。
陛下のお父さんとモーラ様の家は仲が良かったらしい。
モーラ様は実家が公爵家だったうえに高い社交性を持っていた。
妊娠中から周囲の貴族に陛下の子を授かったと言いふらしていたらしい。
王家の耳に入ると子を殺されるかも、と言って言いふらしながらも口止めをしていたことにより、王家以外には周知の事実となっていった。
モーラ様はサラ前王妃を殺そうとするだろうと思った陛下は、体調が良くないサラ前王妃を守るため、サラ前王妃は難産で母子ともに亡くなったことにしてアディック卿の遠縁の家でかくまってもらうことにした。
ジェラシュ殿下はサラ前王妃と共に暮らしていたが、殿下が5歳になった頃サラ前王妃は亡くなった。
ちょうどその頃陛下は王位を継承し、ジェラシュ殿下を守れる力を持ったことで殿下を陛下の元へ呼ぶことが出来た。
ジェラシュ殿下はモーラ様の子供ということで世間には発表したが、モーラ様はサラ前王妃の子供だと知っているのでジェラシュ殿下が目障りでしょうがないらしい。
「あれ?サラ前王妃様の後って、モーラ様と結婚したんですよね。じゃあザイル殿下は陛下とモーラ様の子供なんじゃないんですか?」
「ザイルか……。モーラと婚姻を結ばされた後、モーラとは一切関係をもっていなかったのだが3年程経った時だったか、急に王妃の義務だなどと言い出してな。1度だけな。その後生まれたのがザイルだ」
「……えっと……」
「それは……。なんといいますか……」
私とシャロッツは陛下の気持ちを考えると言葉がなかった。
へんな空気の中、アンバーくんがキョトンとして言った。
「モーラ様と結婚してザイル殿下はお生まれになったのでしょう?なぜ陛下の子ではないのですか?」
ああ、不思議そうな表情で私たちを見つめる純粋なアンバーくんの目が、まぶしすぎて見れない。
「ベルモア卿……大変言いにくいのですが、大人にはその……」
「そうだ。大人には時として不思議なことが起きるのだ」
遠い目をする陛下とアディック卿にシャロッツは頭を下げた。
「申し訳ありません。ベルモア卿にはまだお教えしておりませんでした。ベルモア卿、家に帰りましたら少しづつお勉強いたしましょう」
「?ああ、そうだな」
よく分かっていないアンバーくんにシャロッツは「どうかその純粋な心をなくさない様にしてくださいね」とかぶつぶつ言っていた。
でも、話を聞く限りザイル殿下はモーラ様の浮気が濃厚っぽい。
1度の関係で子が出来ない訳ではないが、ラグズマ殿下の件もあるし限りなく怪しいと思う。
ここまで聞いたら、昼食の時のモーラ様の態度も納得がいった。
それで跡継ぎ問題か……。
「ここにきてラグズマが私の血を引かず、ジェラシュのみが私の息子だと言う貴族が現れてな。王族の血を持たぬ者が玉座に座るべきではないと騒ぎはじめおった。だが、前国王の時代より勢力は衰えているもののモーラの派閥も健在でな。俺としてもラグズマに王位を譲る気はない。なかなか難しい問題であったが、有紗殿と婚約すれば俺がジェラシュを王に望んでいると知らしめることができるやも知れんと思ってな」
「ちょっと待って。それじゃ有紗は政治のために婚約させられたってこと!?」
「落ち着け恵梨香。前にもいったが、有紗殿にはちゃんと説明をして受け入れてもらっている。無理矢理ではないのだ」
「で、でも……」
「あの女はきっと喜んで受け入れたのだろう?」
とっくに肉を食べ終えてふせっていたカルラが頭をあげて言った。
「カルラ、そんなこと……」
「なぜそう思われたのか、問うても良いか?」
フンと鼻を鳴らして陛下の方を見た。
「我は魂の本質を見定める選者の眼を持つ。この眼であの女を見ると気分が悪くなるのだ。あの女の魂はひどく汚れている」
「聖女である有紗殿の魂が汚れている?」
「魂の本質に聖女かどうかは関係ない。そもそもあの女は聖女モドキだ。この世界に来た頃からかなり魂は汚れていたようだがな。だんだんひどくなってきている。特に恵梨香。恵梨香のそばにいるときひどくなっているように思う」
「そんな。気のせいだよ。多分、突然知らない世界にきて不安になっただけだよ。きっとそのうちきれいになるよ」
「……そうか。でも、気を付けてほしい。我は恵梨香がいちばん大事だ」
「ありがとう、カルラ」
カルラはまた床にふせってしまった。
私は手をのばしてカルラの首や背中を撫でた。
「しかし、カルラ様の話が本当ならば、有紗殿にはより気を付けねばならんな……」
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