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40 執務室へ


なんだか肩がこった昼食会を乗り越えた私は 、陛下たちと共に王宮の最上階にある陛下の執務室へと向かった。


執務室はお城の最上階にあり、そこには陛下の許可がなければ入ることができないという。


長い廊下を歩き続けて、やっと執務室へと続く唯一の階段へとたどり着いた。


大人5人が横並びでも十分通れるほどの幅がある大理石のような石でできた階段を上がる。


階段の上り口には2人の重々しい鎧を身につけた騎士姿の男性が立っていた。


階段の両脇に立つ2人に軽く会釈をしてから通る。


彼らも私に会釈を返してくれた。


最上階へ続く階段は大きな正方形を描くように螺旋状になっている。


その途中にある踊り場に、所々に階段の上り口にいたような騎士が何人か配置されていた。


階段を上りきると少し開けた場所に出た。


そのさきに大きな扉が1つあった。


そしてその扉の前には、2人の騎士が立っていた。


1人は階段にいた騎士たちと同じ格好。


もう1人は私と同じくらいの身長で、他の騎士とは違う軽そうな鎧を身に付けている。


少年のようなその騎士が、階段を上りきった陛下の前に出る。


「陛下、執務室城内、つつがなく」


「そうか。ディード、紹介しておく。恵梨香だ。これからは城に来ることが多くなるだろうから、よろしく頼む」


「はっ。ディードリッドと申します。デオドラ陛下の直属師団、第一師団長をつとめております。よろしくお願いします」


私の方を向いてにこやかにあいさつをしてくれた。


「恵梨香です。よろしくお願いします」


「ディード、後でエドガーが来る。執務室に通せ」


「かしこまりました」


ディードリッドさんが陛下に礼をすると、もう1人の騎士が階段を降りていった。


「では皆、中へ」


陛下にうながされて、私たちは執務室の中へと入った。


執務室って聞いたので、入ってすぐ驚いた。


壁がない、と思ったけどよくみると壁がないのではなくガラス貼りだった。


壁全面がガラス貼りなので広い室内がより開放的に見える。


「すご……」


「空に浮いてるみたいだ……」


「すごいですね……」


アンバーくん、シャロッツと一緒に驚いているといつの間にかアディック卿が執務室にお茶の用意を準備していた。


全員分のお茶をティーカップに注ぎ、部屋の真ん中辺りにある来客用だと思うローテーブルに置いていく。


「ここからの眺めはいかがですか?」


「最高ですね。ほんと、すごい」


「恵梨香、恵梨香!あそこ、街が見えるぞ」


壁に駆け寄ったアンバーくんがしたの方を指差している。


私も駆け寄って見るとそこにはきれいな城下町が広がっていた。


レンガ作りの家や店がところせましと並んでいるが、白い石畳の大通りが真ん中を真っ直ぐ貫いていてとてもきれいだった。


「ほんとだ。すごい!」


「どうだ、最高だろう?」


自分の分のお茶を手にして陛下が後ろから聞いた。


「はい。ほんとにすごいです!」


「王という職業は意外と多忙でな。警備の面も含めて城下視察などそうそうできるものではない。けれど、民が安心して暮らせているか、民の命を預かる王としてはその暮らしぶりが気になるものだ。だから王の執務室はこうして全てが見渡せるようになっているのだ」


「へぇ。すごいですね」


「陛下が民のことをそこまで思ってくださっているとは。……しかし陛下、外からはこのような部屋があるとはきづきませんでしたが……」


シャロッツが陛下にたずねた。


そういえば、この城に来たとき外から見上げたけど、こんなガラス張りの部屋は見えなかった。


「ふっふっふ。それはだな……」


「陛下、立ち話は失礼ですよ。皆さん、お茶が入りましたのでこちらへどうぞ」


得意そうな陛下を見事にいなしてアディック卿は私たちを席へと誘った。


全員が席に着くと大袈裟な咳払いをして話の続きを始めた。


「実はこの部屋の壁には特殊な魔法がかかっている。城の防衛上詳しくは言えんが、中からは外が見えるようになっている。だが反対に外からは中が見えず、他の城壁と同じように見えるのだ。ガラスのように見えるが、ガラスではないぞ。飛竜がぶつかっても壊れない頑丈な造りだ」


なるほど。


防弾ガラスとマジックミラーって感じなのかな?


まぁ、国のトップがいる部屋の壁が普通のガラスってことはないよね。


「その話も機密事項なので、他言無用でお願いします。執務室は国の重要機密が集中している場所なので、狙われやすいのです。ここに入れるのも限られた者のみです」


アディック卿がにっこりと微笑んでいるが、その目はなにやら背筋がゾクリとするものだった。


「そうすごむな。お前らはこれからここにちょくちょく来ることになるだろう。ここで見聞きしたことはとりあえず秘密にしておいてくれ。ああ、もうひとつ、秘密がある。この執務室の下には重要書類が保管されている書庫がある。この後行う養子縁組の書類なんかもそこで管理しているからな。これは特に秘密で頼むぞ」


「は、はい……」


「わかりました……」


「(シャロッツ、私たちはここに居ていいのだろうか?)」


「(まずい気しかしませんが、私たちにはどうすることもできませんよ。口をつぐむことしか)」


「(だろうな……)」


苦笑いする2人をよそに、陛下はお茶を飲んでいた。


「おい、そろそろ腹が減ったんだが!」


ずっと黙っていたカルラが私の隣で大きな声を出した。


私はビックリして飲みかけていたお茶をこぼしそうになってしまった。


「カ、カルラ!急に大きな声しないで。ビックリしたじゃん」


「む、すまん。……しかしな、我はずっと我慢していた。もう限界なのだ」


キュゥン、と切なそうな鳴き声を出してカルラは伏せってしまった。


そういえばカルラには食事会のとき我慢させてしまっていた。


「カルラ様、遅くなって申し訳ありません。カルラ様のお食事もご用意しておりますよ」


そういってアディック卿はお茶をのせて運んできたワゴンに向かうと、中から犬用のお皿を取り出してきてカルラの前に置いた。


お皿には分厚いステーキ肉が山と盛られている。


「昼食ではお気遣いいただきありがとうございます。どうぞお召し上がりください」


「よい、この肉に免じよう」


「足りなければ言ってくれ。どんどん焼くからな!」


陛下の言葉にカルラはニヤリと笑って一番上に乗っていた肉に噛みついた。


レアに焼かれたステーキは、少ない昼食だった私の食欲まで刺激する。


美味しそうだなと眺めていると、急にカルラの動きが止まった。


ステーキを噛みきってお皿に戻すと、顔をあげてアディック卿の方を見る。


「カルラ様?どうかなさいましたか?」


「肉に味がないぞ」


フン、と鼻を鳴らす。


確かに肉にはソースなどはかかっていない。


「も、申し訳ありません。塩分などはカルラ様のお体に障るかと思いまして……」


「我にその様な気遣いは無用だ。お前たちと同様の食事でよい」


「では、ソースをお掛け致しますね」


そういってアディック卿はまたワゴンからソースを取り出してきてカルラの肉にかけた。


一応用意はしてくれていたのかと、アディック卿の隙の無さに驚いてしまった。


一心不乱に肉の山にかぶりつくカルラを見ていると、ただよってくる美味しそうな匂いもあって、こっちまでお腹が空いてきた。


「お肉おいしい?」


「うむ。なかなかよい肉だ。ソースもうまい」


「カルラ様の口に合って良かった。どんどん食べてくれ。……さて、恵梨香」


「はい?」


「この後、エドガー侯爵がここへ来る。恵梨香にはすまんが、すぐに養子手続きをしたい」


「え!?」


陛下の急な話に思わず身を乗り出す。


アンバーくんたちも驚いた声を出した。


「陛下、謁見の際には話し合いをしてからと……」


アンバーくんが聞くと陛下は申し訳なさそうな顔をして力無く言った。


「すまんな。状況が変わってな」


養子。


その言葉に私は身体がこわばるのを感じた。


私はもうこの世界から抜け出せない。


もとの世界に帰ることは出来ないんだ。


女神様たちがはっきりそう言っていたんだから。


私はこれからこの世界で生きていく。


だけど、私は闇の魔力を持っている。


それはこの世界で普通に生きるにはとても大きなハンデになるだろう。


養子縁組は私がこの世界で生きていくために、絶対しなくてはならないことだ。


さっき会ったエドガー今日って人は頼りがいがありそうな感じだったけど、一目見ただけでどんな人物なのかまではわからない。


嫌われないように、お世話になるエドガー卿とうまくやらなきゃ。


そんな考えをうつむいて固まってしまった恵梨香から読み取った陛下とアディック卿は思わず吹き出してしまった。


「はっはっは。そう身構えるな恵梨香。エドガー卿はアディックの親戚でな。裏表のない頼りになる男だ」


「そうですね。脳がほとんど筋肉でできていますので、裏表がないというところはまちがいありませんよ。大雑把な性格なので頼りになるかというとうたがわしいところでなありますが」


「そ、そうなんですか」


「不安なのはわかる。だが、俺たちは恵梨香がこの先困らないように最善を尽くしている。エドガー卿はきっと恵梨香にとってよき相談役であり、家族として手を尽くしてくれる。安心してくれ」


「わ、わかりました」


陛下の真剣な目に、嘘はないんだろうなと思った。


「しかし陛下、急に予定が変更になった理由を話して差し上げたほうがよろしいのでは?ベルモア卿も気になっておいでのようですしね」


急に自分の名前が出たアンバー君が飲みかけたお茶をこぼしそうになった。


「わ、私のことはお気になさらず。ただ、恵梨香様に何かあったのかと…」


アンバー君の問いに陛下の目つきが鋭くなった。


「俺もこんなことになるとは思っていなかったのだ。恵梨香にはゆっくりとエドガー卿と話し合ってから養子縁組し、貴族入りもその内と思っていたのだがな」


「ですよね。状況が変わったって言ってましたけど」


「う、うむ…。それが…なんといったものか」


「陛下。ここで恵梨香様に隠し立てすれば、恵梨香様の身が危険になります。酷かもしれませんが、ここははっきりとお伝えするのが恵梨香様のためですよ」


言いづらそうに口ごもり、目を固く閉じていた陛下に、アディック卿が耳打ちをした。


アディック卿の言葉に覚悟を決めたのか、陛下は恵梨香を見据えるときっぱりと言い放った。


「恵梨香の友人である有紗だがな、恵梨香に危害を加える可能性が出てきたのだ」



遅くなりました!


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