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39 昼食会。後


「では、食事にしようか」


陛下がアディック卿に合図すると、アディック卿は昼食の準備を始めた。


数人のメイドさんと手分けをして素早く配膳していく。


席に着いている私たちの前には取っ手が付いたお皿に入った野菜のスープと少し大きめのお皿に薄くスライスされた肉と野菜、卵が挟まれたサンドイッチが用意された。


アディック卿が手を拭くための蒸しタオルを広げて渡してくれる。


私はお礼を言って受け取り手を拭う。


「さ、食べようか」


「と、父様。まさか、昼食はこれだけですか?」


イスから腰を浮かせてザイル殿下が陛下に聞いた。


「行儀が悪いぞザイル。今日はあまり時間がないのでな。これだけ食べれば十分だろう」


「そんな……」


絶望に染まった顔で力なくイスに沈みこむ。


あの体型だ、きっと食べることに執着しているのだろう。


ザイル殿下にはこの量では全然足りないのだろうが、確かにザイル殿下の言うとおり普通の昼食にしても少し少なめな気がする。


「全く……。この後は王都に集まっている貴族たちと茶会や晩餐があるだろう。今腹一杯になってしまっては困るだろうが」


お前も王族として生きているならわかっているだろう、と陛下はため息混じりに言った。


そうか、この後お茶会があるのか。


それじゃあんまりお昼を食べるとお茶会で食べられないよね。


出されたものを断るってのも確かに失礼かも…。


「さて、食べながらでいい。聞いてくれ」


陛下がにこやかにきりだす。


「本来ならもっと時間をとって紹介するべきだが、後の予定が詰まっているのだ。簡単になってすまぬが、王妃と息子だ」


そういわれ、陛下の横に並んでいた人たちが手にしていたカトラリーを置いて姿勢を正した。


つられて私たちも姿勢を正す。


「王妃のモーラ・ウォーブと申します」


柔らかく有紗を見て微笑む。


「聖女様が我が息子、ジェラシュの婚約者だなんて。こんな嬉しいことはありません。どうかこれよりこの国をより良き方へお導きくださいませ」


モーラはそう言うと両手を胸の前で交差させて深く頭を下げた。


有紗は落ち着いてモーラに頭を上げるように言った。


「私の方こそ、いたらないことも多いですが、ジェラシュ様と共にこの世界を救いたいと思います。婚約者であるジェラシュ様のお母様ということは私の母になっていただけるということですわよね。異世界からこの世界にやってきて、心細く思っておりました。モーラ様にこの世界の母になっていただけるなら、これ程心強い事はありません。どうかよろしくお願いします」


有紗が深くお辞儀をすると、モーラはとても喜んだ。


「まぁ!よろしくてよ。これより私を本当の母だと思ってくださいな。遠慮はいりませんよ」


「ありがとうございます。ジェラシュ様もどうぞよろしくお願いします」


「あ、ああ。よろし……」


「ジェラシュ、お前には不相応なほど素晴らしいお方なのですよ」


モーラがジェラシュの言葉をさえぎる。


表情は笑顔のままだったが、その目は凍てつくような眼差しだった。


「母さまの言うとおりです!父さまはなぜジェラシュなんかと婚約させるのですか?!聖女ですよ、ジェラシュなんかではなくラグズマ兄さまと結婚した方がヴァンクリール国のためになるのに」


「ザイル、ラグズマ兄上にはフェルノーナ様がおられる。有紗殿が結婚することはできないだろう?」


「うるさい!お前に言われなくても、そんなことはわかっている!」


ダンッ!!


大きな音を立ててテーブルが揺れた。


皆驚いて音の発生源、陛下の方を向く。


固く握りしめられた拳でテーブルを叩いた様だ。


「ザイル」


「は、はい……」


「ラグズマにはすでにフェルノーナと婚姻を結んでいる。お前は聖女に妾になれと言っているのか?」


「い、いえ。そういうわけでは……」


「ではどういうつもりだ」


陛下は怒りを抑えるようにゆっくりと話すが、それがかえって恐ろしい。


ザイルはその厳しい視線にたじろいでいる。


「あの、どうって……」


「……………」


「デオドラ様、そんなに叱らないでやってくださいな。子供の言うことです」


「モーラ、王族の言動に大人も子供もない。……まぁ、今日はいい。以後気を付けよ」


「も、申し訳ありませんでした」


うなだれるザイルに陛下はなんとか怒りを押し込めて視線をはずした。


とても気まずい空気の中、ジェラシュがなんとか切り出した。


「え、えーと。ラグズマ兄上……」


「あ、ああ。弟が失礼した。私はラグズマ・ウォーブ。ジェラシュとザイルの兄だ。今日は体調がすぐれなくてここには来れなかったのだが、フェルノーナという妻がいる。よろしく」


にこりとしながらラグズマが自己紹介に戻る。


それに続いてジェラシュも簡単に自己紹介を終えると、ザイルもそれにならって自分の紹介を終えた。


すると、有紗が軽くお辞儀をした。


「丁寧なご紹介、ありがとうございます。ご挨拶が遅くなりましたが、私は有紗と申します。光の魔力を持つために聖女としてこの世界へと参りました。この世界のために、ジェラシュ殿下と共に尽力いたします。どうぞよろしくお願いいたします」


言い終わりにもう一度お辞儀をして有紗は自己紹介を終えた。


それに続いてアンバーくんとシャロッツも自己紹介をする。


モーラ妃たちは有紗以外の人間には興味がないようだった。


最後に私が挨拶をする番だ。


「吉沢恵梨香です。よろしくお願いしま……」


「そなた、聖女様のご友人なんですってね」


「は、はい。有紗とは子供の頃からの……」


「エドガー家に養子として入り、貴族になるからといって勘違いしてはなりませんよ」


「は?」


モーラ妃がやれやれといった様に頭を振った。


「聖女様とそなたが友人であっても、立場というものをわきまえねばなりません。これからは、聖女様に甘えない様にならなければいけませんよ」


「甘え……どういう意味ですか」


「そなたは宵闇の巫女なのでしょう?そなたが聖女様に近付きすぎれば、聖女様にとっても、そなたにとっても無用な軋轢(あつれき)(しょう)じるだけです。聖女様はとても心優しいかたですから、きっと後々お心を痛める事になるでしょう。そうならないように、そなたは聖女様の優しさに甘えないようにしなければね」


そういって可哀想なものを見るような、憐れみを含んだ眼で私を見た。


確かに私の闇の魔力は、有紗の邪魔になる。


一緒に異世界に来た幼なじみで、親友の有紗と距離を置くのは寂しいし、不安になる。


内気な性格で、学校じゃ友達がほとんどいなかった有紗を私が助けなきゃと、勝手に思っていたけど、それは有紗にとって迷惑にしかならないんだよね。


モーラ妃にはっきりと言われて気が付いた。


私の考えは、甘えだったって。


有紗を助けるって思ってたけど、それは私が独りになりたくなかっただけだった。


「おい、モーラ!いい加減に……」


「モーラ様。ありがとうございました」


陛下がモーラ妃に注意するのをさえぎって、私は深く頭を下げた。


陛下とアンバーくんたちは驚いていた。


モーラ妃をチラリと見ると、その口許にはニヤリとした笑みがあった。


わかってる。


全部わかってるんだけど、私はこれでいいと思った。


足下にいたカルラが小さくため息をついた。


それから私たちはこの後の予定について話し合いながら昼食を食べた。


この後、私は陛下とアンバーくんたちと一緒に私の養子先、エドガー家との顔合わせと引っ越し作業をすることになった。


有紗はモーラ妃と皇子たちと一緒にあいさつまわりがあるらしい。


このまま王宮の1室に住むことになったので、その準備もあるそうだ。


昼食を終えると、私たちは分かれてそれぞれの目的地に向かった。







遅くなりました!


やっとかけた。本当に遅くなってすみませんでした!


次話ではエドガーさんの男気に触れたいと思ってます!


よろしくお願いします!

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