32 聖女有紗誕生。
「皆、見た通りだ。有紗が聖女だ!」
陛下の言葉に謁見の間は一瞬の静寂の後、歓声に包まれた。
聖女がこれ程望まれていたとはしらず、少し驚いていると、陛下は1つ大きな音を出して手を叩いた。
その音でまた謁見の間には静寂が戻った。
「皆が有紗を受け入れてくれたようで何よりだ。有紗にはこれから聖女として世界を救うために尽力していただく。有紗、ここへ」
陛下が有紗を隣にたたせる。
広間にいる貴族たちから二人がよく見える位置だ。
横から見ている私には陛下の広い背中からチラチラとしか有紗が見えない。
「聖女有紗。そなたに救国の聖女が残した細剣を授ける」
陛下が右手を高く上げる。
すると謁見の間の入り口が開き、いつもとは違う白地に金の刺繍がふんだんに施された仰々しい衣装を身に付けたシャロッツが入ってきた。
体の前に差し出すように伸ばされた両腕には白いレースの布にくるまれた長いものがあった。
薄いレースにくるまれたそれは鈍く光を反射している。
貴族の間を抜け、シャロッツは陛下の横にかしずいた。
恭しくレースをはぐと、そこには白く輝くような一振の剣があった。
さやに収まっているが、刀身が極端に細い。
見たところ指一本ぶんの太さもなさそうだ。
普通はそんな太さの剣では戦えないものだが、目の前の剣からはそんな軟弱なものではないと言っているように感じた。
鍔と柄には金の細工がうねるように巻き付いている。
それもかなり細く、全体的にとても軽そうに見える。
その細さに比べ、刀身は驚くほど長かった。
長さはおそらく2m近くある。
そのアンバランスな剣を、陛下はシャロッツから受け取った。
「有紗、そなたにこの細剣エオリウスを授ける。かつて救国の聖女が使っていた聖剣だ。受け取ってほしい」
陛下に差し出された聖剣を有紗はじっと見つめた。
「ありがたく、お預かりいたします」
有紗が聖剣を両手で受け取る。
その時、陛下は有紗にさやから剣を抜き、魔力を流すように言った。
有紗は恐る恐る、だが優雅にさやから剣を抜くと、胸の前で剣を構えて目を閉じた。
ゆっくりと有紗の魔力が剣に吸い止まれてゆく。
すると次第に鍔の一部分が光り出した。
よく見ると、そこには小さな石がはまっているようだ。
有紗の魔力に石が反応して光っているようだった。
しばらくして陛下が魔力を止めるように合図すると、有紗が魔力を止めた。
光りは収まり、有紗は剣を鞘に収めた。
「皆、聖女有紗に礼を尽くせ」
陛下が有紗の背中を押して一歩前に出させると、謁見の間にいた全員が頭を垂れた。
男性は右腕をへその辺りに出して腰を曲げてお辞儀をし、女性は両手を胸の前で交差させて軽く腰を曲げている。
女性はさらに片足を下げているのだろう。
中腰のような体勢になっている。
壇上にいた王族や、周りにいた人たちも全員が有紗に礼を示していた。
私は有紗を見ていたが、有紗は堂々と胸を張ってその様子を眺めていた。
微笑みを浮かべているその立ち姿は、本当に聖女のように見えた。
「では皆顔を上げよ。聖女からお言葉をいただく」
有紗を陛下に軽く会釈をする。
「皆さん。私は異世界より救国の聖女様に導かれてこの地に参りました。滅びに瀕し、絶望の縁にたつ皆様を救うために、私はこの命をとして聖女様に選ばれた使命を果たすことをお約束いたします」
有紗はそう言うと、満面の笑みを浮かべた。
だが、広間にいた貴族たちはどこかいぶかしげな顔をしながら拍手を送った。
私がいつの間にか隣にいたアディック卿の方を盗み見ると、ちょっと困ったように目を閉じていた。
「あ、有紗にはこれより聖女の勤めに加え、我が息子第2皇子であるジェラシュ・ウォーブとの婚約を行う。ジェラシュ!」
「はい、陛下」
陛下が王族の人たちの方に言うと、その中の1人が前に出た。
え?有紗が婚約?どういうこと?
無事有紗を聖女に仕立て上げました!
そして有紗の婚約!?
そして恵梨香の紹介へ……。
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