29 陛下に会いに行こう。
笑顔のアディック卿に見下ろされる肉ダルマ、もといザイル殿下とその盾にされている筋肉ムキムキ男性が小刻みに震えているのがわかる。
それを見て一層笑みを深めるアディック卿。
「ザイル殿下、陛下はザイル殿下にもご出席なさるようお伝えしているはずですが」
「き、聞いている!僕たちは、その、今から向かう途中で、あの者がぶつかって、あの、その……た、助けようとして……。そうだ、僕はあの者を助けようとしたんだ!なあ、そうだな?」
必死に言い訳を考えて、名案が浮かんだとこちらを見てコクコクとうなずいている。
同意を求めているような様子だが、そんなものうなずくわけがない。
「あの、私たちは……」
「恵梨香ちゃんは悪くないのです!全部私が原因なのです。……失礼をいたしました、ザイル殿下。私が恵梨香ちゃんに声をかけてしまったので気を取られたのです。それがこんなことに……。殿下、お怪我はありませんでしたか?」
急に有紗はザイル殿下にかけより、跪いて手を握った。
「有紗?なに言って……」
「お、おお。そうだろう?見ろ、アディック。僕は悪くない!」
手を握られて嬉しそうにザイル殿下は言った。
胸元で握られた手を見下ろしてニヤつくザイル殿下に嫌悪感がはしる。
でも、なぜそんなことを?
アディック卿が来てくれたのだから、もう大丈夫なはずなのに。
それを見てアディック卿があきれたようにため息をつく。
「と、とにかくそういうことだ!僕は支度があるから失礼する!行くぞ!」
ザイル殿下は筋肉たちをつれて去っていった。
その姿が見えなくなった頃、私はさっきのことを有紗に聞こうとした。
「あ……ひぁっ!」
だがそれを見越してか、カルラが私の手を甘く噛んだ。
「カルラ、ちょっとくすぐったい」
手を離してもらおうとするが、甘噛みを繰り返している。
「恵梨香ちゃん、どうしたの?」
「いや、カルラが離してくれなくて」
「そういえばそのワンちゃん、恵梨香ちゃんが試験した時に連れてきた子だよね。かわいい」
有紗がカルラの前にしゃがみこむ。
「カルラちゃんっていうんだぁ。かわいいねぇ」
カルラの頭の方に手を伸ばす。
その時、カルラの顔が一瞬で変わったのを私は見逃さなかった。
有紗の手がカルラに触れる直前に、私は有紗の腕を掴んだ。
「い、犬って頭から撫でちゃいけないんだよ。叩かれると思って、噛むことがあるから。性格がわかんない犬には手を出しちゃだめだよ」
「そ、そうなんだ……。ごめんね、カルラちゃん」
有紗は残念そうに立ち上がった。
カルラの方を見ると、普通に戻っている。
やはり、カルラは有紗が嫌いなんだと思っていると、アディック卿が謁見のまに向かうように言った。
「恵梨香様、有紗様。そろそろ陛下への謁見のお時間です。ご案内いたしますので、こちらへ」
私たちはアディック卿に続いて歩き出した。
「アディック卿。先ほどのお方は?」
有紗が歩きながら聞いた。
アディック卿は前を向いたまま応える。
「あの方はザイル・ウォーブ様、デオドラ陛下の3番目の王子です。まだ幼く、あのような言動をしてしまい、ご不快な思いをさせてしまいました。お許しください」
「第3王子……。いえ、全然気にしていません。ぜひゆっくりお話いたいですわ」
有紗がキラキラした目をしてアディック卿に言っているが、アディック卿は全く有紗の方を見ていない。
「そうですか。陛下の許可が出まして、機会があればお茶会を開かれるとよろしいかと」
「わかりました。機会があればいいですわね」
有紗が嬉しそうにはしゃいでいる。
私はその様子を見たあと、アディック卿の方に目をやり、ゾッとした。
真後ろにいた有紗からは見えなかっただろうアディック卿の横顔。
少し斜め後ろにいた私からはその横顔がよく見えた。
アディック卿の顔には、怒りと嫌悪感がありありと見て取れた。
有紗の考えてることがわからない恵梨香ちゃん。
アディック卿もなんか機嫌悪そうだし……。
居心地悪い感じで次に続きます。
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