1 異世界に行った日。
あの日。
気が付いたら私たちは知らない所にいた。
見渡す限り深緑の草原。切り立った山々。
これから一体どうすればいいのだろうか。
見覚えのない景色を呆然と見つめながら私はそう思った。
いつもの帰り道。
ヒグラシがカナカナと鳴いている夕暮れ時。
高校の校舎にメンテナンスが入るらしく、その日、午後の部活が無くなった。
いつもは部活があり、一緒には帰れない有紗と珍しく一緒に帰っていた。
夕日に染まった田舎の景色は、すべてが琥珀色に輝いている。
こういう夕暮れの後は決まって夜空の星がきれいに見える。
途中でコンビニによってアイスを買って、食べながらまだまだ明るい中、田んぼの間のあぜ道を並んで歩く。
生まれた時から隣の家同士。
あまり話すことはないけど、一緒に帰るのが楽しかった。
有紗は私と違って本を読むのが好き。
私は苦手。
有紗は人付き合いが苦手。
私は友人がとても多い。
有紗はスポーツが苦手。
私は得意。
有紗は勉強が得意。
私は勉強、嫌い。
全く正反対な2人だけど、一緒にいる。
何となくだけど、それが普通で、日常。
これからもずっと変わらないって思っていた。
けれど、それは突然のことだった。
「あ、そうだ。恵梨香ちゃん、これ知ってる?」
そう言いながら、有紗は肩にかけていたカバンの中から1冊の本を取り出した。
「何それ?漫画?」
そうだ、ちょうど漫画と同じくらいの大きさだ。
「ううん。今日ね、学校行ったら机の中に入ってたの」
「へー。誰かの忘れ物?」
「わからないの。ちょっとだけ中見たんだけど、名前は無いし、何か書いてあるんだけどちょっと読めなくて」
「何それ。英語とか?」
「ううん。見たことない文字だったの。ちょっと気味が悪くて」
「じゃあ先生に渡すとか、落とし物入れに入れるとかすればよかったのに。なんで持って帰ってんの?」
「そうしようと思ってたんだけど、うっかり持ってきちゃって。どうしよう?」
「さあ。ちょっと見せて?」
私は有紗が開いた本を覗き込んだ。
本当に見たこともない文字が並んでいる。
有紗がぱらぱらとページをめくっていく。
それを目で追っていたが、途中、文字が動いたように見えた。
違和感程度に感じたそれは、ページがめくられるにつれてはっきりと見えてきた。
書かれている文字がページを離れ、ウゾウゾと動いている。
やがて文字はすべてが本から出て、私たちの周りを取り囲むようにぐるぐると廻りだした。
「何?」
これが見えてるのは私だけ?有紗は?
「恵梨香ちゃん。これって?」
有紗も見えている。現実なのか?
「有紗、何か、マズイかも」
「ど、どうしよう?」
文字の廻るスピードが速くなる。
もう、目では追えない。
文字が高速で廻り続け、視界が奪われる。
真っ暗な空間に押し込められるような錯覚をおこした。
「恵梨香ちゃん!」
「有紗!」
私たちは急な浮遊感を感じ、とっさに互いの手を取って握りしめた。
目を閉じてしまったので、そこからはよく見えていないが、急に辺りが明るくなったのを感じ、目を開けた。
気が付いたら、私たちは大草原の真ん中にいた。
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