渡辺さんと鈴木くん
ーーああ、今日も素敵だなぁ。あんな人と付き合えたら毎日楽しいだろうな……。あっ、欠伸した!可愛いなぁ。好きだな……。
今日も私は彼、鈴木くんを見ている。決して近づかず、こっそりと。
鈴木くんは怖いと、私の友人が言った。確かに彼は不良っぽくて髪も金髪でピアスが開いてるし授業中は寝ている。親しい友達もいないみたいだし、昼休みはいつも教室にも食堂にもいない。そして成績が物凄く悪い。教師達にも怖がられていつも一人だ。だが、鈴木くんの良い所は沢山あるし、可愛い所だっていっぱいある。かっこいいし。でもそれを友人に言うつもりは無い。何故なら友人は可愛い。物凄く。そこら辺のモデルなんか比にならないくらいに、可愛いのだ。1日2人のペースで告白されているのを私は知っている。そんな友人と私では負けてしまう。だから敢えて私は言わないのだ。嫌な女だと、自分でも分かっている。でも嫌なのだ。
そんな嫌な女の私はクラスでは陰キャと呼ばれる人間で肩まである髪で顔を隠して、休み時間は勉強している振りをしながら鈴木くんをチラチラ見ている。
ーーーーーーー
六時間目が体育でしかも持久走。憂鬱だ。私は運動神経が悪い訳では無いがいい訳でもない。わたしは溜息を付いた。そして見つけた。鈴木くんの、鮮やかな金色。鈴木くんは体育はいつもはサボってるのに…!!持久走好きなのかな!?体育最高!!持久走最高!!
「…あー、痛い……」
私は名前順が最後の方だからスタートの順番も最後は1番最後だった。渡辺なんかに産まれるんじゃなかったな。渡辺を呪った。
「……ねぇ、なにしてんの?」
目の前には夢にまでみた彼が、鈴木くんが立っていた。
「え、と、ちょっと、色々あって、立てなくて……」
私は物凄く可愛い友人が厄介な男を振る際に私と付き合ってると嘘を付いて振った男に殴られ蹴られを繰り返され放置されたのだ。
「……色々?」
早く話せと目で催促してきた。答えるしかないのだろうか…
「………………」
私が話すのを躊躇っていると
「っ!」
鈴木くんは私の前に屈んで赤く腫れているであろう頬を撫でた。せっかく鈴木くんに触れて貰えたのに激痛が走る。
「……痛いの?誰に、やられた?」
「え、と、名前、わかんない、です」
私の言葉に鈴木くんは不審な顔をした。仕方ないじゃん!鈴木くんしか見てなかったんだから名前なんて知らないし……。
「名前わかんないのにやられたの……?渡辺さん何したんだよ」
な、名前知っててくれた!!
「………何かしたのは、私じゃなくて、麗奈だよ……」
麗奈の名前は出したくなかったが鈴木くんの視線に負けた。
「麗奈って誰?」
「え?……麗奈のこと知らないの……?あの美少女を……?知らない……?」
麗奈の事を知らないなんて……!
「その麗奈ってやつがやったの?」
勘違い!!
「ち、ちがっ、麗奈は悪くなくて、麗奈に告白した人が、しつこくて、困った麗奈が咄嗟に私と付き合ってるって言っちゃって……その人が私に暴力を……」
「え、渡辺さんか、彼女居たの……?」
また勘違い!!
「ち、ちがっ、麗奈が咄嗟に嘘ついたの!私なら幼なじみで遠慮もないし!私目立たないから!大丈夫だろうって!」
「そ、うなんだ。良かった。監禁しちゃうとこだったよ」
「う、うん。……か、監禁!?」
監禁するほど麗奈のことが…好き、なんだ……。
やば、泣きそう。
「取り敢えず、手当しないと……あ、悪い、立てないよな。その怪我じゃ……乗って?」
え、!?お、おんぶ!?その姿勢はおぶされと!?
「……え、大丈夫。私の事は忘れてください。放置して下さって大丈夫です。」
私は、土俵にも立てなかったのに、麗奈を好きな鈴木くんにおぶさるなんて、出来ないよ。
「早く。」
睨まれた!!
「ほんとに、いいから!」
「何言ってるの?歩けないんでしょ?早くして?」
鈴木くん、優しい……!そろそろ足も本格的に痛み出してるし、いいよね……?鈴木くんの、優しさに甘えても。
「お、お願いします……」
恐る恐る、鈴木くんにおぶさる。鈴木くんの髪がふわっと香ってクラクラした。私の顔は真っ赤になっているに違いない。
「よいしょっ、からだ、預けていいよ。痛いでしょ」
うん。実は脇腹を蹴られてすごく痛い。お言葉に甘えよう。
「ありがとう……実は脇腹も凄く痛かったの」
上半身ももたれ掛かる。
……鈴木くん優しいなぁ。
ーーーーーー
実は俺は結構怒ってた。
渡辺さんが人気のない道に蹲ってて、麗奈とか言うやつと付き合ってるって聞いて責めるように問いただしてしまった。監禁とか言ってしまった……おんぶ嫌がられたし、完璧に嫌われたよな……。
てか、胸が当たって非常にいい!天使のような渡辺さんの胸が……俺の背中に!腕が首に!柔かいし、いい匂いがする!
よし!渡辺さんを殴った奴は後で二度と手を出せないようにしよう。
俺は、密かに胸に決め、渡辺さんをおぶって保健室へと急いだ。
ーーーーーー
「ありがとう。もう、大丈夫だよ。鈴木くん。ごめんね」
保健室のベットに降ろされた。因みに保険の先生は昨日クビになったのでいない。生徒(理事長の孫・イケメン)に手を出したのがバレたようだ。しかも、校長(既婚者・意外とイケメン)とも付き合っていたらしく、絶賛泥沼中らしい。
「いいよ。俺が手当する」
「わ、悪いよ」
「黙って」
「ハイ……」
鈴木くんは真剣に手当をしてくれている。
……かっこいいなぁ。
「お腹、出して」
「え?」
「手当する」
そうだ、蹴られて痛いって言っちゃった!
「流石に大丈夫!そこは自分でやるよ!」
「いいから」
え、怖っ。睨まれてる。殺されるのかな?そんな鈴木くんもかっこいいと思ってしまう私は末期かな。もう、どうにでもなれ!
「…お、お願いします」
私は体育着を捲った。
「ん。他に怪我は?」
「た、多分もう無いよ。ありがとう」
疲れた。私は顔が真っ赤だと思う。
「背中とかは?平気?」
「背中?そういえば蹴られたな……」
「後ろ向いて」
私は素直に後ろを向いた。体育着を捲られる。
「……ブラのホックんとこが赤いな。とるよ」
言われた瞬間に取られた。
「!?」
「動かないで」
慌てるも、なんの動揺もしていない声に冷静になる。鈴木くんは麗奈が好きで私なんかの事は1ミリも興味無いのに、優しいから手当してくれてるのに……
「……ごめんね。」
自然と謝罪の言葉が漏れた。
「謝んないで。」
手当が終わりホックまで閉めて貰った。というか閉められた。
……手馴れてるなぁ。
「ありがとう鈴木くん」
「ん。今度お礼して。」
「わかった。いくらがいいかな?」
鈴木くんにおんぶや手当までして貰ったのだ。いくらでも払おう。
「今度デートして」
「……わかった。麗奈に言っておくね……」
そういう事か…麗奈とデートしたかったからこんなに親切にしてくれたのか。麗奈の幼なじみだもんね。親切にしないと駄目だもんね。辛いなぁ。
「いや、渡辺さんとデートしたいんだけど。」
なんて都合のいい耳だろうか。私の耳はここまでポンコツだったのか。鈴木くんが私なんかとデートしたいなんてことあるわけが無い。
「じゃあ、言っておくね。バイバイ……」
私は力なくそう言い、足を引きずって保健室の扉に手をかけた。
ガシッ!
ドサッ!
「え?」
「なんではぐらかすの?やっぱり俺のことは嫌いなの?俺はこんなに渡辺さんが好きなのに。だーいすきなのに。俺のことは拒否するなら、渡辺さんのこと監禁しちゃうよ?」
鈴木くんが、私の上に乗っている?
「ど、どうしたの?す、鈴木くん?それはまるで麗奈じゃなくて私の事が好きと言っているように聞こえるよ?」
「だから、俺は渡辺さんのことが好きだって言ってるんだけど?さっきっから。ずっと。渡辺さんとデートしたいの」
ムスッとした鈴木くんが言った。
夢じゃないんだ。
「え、と、わ、私も、好き…………」
つっかえながらも伝えた。
「ほんとに?嬉しい。渡辺さん、愛してる」
ギュッと鈴木くんに抱きしめられて固まってしまった。
すると唇に生暖かい感触がした。すると舐められたような感じがして漸く、鈴木くんにキスされていると気付いた。
「んっ、す、ずき、くんっ」
無視して舌を入れてきた。口内を蹂躙され、やっと解放された時には腰は砕け、顔は真っ赤で息は上がってクタクタだった。
「渡辺さん、ごめん。大丈夫?」
「はぁっ、無理…立てない」
「ふふっ、腰抜けちゃったの?でも、俺もう我慢できないし、俺の家に行くよ」
浮遊感に襲われ、私は鈴木くんに横抱きにされていた。そして教室から2人分の荷物を持つと学校からすぐの鈴木くんのマンションに連れていかれた。
そのあと、私と鈴木くんは学校公認のカップルになった。麗奈に初めは心配されたけど、休み時間の度に私の所へやってきて離れようとしない鈴木くんを見て、諦めたようだ。
ーーーーーー
余談だが、あの日私を襲った男子は、ある日校門の前にボッコボコにされ服を剥かれ放置されていたようだ。
誰にやられたのかは分からないが、私は多分鈴木くんと、麗奈だと思う。だってその日の麗奈と鈴木くんの拳は赤く腫れていたし、どこかスッキリしたような顔付きだったのだ。
まあ、私は今が幸せだから、なんでも良いのだけれど。
鈴木くんは自分の好きな設定を盛り込みました。渡辺さんはクラスに1人はいる感じの女の子です。