snowy tomorrow night
メリークリスマス!
皆様の元にサンタさんが来ることを願って。
「rainy last night」の続編です。
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明日の夜は、きっと雪が降るのだろう。
私は、雨宮しずく。よく言えば、大人っぽい。悪くいえば、生意気。私はいつもそんな風に評される。し、自分でもそう思う。
「しずく、帰ろう」
「うん」
生徒会室で、そんな私───しずくに声をかけてくるのは、晴山夜月。
………私の、初恋の人。
どんなに遅くなっても、つべこべ言いながらも仕事が終わるまで待っていてくれる、大切な幼なじみで、今は大好きな人。
「あのさ」
「何?」
とんとん、と靴を履いていると、夜月が話しかけてきた。下を向いて垂れてきた髪を耳にかけながら、私は話を聞く。
「クリスマス、どっか行かない?」
「ええ……と…」
それは、つまり。
「デートってこと?」
「そう」
自分で、顔が一瞬の間に赤くなったのが分かる。ぼわわっと火広がっていくような。
夕方の陽と同じくらい、とまでは言えないかもしれないけれど、すごく赤く、綺麗に染まっている気がする。
そういう夜月も頬を赤くしながら顔を掻いている。それは、寒さでなのか、それとも……
「う、うん…」
目を逸らしながら、頷く。
行きたくないわけじゃないし、一緒にクリスマスなんていつぶりなんだろうってくらい。
夜月が目をキラキラさせながら笑顔で「どうしよっか」なんて言っているけれど、私の胸中はそんなもんじゃない。
今にも、顔がどこかに吹っ飛びそう。
「───で、いい?」
「うん」
しまった。聞き逃した。
とりあえず相づちを打ったけれど、ばれてるよね……
「じゃあ、クリスマスの日ね!」
話題が変わってしまう。嗚呼、どうしよう。
がっかりなんてさせたくないし、だからといって今聞ける雰囲気でも無くしてしまった。
まだ日にちはあるし、なんとかしよう。
「……夕日が綺麗ですね」
「もうすぐ月が、見えますね」
「もう少し一緒にいたい」とか「あなたの気持ちが知りたい」と言う言葉の隠語。
夜月もよく、綺麗な返しを知っているものだ。
今日の天気は私の気持ちを映しているのか、太陽は隠れて晴れのちくもり。
♢♢♢
「しずくちゃん、デートするんだってね!」
どこからその情報が漏れているの?
まさか夜月?
「いいなぁ~私も彼氏が欲しい」
都合よく話してくるのはテニス部の女子二人。前よりそこそこ仲良くなったけど、うざったいのは相変わらず。
「で、どこいくの?」
「あ…えと…」
「もー、しずくちゃんが困ってるでしょー」
あはは、と笑いながら去っていく。
夜月はまた女子に囲まれながら、きゃーきゃーされているし。
「し、しずくに会いに行きたいな」
「えー、良いじゃないですか!」
どうにもこうにも、聞けないなぁ……
放課後、生徒会室。私は書類の整理をしつつ、探ってみる。
「あのさ、クリスマスの日……」
め、目線が眩い…!
「た、楽しみだね」
「うん、早くクリスマスなってほしい」
仕方ない。明日聞こう。
今日は、星が見えそうなほど綺麗な夜空。
……と思っていたのに。
翌日。
「ねえ夜月」
「ごめん、ちょっと先生のとこ行かなきゃ」
翌々日。
「夜月、いる?」
「今いないの、ごめんね」
クリスマス一週間前。
「夜月……」
「今職員室行かなきゃ行けなくて」
クリスマス二日前。
「よづ……」
「ごめん」
これってまさかわざと避けられてる?
あからさまに最近、夜月と話すことがない。
クラスも違うから、あまり話せないというのはそうなのではあるけれど。
…何かおかしい。
クリスマス前日。
「よ……」
「後でね」
………全然、一緒にいられない!
こうなったら、朝一で電話でもしよう。
クリスマス当日。午前8時。
「もしもし、しずくです。夜月はいますか?」
「ああ、しずくちゃん。夜月なら、さっきしずくちゃんと待ち合わせって、飛び出していったよ」
そんな!!
これはまずい、と急いで鞄の中に財布と携帯と家の鍵、あと飲み物を適当に突っ込む。
ちなみに親たちは、私たちがつき合っていることなんて知る由もない。仲のいい幼なじみくらいに思っている…と思う。
携帯は、夜月が持っていないし……
「行ってきます!」
急いでニットブーツを履いて、家を飛び出して走った。
───走った距離、玄関先から道路まで約2メートル。
「遅いよ、しずく」
「え…!?」
気付けば、目線は夜月の顎下から胸元。
走った力の反動は柔らかく受け止められて、首もとにはちょっと冷たい夜月のコートの裾とあったかい掌。
なんで、こんな…と焦る私も夜月は受け止める。
「だって、約束したとき舞い上がって話聞いて無かったでしょ?」
やっぱりバレてたのか…
ここまでされていたらバレてないって思うのに、流石幼なじみ。
それよりも。
「う、腕、放して?」
「しずくが抱きしめてくれるまで嫌」
「放し……」
「嫌」
もう!と自棄になってぎゅっと抱き締める。
ふふ、と夜月はにやつきが止まらない風に顔が笑っている。
私はぎゅっと思い切り、でも一瞬だけ首もとに抱き付いた。
にやつきはちょっと気持ち悪い。
「はい、したから放して」
「…はーい」
ぱっと放されるのも味気ない気がするけど。
と、手袋をした手がぎゅっと何かに握られる。
指と指を絡められて、何事かと見れば、夜月と私が恋人繋ぎになっていた。
は、はじめて………
「ふふ、嬉しそう」
「べ、別に」
照れてる私をからかってくる。
そっちだって、顔を耳まで真っ赤に染め上げている癖に、なにいっているんだか。
お互い様だけど。
「…行こうか」
そうやって急に優しくしてきたり…
本当にずるいんだから。
「…うん」
一言だけ、言わせて。
「太陽が、眩しいですね」
今日はずっと、私の横に来て、一緒に歩いて欲しいから。
♢♢♢
それからはあっという間。
駅の方にいって、街を見て、服を見たりして。
「ねえ、これ可愛い」
「ん」
「え…ありがと」
可愛い雑貨屋さんでお揃いのクマちゃんキーホルダーも買った。帰ったらリュックにつけよう。
しばらく歩いて、気付けば時計が12時を告げる音楽を鳴らしていた。
「お腹すいた?」
「すこし。しずくは?」
「…そろそろ、食べよっか」
そんな風にちょっと奮発して、といっても二人で1500円くらいのレストランで、パスタとピザを食べた。
たらこと海苔が盛られた和風パスタ。
バターの香ばしい匂いが嗅覚をくすぐる。
「ん、おいしい」
「こっちも美味しいよ」
食べさせてあげる、夜月が食べているピザをこっちに差し出す。
とろっとしたチーズが伸びて、ソーセージの肉汁と玉ねぎのシャキシャキ感がなんとも美味しそう。
これは、「あーん」をしたいということか?
「あ、あーん……」
「なんてね♪」
ぱくっと一口、ピザは夜月の口の中。
恥ずかしい。全く。
「はい、口空けて」
「えっ!!」
「嘘」
あからさまにガーン!という反応を示される。ピザも貰ったから許してあげよう。
「次、どこ行く?」
「あ、新しく出来たチョコのお店、夜月と食べたいなー…、なんて」
嘘嘘、冗談。が通じる訳もなく、夜月はまんまとチョコのお店に一直線。
よっぽど甘えられたのが嬉しかったのかな。
一口サイズのチョコが入った箱に、ちょっとしたジュースを買い食いしつつ、夜6時を待つ。
駅前のクリスマスツリーの点灯を見るために。
午後5時30分。少し早いけど、ツリーの前にはもう人がごった返している。
「はぐれないでね」
言った先から、どんどん人にぎゅうぎゅう詰めにされる。だんだん、手が離れていく。
ついには人差し指がやっと触れ合うくらいまで遠ざかっていた。
名前を呼び合っても、届かなくなっていく。
「よ、夜月!」
どうしよう………!
待ち合わせ時間が分からなかったときよりもよっぽど、焦る。
でも残念なことに、そう焦っている間にも、夜月との距離は瞬く間にごった返す人ごみによって離れていく。
30分で、探せるかな…
「あっ、しずくちゃん!」
こんな時になんてタイミングの悪い!!
これだからテニス部の女子たちは。
「デートは?」
「明日ね!」なんて言って、さっさと退散して、夜月を探す。のも態度がわるすぎる。
「今、ちょっとトイレ行こうかなって」
「そうなの?なんか引き止めてごめんね!」
出来るだけ早足で彼女のもとを離れる。
お互いに探していて行き違い、なんて嫌…
ふと時計を見れば、あと10分でツリーは点灯。
9分、8分、7、6、5、4、3、2、1…………
「夜月!!」
いない、いない、どこを見ても、人人人。
あと30秒、29、28、27…………
「どこ!?」
タイムリミットが直前。
10、9、8……
もう、無理だ。
「…よづき……」
諦めてしゃがみこもうとした時。
「しずく!」
大好きな人の、声。
3、2、1…
「夜月!」
クリスマスツリー点灯!!
ぱぁっと周りが明るくなる。
夜月が、泣きそうな私の顔を腕の中にうずめる。苦しいくらいに。
そして、はぁ…と一息。
白く、くぐもった安堵の吐息が私の頭と首筋を伝う。
「焦った……」
どくどくと夜月の心臓が波打っている。もちろん、私も。
焦りと、安堵で、そしてお互いの体温を感じて、ぐちゃぐちゃな心拍がだんだん落ち着いていくのが分かる。
私はすぅ、と深呼吸をして、ゆっくりと夜月を見つめ直す。
もう一度手をつないで、指を絡めて。二人駆け出して、クリスマスツリーの下に行く。明るく、色とりどりなツリーとイルミネーションは、それはそれは綺麗。
サンタさんでさえ、知らないんじゃないかと疑ってしまうほど、君と見る景色はどんなだって美しい。
「…夜月、大好きだよ」
そう目を閉じて、だんだんあたたかみが近づいてきて────。
「つめた!」
鼻の先が、つんと冷たい感覚がする。
空を見れば、ふわふわと雪が舞っている。
いい雰囲気だったのにね、と笑いあう。それが、私たちにとって一番良いのかもしれないけれど。
「雪……ふふっ」
また、思わず笑う。
もう一度、もう一度見つめ合って。
「……ん」
軽く、甘く、唇が触れ合った。
嗚呼、今日はなんて幸せな日なの。
「………死んでも、いいわ」
───今日の夜は、甘い甘い、白い雪が降り注いだ。
ご精読、ありがとうございました。