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Weather Date Series~君と恋する空模様

snowy tomorrow night

作者: 花宮 あいら

メリークリスマス!

皆様の元にサンタさんが来ることを願って。


「rainy last night」の続編です。

https://ncode.syosetu.com/n4665fd/

 明日の夜は、きっと雪が降るのだろう。


 私は、雨宮しずく。よく言えば、大人っぽい。悪くいえば、生意気。私はいつもそんな風に評される。し、自分でもそう思う。



「しずく、帰ろう」


「うん」



 生徒会室で、そんな私───しずくに声をかけてくるのは、晴山夜月。


………私の、初恋の人。


 どんなに遅くなっても、つべこべ言いながらも仕事が終わるまで待っていてくれる、大切な幼なじみで、今は大好きな人。



「あのさ」


「何?」



 とんとん、と靴を履いていると、夜月が話しかけてきた。下を向いて垂れてきた髪を耳にかけながら、私は話を聞く。



「クリスマス、どっか行かない?」


「ええ……と…」



 それは、つまり。



「デートってこと?」


「そう」



 自分で、顔が一瞬の間に赤くなったのが分かる。ぼわわっと火広がっていくような。

 夕方の陽と同じくらい、とまでは言えないかもしれないけれど、すごく赤く、綺麗に染まっている気がする。

 そういう夜月も頬を赤くしながら顔を掻いている。それは、寒さでなのか、それとも……



「う、うん…」



 目を逸らしながら、頷く。

行きたくないわけじゃないし、一緒にクリスマスなんていつぶりなんだろうってくらい。

 夜月が目をキラキラさせながら笑顔で「どうしよっか」なんて言っているけれど、私の胸中はそんなもんじゃない。


 今にも、顔がどこかに吹っ飛びそう。



「───で、いい?」


「うん」



 しまった。聞き逃した。

とりあえず相づちを打ったけれど、ばれてるよね……



「じゃあ、クリスマスの日ね!」



 話題が変わってしまう。嗚呼、どうしよう。

がっかりなんてさせたくないし、だからといって今聞ける雰囲気でも無くしてしまった。


 まだ日にちはあるし、なんとかしよう。



「……夕日が綺麗ですね」


「もうすぐ月が、見えますね」



 「もう少し一緒にいたい」とか「あなたの気持ちが知りたい」と言う言葉の隠語。

 夜月もよく、綺麗な返しを知っているものだ。


 今日の天気は私の気持ちを映しているのか、太陽は隠れて晴れのちくもり。




♢♢♢




「しずくちゃん、デートするんだってね!」



 どこからその情報が漏れているの?

 まさか夜月?



「いいなぁ~私も彼氏が欲しい」



 都合よく話してくるのはテニス部の女子二人。前よりそこそこ仲良くなったけど、うざったいのは相変わらず。



「で、どこいくの?」


「あ…えと…」


「もー、しずくちゃんが困ってるでしょー」



 あはは、と笑いながら去っていく。

夜月はまた女子に囲まれながら、きゃーきゃーされているし。



「し、しずくに会いに行きたいな」


「えー、良いじゃないですか!」



 どうにもこうにも、聞けないなぁ……


 放課後、生徒会室。私は書類の整理をしつつ、探ってみる。



「あのさ、クリスマスの日……」



 め、目線が眩い…!



「た、楽しみだね」


「うん、早くクリスマスなってほしい」



 仕方ない。明日聞こう。

今日は、星が見えそうなほど綺麗な夜空。


……と思っていたのに。



 翌日。



「ねえ夜月」


「ごめん、ちょっと先生のとこ行かなきゃ」



 翌々日。



「夜月、いる?」


「今いないの、ごめんね」



 クリスマス一週間前。



「夜月……」


「今職員室行かなきゃ行けなくて」




 クリスマス二日前。



「よづ……」


「ごめん」



 これってまさかわざと避けられてる?

あからさまに最近、夜月と話すことがない。

クラスも違うから、あまり話せないというのはそうなのではあるけれど。


 …何かおかしい。



 クリスマス前日。



「よ……」


「後でね」



 ………全然、一緒にいられない!


 こうなったら、朝一で電話でもしよう。




 クリスマス当日。午前8時。



「もしもし、しずくです。夜月はいますか?」


「ああ、しずくちゃん。夜月なら、さっきしずくちゃんと待ち合わせって、飛び出していったよ」



 そんな!!

これはまずい、と急いで鞄の中に財布と携帯と家の鍵、あと飲み物を適当に突っ込む。


 ちなみに親たちは、私たちがつき合っていることなんて知る由もない。仲のいい幼なじみくらいに思っている…と思う。


 携帯は、夜月が持っていないし……



「行ってきます!」



 急いでニットブーツを履いて、家を飛び出して走った。


───走った距離、玄関先から道路まで約2メートル。



「遅いよ、しずく」


「え…!?」



 気付けば、目線は夜月の顎下から胸元。

走った力の反動は柔らかく受け止められて、首もとにはちょっと冷たい夜月のコートの裾とあったかい掌。


 なんで、こんな…と焦る私も夜月は受け止める。



「だって、約束したとき舞い上がって話聞いて無かったでしょ?」



 やっぱりバレてたのか…

ここまでされていたらバレてないって思うのに、流石幼なじみ。


 それよりも。



「う、腕、放して?」


「しずくが抱きしめてくれるまで嫌」


「放し……」


「嫌」



 もう!と自棄になってぎゅっと抱き締める。

ふふ、と夜月はにやつきが止まらない風に顔が笑っている。

 私はぎゅっと思い切り、でも一瞬だけ首もとに抱き付いた。


 にやつきはちょっと気持ち悪い。



「はい、したから放して」


「…はーい」



 ぱっと放されるのも味気ない気がするけど。

と、手袋をした手がぎゅっと何かに握られる。

指と指を絡められて、何事かと見れば、夜月と私が恋人繋ぎになっていた。


 は、はじめて………



「ふふ、嬉しそう」


「べ、別に」



 照れてる私をからかってくる。

そっちだって、顔を耳まで真っ赤に染め上げている癖に、なにいっているんだか。


 お互い様だけど。



「…行こうか」



 そうやって急に優しくしてきたり…

本当にずるいんだから。



「…うん」



 一言だけ、言わせて。



「太陽が、眩しいですね」



 今日はずっと、私の横に来て、一緒に歩いて欲しいから。




♢♢♢




 それからはあっという間。

駅の方にいって、街を見て、服を見たりして。



「ねえ、これ可愛い」


「ん」


「え…ありがと」



 可愛い雑貨屋さんでお揃いのクマちゃんキーホルダーも買った。帰ったらリュックにつけよう。


 しばらく歩いて、気付けば時計が12時を告げる音楽を鳴らしていた。



「お腹すいた?」


「すこし。しずくは?」


「…そろそろ、食べよっか」



 そんな風にちょっと奮発して、といっても二人で1500円くらいのレストランで、パスタとピザを食べた。


 たらこと海苔が盛られた和風パスタ。

バターの香ばしい匂いが嗅覚をくすぐる。



「ん、おいしい」


「こっちも美味しいよ」



 食べさせてあげる、夜月が食べているピザをこっちに差し出す。

 とろっとしたチーズが伸びて、ソーセージの肉汁と玉ねぎのシャキシャキ感がなんとも美味しそう。


 これは、「あーん」をしたいということか?



「あ、あーん……」


「なんてね♪」



 ぱくっと一口、ピザは夜月の口の中。

 恥ずかしい。全く。



「はい、口空けて」


「えっ!!」


「嘘」



 あからさまにガーン!という反応を示される。ピザも貰ったから許してあげよう。



「次、どこ行く?」


「あ、新しく出来たチョコのお店、夜月と食べたいなー…、なんて」



 嘘嘘、冗談。が通じる訳もなく、夜月はまんまとチョコのお店に一直線。

 よっぽど甘えられたのが嬉しかったのかな。

 一口サイズのチョコが入った箱に、ちょっとしたジュースを買い食いしつつ、夜6時を待つ。


 駅前のクリスマスツリーの点灯を見るために。

 午後5時30分。少し早いけど、ツリーの前にはもう人がごった返している。



「はぐれないでね」



 言った先から、どんどん人にぎゅうぎゅう詰めにされる。だんだん、手が離れていく。

 ついには人差し指がやっと触れ合うくらいまで遠ざかっていた。


 名前を呼び合っても、届かなくなっていく。



「よ、夜月!」



 どうしよう………!

待ち合わせ時間が分からなかったときよりもよっぽど、焦る。


 でも残念なことに、そう焦っている間にも、夜月との距離は瞬く間にごった返す人ごみによって離れていく。


 30分で、探せるかな…



「あっ、しずくちゃん!」



 こんな時になんてタイミングの悪い!!

 これだからテニス部の女子たちは。



「デートは?」



 「明日ね!」なんて言って、さっさと退散して、夜月を探す。のも態度がわるすぎる。



「今、ちょっとトイレ行こうかなって」


「そうなの?なんか引き止めてごめんね!」



 出来るだけ早足で彼女のもとを離れる。


 お互いに探していて行き違い、なんて嫌…

 ふと時計を見れば、あと10分でツリーは点灯。



 9分、8分、7、6、5、4、3、2、1…………



「夜月!!」



 いない、いない、どこを見ても、人人人。

 あと30秒、29、28、27…………



「どこ!?」



 タイムリミットが直前。

 10、9、8……

 もう、無理だ。



「…よづき……」



 諦めてしゃがみこもうとした時。



「しずく!」



 大好きな人の、声。

 3、2、1…



「夜月!」



 クリスマスツリー点灯!!

ぱぁっと周りが明るくなる。


 夜月が、泣きそうな私の顔を腕の中にうずめる。苦しいくらいに。


 そして、はぁ…と一息。

白く、くぐもった安堵の吐息が私の頭と首筋を伝う。



「焦った……」



 どくどくと夜月の心臓が波打っている。もちろん、私も。


焦りと、安堵で、そしてお互いの体温を感じて、ぐちゃぐちゃな心拍がだんだん落ち着いていくのが分かる。


 私はすぅ、と深呼吸をして、ゆっくりと夜月を見つめ直す。


 もう一度手をつないで、指を絡めて。二人駆け出して、クリスマスツリーの下に行く。明るく、色とりどりなツリーとイルミネーションは、それはそれは綺麗。


 サンタさんでさえ、知らないんじゃないかと疑ってしまうほど、君と見る景色はどんなだって美しい。



「…夜月、大好きだよ」



 そう目を閉じて、だんだんあたたかみが近づいてきて────。



「つめた!」



 鼻の先が、つんと冷たい感覚がする。

 空を見れば、ふわふわと雪が舞っている。

いい雰囲気だったのにね、と笑いあう。それが、私たちにとって一番良いのかもしれないけれど。



「雪……ふふっ」



 また、思わず笑う。

もう一度、もう一度見つめ合って。



「……ん」



 軽く、甘く、唇が触れ合った。

嗚呼、今日はなんて幸せな日なの。



「………死んでも、いいわ」



───今日の夜は、甘い甘い、白い雪が降り注いだ。

ご精読、ありがとうございました。

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