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終わりと始まりのセレナーデ  作者: 伊能こし餡
50/50

第50話.姉弟

「あの、お姉さん」

「なに?」

「ありがとうございます」

「あはは、なにさ、急に」


信頼できると思った途端言葉がスラスラ言えるようになった。


私はいつもこう。優しいと思った人としか仲良くしたがらない。自分のご都合主義につくづく嫌気がさす。


「でも幸一くんは本当に優しいんですよ、こんな私とも、嫌な顔なんてせずに遊んでくれるんです」

「ほーう、あいつがねえ」


なにか悪いことを考えているような目でニヤリと笑う。でも本当に優しいと思う。いろんな楽しいことも教えてくれたし、間接的にクラスの一員にもしてくれた。多分私の人生で1番優しくしてくれた人。


「今更だけど」 お姉さんが口を開く。


「佐和田さんって最近3号棟に引っ越してきた佐和田さんで合ってる?」

「あ、はい、そうです」

「じゃああの人がお母さんか」


・・・・・・っ! お母さん? あの人が? 冗談じゃない! あの人さえいなければ、あの人さえいなければ私は存在せずに済んだのに! こんなに苦しまずに済んだのに・・・・・。


黙り込んでしまった私。よっぽど陰鬱な表情をしてたのか、お姉さんが「大丈夫?」 と心配そうに聞いてきた。「大丈夫です」 悟られないように平静を装う。なんとなくまだお姉さんにそこまで話せる気はしなかった。


「幸一がへんなこと聞いてきたと思ったらそういうことね」


? 変なこと? 幸一くん、お姉さんになにを聞いたんだろう?


「あの、それって、どういうことを?」

「ああいや、気にしないで、こっちの話だから」


そんなこと言われても、気になるんですけど・・・・・・。


後で幸一くんに聞こう。今お姉さんに聞いても明確な返事が返ってくることはないと思う。


「あとさ、”お姉さん“ってのは堅苦しいからみづきでいいよ、私もりえちゃんって呼ぶからさ」


わぁ、距離の縮め方が姉弟でまったく一緒だ。なんか微笑ましいな。


「じゃあ、みづきさん・・・・・・で」

「うん、そうしよう、りえちゃん」

「なんか、照れくさいです」

「あっはっはっはっはっはっはっは! 確かにね!」


ものすごい大声で笑うから、ビクってなって、少し体が硬直した。「まあこんなん、慣れだよ慣れ、私もちょっと照れくさいもん」 よかった。怒らせたわけじゃなかったみたい。


「あ、そろそろあいつを呼んでこないとね」

「ですね」


ああよかった。やっと幸一くんが来てくれる。いくらお姉さんでも、今日初めて会った人と2人きりは私にはハードルが高すぎる。幸一くんの部屋に向かうみづきさんの後ろ姿を見ながら胸を撫で下ろした。


緊張が一気に抜けて正座していた足を崩す。もう、足が痺れて感覚がない。あとなんか肩も凝ってる。


やっぱり他人と話すのって緊張するなあ。だって何考えてるか分からないんだもん。なんで普通に生きるのってこんなに窮屈なのかなあ。

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