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終わりと始まりのセレナーデ  作者: 伊能こし餡
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第5話.スーパー『ドリーム』

スーパー『ドリーム』は僕が住んでいる西嶋町に唯一のスーパーで、ずっと直線が続く畑沿いの道にこじんまりと佇んでいて、お世辞にも大きくはないがこの片田舎で生活するには不足しない程度に商品も揃っている。大体の町民はこの『ドリーム』を利用している。


もちろん我が井上家もこの例に漏れず、大概の日用品はここで買い揃える。今日はもう夕飯時を過ぎたくらいということもあり、割と空いていた。


「あら、こうちゃんいらっしゃい」


小さい時からここを利用しているため大体の店員さんとも知り合いだ。まったく、田舎というのは世界が小さくてどうも生き辛い。「こんばんは」と手短に返して豆板醤を探す。


豆板醤なんてなかなか使う機会がないから探すのに手間取るかとも思ったが、普段からよく使う醤油なんかと同じ棚にあったのですんなり見つけれた。


調味料一個でレジに並ぶのも恥ずかしいし、せっかく姉から千円貰ったのだから、なにかお菓子でも買っていこう。


お菓子コーナーには親子連れが2組と同い年くらいの女の子が1人いるだけだった。通路はそんなに広くはないため半身になりながらチョコレートが売ってある棚まで来た。


別にチョコレートじゃなくてポテチでもいいのだが、そっちの棚の前は親子連れが占領していたので、待つのも面倒だし適当に買ってさっさと帰ろうと思ったのだ。


色んなメーカーのチョコが並ぶ棚を前にして、どれにしようかと少し悩んだ。僕が好きなスティック状のお菓子はもう売り切れてるみたいだったのでたまにはクッキーにチョコがコーティングされたものでも買おうかと思い手を伸ばした時だった。


「あの」


同い年くらいの女の子が声をかけてきた。なぜ僕に? と少し疑問を抱きながら振り向き、女の子の方を向いた。


背は168cmの僕より少し低いくらいだろうか、全体的にスラッとしていて、気温が30℃を超える日も珍しくない季節なのに薄手の紺色のシャツにデニムというのが少し変わってるなという印象を持たせた。しかしそれも長い髪から垣間見える白い肌のせいで「肌が弱いのかな」 という印象に塗り替えられた。


顔立ちは非常に整っていて黒目が大きかった。それなのに、どことなく暗い表情に見えるのは気のせいだろうか。しかも、どこかで見たことのあるような顔な気がする。まあこの狭い田舎じゃ知らないうちにどこかで顔を見たことあるなんてよくある話なのでそこは気にしないことにした。


「僕ですか?」 と最初に抱いた疑問を口に出すと「はい」 と短く返事が返ってきた。向こうから声をかけてきた割には目も合わせずオドオドしている。僕が怖く見えるんだろうか? しかし強面なんて今まで言われたことはないのだけれど。


「あの、それ、その豆板醤、どこにありますか?」

「え?ああ」


この女の子も豆板醤を探していたのか・・・・。僕があまり料理をしないだけで案外ポピュラーな調味料なのかもしれない。


「醤油とかと一緒のところです」


そう言うと女の子は「醤油?」 とキョトンとした表情を見せた。嘘だろ、この近辺の人間で『ドリーム』の内部構造を知らない人がいるなんて。


「こっちですよ」


仕方なく調味料売り場まで案内することにした。「ここです」 と案内を終えると女の子は「ありがとうございます」 と深々とお辞儀をした。別段、特別なことをしたつもりはないのだが悪い気分はしなかった。

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