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終わりと始まりのセレナーデ  作者: 伊能こし餡
37/50

第37話.あの人

幸一くんと別れて、1人で3号棟まで戻っている途中、自分の家の電気が点いているのが見えた。


お母さんだ・・・・。


一気に胸がキュッと苦しくなる。動かなくなりそうな足に無理やり力を入れて家までの数mを歩く。


ドアを開ける前に、ドアの少しの隙間にソッと耳を当てる。良かった、今日はお母さん1人みたい。


「ただいま・・・・」


できるだけ小声で、自分の存在を悟られないように家に上がる。


ギシッ


忘れてた。ここの家、古いんだった。


リビングの女の人がチラッとこっちを見るが、まるで何事もなかったかのように携帯をいじり始めた。あの人をお母さんなんて呼びたくない。


幸いにも私の部屋はリビングの手前から曲がったところにあるのであの人を直視しないで済んだ。


この前お母さんが連れ込んだ男の人に言ってた。「欲しくない子供を孕んで結婚したくない男と一緒になった、けどもう自由」 欲しくない子供、それが私。


あの人はお父さんみたいに暴力を振るうわけじゃない。でもどこか私を気に入らない様子で、私のことに何も干渉してこない。


自分のベッドに腰を下ろし、何もない部屋を眺める。ほのかに香ってくるタバコの匂いがあの人との距離の近さを示している。


頭痛が激しくなって心臓がバクバクいって吐き気が襲ってくる。


たまらず横になった。


きっともう、今日はここから動けない。あの人の存在が、私の体を重くする。腕を動かそうとしても鉛のように重く、足はボラゾンのように硬い。


早くあの人が、いつもみたいにどこかに行ってくれればいいのに。


お母さんは飲み屋さんで働いてるらしい、その関係かは分からないけど、たまに男を家に連れ込む。それで2人で朝まで“なにか”をしてる。


まさかそんなこと、幸一くんには言えなかった。せっかく仲良くなれたから、好感度を下げるようなことは言いたくなかった。


まあもう下がるところまで下がってるかもしれないけど。


1日で色々喋りすぎたと思うの。でも他の人と喋ることがあんまりないから、普通の人がどういう会話をしてるのかが分からない。


幸一くん、なにを言うでもなく最後まで聞いてくれた。なんとなくどこかで話を切られるかなって思ったけど、そんなこともなかった。


なんか、私は喋っていいんだって、不思議な感覚だった。今度は幸一くんことが知りたいな。


・・・・・・話してくれるかな?

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