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終わりと始まりのセレナーデ  作者: 伊能こし餡
25/50

第25話.母さん

いつのまにか寝てしまっていたようだ。目を開けると時計の針は午前1時を指していた。


「うーん・・・・」


お風呂も入らずに寝ていたので体中がベタベタしているような感覚だ。ひとことで言うと気持ち悪い。


動画サイトを開きっぱなしだったのでスマホの充電はとうに切れ、ただの置物と化していた。


とりあえずその置物に充電コードを挿しこみ、着替えを持って部屋を出る。


部屋の外ではムワンとした、熱気が篭った空気が出迎えてくれた。いや、出迎えてくれたというよりは襲ってきた、という方が今の僕の気持ちをよく表してくれる。この暑さに軽く殺意がわいた。


夏なので、浴槽には入らずに軽くシャワーで昼間の汗を流した。誰かが言った「風呂は命の洗濯」 だと。案外その通りなのかもしれない。


お風呂から上がると母さんが帰宅していた。僕は少し、どころかかなり驚いた。


母親が家に居るというのは普通のことなのかもしれないが、僕にとってのそれは特別だった。自分の誕生日だとか、そういう意味での細やかな特別。


「幸一、今お風呂なの?」


母さんは優しく、まだ小さい頃の僕に語りかけるような口調で話しかけてきた。


「うん、学校から帰ったらそのまま寝ちゃって、起きたら今だった」

「そうなのね、てっきり夏休みだからって夜遊びでもしたのかと思った」


それを聞いて僕は少しゾッとした。母さんは基本的に優しいが、怒るととても怖い。昔もよく夕方の5時に帰らなかっただけで家に入れてもらえなかった。


「僕に夜遊びするような友達はいないよ」


なにが悲しくて自分の親に友達がいないことを告白しなければならないのだろう。


「そうね、裕介くんは?」


軽く「そうね」 といいうあたり母さんも母さんだ。やはり蛙の子は蛙ということだろうか。


「裕介はそんなやつじゃないよ」


「僕はもう寝る」 母さんと久しぶりに色々話したかったが、時間も時間だし、母さんもきっと疲れているだろうから、また寝直すことにした。


「あら、そう? おやすみなさい」


少し悲しそうな母さんを見ると、もう少しだけ会話すればよかったと後悔した。後悔先に立たずなんて、最初に誰が言ったのだろう?

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