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研修医って、そもそもこういう立場なんです。

 某日、医局(お医者さんのデスクがある場所です。関係者オンリーの聖域)にて。


「はあ……」

「あ、みんな元気だった?」

 某科の病棟回診から帰って、私の前にその科を回っていた同期に声をかけられた。苦笑気味に返す。

「まあ、安定してるんじゃない。まだ初日だから分からんけど」

「ふーん。Mさんは? あの人なかなか厳しいでしょ」

 ドンピシャの名前を刺されて、今度こそ苦笑いを浮かべた。

「うん、早速刺された」

「なんて?」

「いや、最初は看護師さんと間違えられてたんだけど、指導医の先生がお医者さんですよーってフォロー入れてくれたんだけどさ」

「うん」

「……『肩書きだけだろ』って」

 同期は、楽しそうに宣った。

「さっすがMさん、的確に刺してくる」

 この、タイムラグ置かずにシニカルな打ち返しをしてくれる同期の態度は、地味にダメージをくらっていた身には、却って気が楽になったりするので助かっている。

「そこに痺れも憧れもしないけどね」

 乾いた笑いと共に、私は自分のデスクに座った。



 研修医。

 そもそも、これが一体何ぞやという疑問を持たれている方は多いと思います。

 その説明のために、長くなりますが『お医者さんになるまですごろく』を示してみましょうか。



1.医学部に入学する

 いわずもがなですが、医師の資格を取るには必須です。

 ここで『1回休む』どころか2回も3回どころか6回でも『休む』しちゃう人も少なくない上に、「いっぺん普通の大学でたけどやっぱ医者になりたいわ」と再入学してくる勢もいるため、医学部では年齢より学年で上下関係が決まります。後輩が年上で30代だったりします。カオス。



2.医学部で進級する(もとい、座学を学ぶ)

 1を最終到達地点だと思ったの誰だよ! 私だよ! と言いたくなるやつ。

 無事に受かった喜びに浮かれに浮かれたひよっこたちを、試験の量と、範囲と、難易度が押し潰しにかかります。


 追試に落ちれば留年です。

 医学部は1年間で取るべき単位がガッチガチぎゅうぎゅうに詰め込まれているので、落とした単位はまた来年、が出来ません。ので、留年一択です。鬼。

 

 国立は大体1年目(〜2年目前期)で一般教養(全学部教育)、2年目〜3年目前半で基礎医学、3年目後半〜4年目で臨床医学というカリキュラムが多いです。



 4年目の最後にはCBT、OSCEオスキーという試験があります。いわばあれです、運転免許の仮免試験(おい)。

 5年目6年目には実際に病院で患者さんの診察に触れるため、最低限の知識と常識が身についてるかのチェックですね。

 CBTは知識、コンピュータで解く全国試験。OSCEは常識、問診や身体診察などの実技試験。

 これらを両方クリア+4年目の単位全部取得、で晴れて実習が始まります。


 5年目は1,2週間ずつ全ての科を、6年目はその中で興味を持った科幾つかを1月ずつ実習。

 先生について診察や治療を見学し、患者さんに協力いただいて問診をとったり診察したり、手術にも入って見学します。同意いただけた場合は、実技も少々。

 ……まあ、大抵学生さんって嫌がられますけど。無理もありませんけど。


 こうして、紙の上の知識を実臨床に当てはめていくわけです。

 最近学生のうちにより臨床に触れさせよう的な流れもありますが、個人的には座学の基礎をがつっとやるのが医学生時代じゃないかなあと思ったり。



3.就活する

 医学生の就職は、ちょっと変わったシステムになっております。


 まず、実習の合間に様々な病院に見学に行きます。

 何気に『合間』が少ないので、大学生のくせに2週間くらいしかない夏休みにぎゅう詰めします。遊びたい。

 そして自分がここで働きたい、学びたい、と言うところを見つけます。


 そして6年生の夏、試験を受けます。

 面接だけだったり、実技があったり、ペーパーテストがあったり、病院によってそれぞれです。

 ここで病院は、来て欲しい学生の「順位」を付けます。


 学生も、行きたい病院の「順位」を付けます。


 そして、その順位が一番相互winwinになるところに就職が決まります。勿論コンピュータ様のお仕事です。


 出来るだけ地方にも研修医が行き渡るようにと、こんな仕組みになっておるそうな。



4.卒業試験に受かる

 医学部に卒論はありません、代わりに卒試があります。

 今まで臨床医学を教えてくださった教授方が、趣味全開求めるレベルインフレ全開で挑んできます。

 ……まあ、過去問やればなんとかなる、とは言われていますが。


 期間は1月。

 科目数が多いので、週に5教科やってもそのくらいかかります。

 落とすと追試があって、それも落とすと卒業出来ず、『もう1度6年生をやる』となります。この場合、就活ももう1度。


 ……卒試そのものは受かっても、こっちに時間を持って行かれすぎて国試落ちちゃったー、って人結構います。吾桜の活動報告を追ってくださった物好きの方々ならご存知の通り、なにせ卒試終わるのが国試2ヶ月前。ばかやろう。


 最近では、国試合格率を上げるため、卒試の期間を短くしたり内容を国試に準じたものにしたりする大学も増えているようです。裏山。



5.国家医師試験に受かる。

 言わずと知れた最終関門(のようなもの)。

 これに合格して初めて、医師免許をえられます。

 ここでようやく、「医師」を名乗れるようになるわけですね。尚、何故か結構医師免許発行にお金がかかります。解せぬ。



 ここまでクリアして、研修医になるわけです。これも初期、後期に別れます。


 初期研修医は、まずいろんな科を回って患者さんの診療に携わることで、基本的な臨床技能、知識を身に付けていきます。

 指導医の元で主義を行うのが基本。点滴だろうと採血だろうと、なんだってやります。

 そして、自分が生涯かけて働く専門分野を探します。

 ここで、2年間。


 後期研修医は、専門を決めて医局に入ったあとの3年間を示しますが、こちらは割愛。



 長い長い説明になりましたが、要するに我々初期研修医というのは、「病気についての基礎知識はあるけど診断やら治療を1人ではさせられない新人」というやつなのです。


 ので、ぶっちゃけ私が患者さんに言われた「肩書きだけ」というのは案外間違いではないのですね。だって医師免許あるけどひとりでできないもん。


 ……まあその肩書きを手に入れるのがめっさ大変ちゃー大変ですけども。



 研修医ってマンガでしか聞いた事のない方が多くいらっしゃるでしょうが、こんな感じです。学びながら働く新入社員、みたいな?

 ただ、命がかかってるので、指導医ががっつり付きっきりで見張ってるという感じです。いつも大変お世話になっております。



 というわけで、前回の話と合わせますと。

 救急外来で初期対応は研修医が行いますが、逐一報告を上級医指導医に行い、我々の判断の是非を下してもらった上で検査や治療などしているのです。

 基本的な診察の技能を磨くために経験を積ませてもらう場、と言ってはなんだか響きが悪いですが、そういう一面があるのも確かです。


 ので、ぶっちゃけ本当に、時間外はコンビニ受診して良い事ないですよ、と全力で言い切りたい←おい





 追記。

 冒頭で会話したY氏ですが、最近彼、救急科を回り始めて鬼のように忙しい模様です。始まって1週間、先月とは比べものにならないような忙しさを誇っている様子。

 うん待って、来月私、Y氏と救急科回るんだけど。


 …………当直に加えて、通常勤務時間も鬼忙しい未来が待っているのでしょうか。

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