第九話 準備
迷宮都市 テルテドールへと向かうことにした一行は全ての後処理を始めた。
具体的に言えば臨時雇用の講師を辞める、と学園長に言いに行ったり不要な薬剤等を全て売り払った。そして、そのお金で旅路に必要なものを買っていった。
家は、シリエが守ってくれることになった。なんでも、恩返しがしたいから帰ってくるまで待っておくらしい。
また、領主の館にも行き一応旅に出るという話をしたのだがこの前の礼だと言って金一封を貰った。
※※※
「さて、今まで楽しかったよ。次に会うときにはもっと成長しておくことを期待するよ」
旅に出る当日に、教え子達が見送りに来た。その中にはシリエの顔もあった。
「迷宮都市 テルテドールでも頑張って下さい。応援しています」
全員が笑って見送ってくれた。その声と記憶を胸にテルテドールへと向かう。
勿論、徒歩で行くのではない。テルテドールへと行くキャラバンがあったので、その護衛として向かうのだ。
「俺がテルテドールで最も有名な商会、トューリ商会のヒルレだ。今回はテルテドールまで護衛をして貰う。よろしく頼むぞ。エリミアナ殿とレーゼ殿」
商会の男は若かった。まだ30代前半位だろう。そんな中で行商をしているので余程の敏腕なのだろう。
この護衛の依頼にはもう一人、レーゼという獣人もいた。耳の形からして恐らく獣人の中でも犬人か狼人だろう。しかし、子供と見間違う程に小さかった。
「テルテドールまでの間だが、よろしく頼む。ヒルレ殿」
「安全な旅路になることを祈っている」
エリミアナの方を一度も見ずにヒルレと挨拶している。
「なんか感じわる~い」
ユグドラシルのもっともな意見が聞こえた。
「では出発しますよ」
ゆっくりと馬車が動き始めた。ゴトゴトと馬車に揺られながら会話に花を咲かせていた。
「ほぅ、エリミアナ殿はかの有名なネノレルエ総合魔導学園の講師をやっておられたのですか」
「えぇ、非常勤講師ですがね」
テルテドールまでの道のりは基本的に安全である。盗賊もほとんど出ないし、危険な道も魔物も殆ど無い。油断は禁物であるが。
「ところで、レーゼ殿はずっと探索者をやっておられたのですか?」
「いや、狼牙傭兵団の斥候担当だった」
「あの有名な狼牙傭兵団に所属していたのですか」
狼牙傭兵団とは、傭兵の中でも信頼されておりしっかり働き礼儀正しいと評判のある傭兵団である。しかし、数年前にリーダーが突如解散を宣言したことで話題になっている。もちろん、なぜ解散したのかは誰も知らない。
「ねぇ、エリ~。暇」
「ユグ、我慢しなさい。ティンなんて何も言わずにじっとしてるでしょ?」
窓辺で全く動かずにじっとしているティンカーリュを指しながらユグドラシルを諭す。
「う~、でもぉ」
「そう言えば契約精霊、二体とも契約ひているのですね。羨ましい限りです。そうだ、どうです?お一つ暇つぶしの遊戯盤をお譲りしましょうか?お安くしますよ」
そう言いながら取り出したのは、メジャーな遊戯盤のリュカーナだった。
リュカーナとは、ボードの上で行う擬似的な対戦のようなものである。剣士と槍士が二駒、弓士、魔術士、英雄の七駒で全ての駒を奪った方が勝ちというゲームである。
「ユグやりたいっ。ダメ?」
「はいはい。商売上手ですね。一つ買いましょう」
上目遣いで頼むユグドラシルに負けて、リュカーナを買い取った。
「はっはっは、性分ですので。毎度あり」
確かに、相場よりもかなり安かった。
「ティンっ。やろうよ」
「ん?あぁ。いいぞ」
そこからはユグドラシルとティンカーリュの駒を動かす音とヒルレとエリミアナの会話しか聞こえなかった。
「まげだぁ~。もう一回っ」
「全て負けてるだろう」
十何回とやっているのに一回も勝ててない。と、言うのも目先の事しか考えていないからだ。
「むぅ~。あっ、レーゼさんやろうよぉ」
エリミアナは嫌そうに顔を横に降ったし、ティンカーリュは寝始めたし、ヒルレは強そうなので消去法的にレーゼに向かったらしい。
「リュカーナか。いいだろう」
また、駒を動かす音が聞こえ始めた。
おまけの登場人物紹介
エリミアナ
219歳のエルフの弓使い。二体の高位精霊と契約している。
量の多い長い黒髪に金の瞳。いつもは、サイズの大きいダボダボの洋服を好んで着る。
戦闘時は、蒼龍のローブと呼んでいる蒼龍の鱗を鞣して作った緑色のローブに複雑な紋様の刻まれた魔弓 アルヴェを使う。
ティンカーリュ
兎と竜を足して割ったような姿の炎の高位精霊。そこそこ優しい。また、エリミアナが初めて契約した精霊でもある。真っ白でフサフサの毛に緋色の瞳。
攻撃よりも回復や治療の方が得意だったりする。また、火以外の属性を扱えないのでユグドラシルと相性が悪い。
ユグドラシル
少女の姿をした植物の精霊。着ている服は植物で自ら作ったものであり瞬時に服の形を変えることもできたりする。肩に掛からないほどの短い金髪に緑色の瞳。
植物があれば大体負けないのだが、無い場合ものすごく弱体化する。