第五話 昔話
今回、主人公が出てきません。
あと、短いです。
「100年前、だから曾祖父ちゃんぐらいが若かったぐらいの頃の話だ」
一人の吟遊詩人が酒場で語りかける。それを肴にしようと多くの人が耳を傾けていた。
「破壊と死を司る神 ドミネイグルが討伐される前の話だ。その悲惨な物語。聞いてくれるかい?」
だれもその返事はしない。それは、ありふれた話で誰もが一度は聞いたことのある話であるからだ。
※※※
一人の少年がいました。彼は虐待を受けていました。ロクに食べ物は与えられず、告げ口を恐れた両親は彼の足と腕に枷を着けて地下に監禁しました。
殺すことはできなかったのです。我が子を直接、手に掛けることを恐れたのです。この中途半端な対応が悲劇をもたらしました。
破壊と死を司る神は聞きました。
──力が欲しいか?復讐の火を炎に変え憎き人々を焼きたいか?
全てに絶望し妬み恨んでいた彼は、それを受け入れてしまいました。
──力が欲しい。復讐の刃が。
何も考えずにただ、恨むことしかしなかった彼は破壊と死の神を受け入れました。
彼の身体は、ロクに食べ物は摂ってはいないはずなのに膨大な魔力と力が溢れだしました。
彼は、まず両親を殺しました。
母親の首を握り潰し、父親の腹に穴を開けました。そして、彼は二つの亡骸を見て涙を流しました。
恨んでいるはずなのに、殺したい程に憎んでいるはずなのに。なぜ、悲しいという感情がでてくるのか、わかりません。
しかも最後に二人は笑っていました。まるでこれが、当然の報いだとでもいうように。
そして、一通り泣きじゃくり彼は空っぽになりました。彼の心を繋ぎ止めていたのは両親だったのです。
彼はまず酒場に行きました。
何故、酒場に行ったのかは本人にしか分かりません。
彼は無造作に一人の男の頭を掴みました。
そうして、思いきり潰したのです。
一瞬にして酒場は阿鼻叫喚の場へと変わりました。ある者は逃げて、ある者は果敢にも武器を抜きました。ですが、全て結果は同じです。逃げる人間は彼の魔法で串刺しになり、武器を抜いた者も呆気なく倒されました──
※※※
「そして、酒場で彼が客の頭を、ちょうどこのように掴んだのです」
楽器を置いて、スタスタと歩いて一人の男の頭を掴んだ。
「おいおい、坊主。頭を掴むたぁ良いどきょ」
ぐちゃっ、と音を立てて男の頭が潰れた。そこにはトマトのように真っ赤な染みができた。
「ちっ、てめぇがドミネイグルか」
「左様。我が破壊と死を司る神 ドミネイグルである」
そこには、シリエの肉体を持ったドミネイグルが立っていた。
「さて、今度はより大きな死と破壊をもたらそう!」