第三話 テスト
「はい、授業を始めます」
エリミアナが後ろの黒板を背に開始を宣言する。
ここはネノレルエ総合魔導学園、一年錬金術科、精霊魔導科の二つを受け持っている。この二つはとてもマイナーなのであまり受講人数がいない。
「気を付け、礼」
「「「お願いします」」」
元気の良い挨拶が聞こえる。
「今日は、前回から言っていたように精霊魔導のテストをします」
一斉に、えぇ~と声が響く。小数しか居ないので仲が良いのだ。
「ほら、グラウンドに移動して」
エリミアナの指示を皮切りにグラウンドに移動していく生徒達。各々が精霊と契約している。もっとも、顕現させられるのは極小数であるが。
「じゃぁ、適当に当てていくね。じゃ、ヒェル」
「俺?」
「そう、今目を逸らしたから」
「えぇ~」
しぶしぶというようにエリミアナの前に立つ。
「テストは私と契約精霊と戦闘。大丈夫、怪我はさせないさ。でも、そっちは全力で掛かってきな」
「はい」
エリミアナがユグドラシルを召喚する。顕現できる契約精霊は半ば強制的に召喚できるのだ。
「もう、エリ。ユグ、驚いたぁ。今日は戦いのテストなんだね」
緊張しているヒェルを見て、悟ったらしい。ガッチガチである。
「そういうこと。じゃ、ヒェル。攻撃始めっ」
「精霊よ。俺に力を。風刃っ」
透明な風の刃がユグドラシルに襲い掛かる。触れれば斬れてしまいそうな程の迫力があった。
「ユグ」
「うんっ。風よ、消えろ」
足った一言で風刃は消えてしまった。それほどの実力をユグドラシルは持っている。もっとも、日常ではアホ丸出しではあるが。
「やっぱり強い。でも、」
ヒェルが呟きを漏らす。
だが、今度は無詠唱で風刃が現れた。詠唱が必要が無くなるのは契約精霊との結び付きが強まったからだ。
「無詠唱ができてる、ヒェルのくせに」
という言葉があちこちから聞こえた。
「良いだろうが、出来ても。って、やべ。精霊よ。守れ」
風の壁がユグドラシルの創った風刃に触れる。だが、壁の方が掻き消えてヒェルの首筋まで近づいてから消えた。
「ヒェル、お疲れさま。風刃の無詠唱はさすが、そして最初に詠唱をしてカモフラージュしたのも良かった。でも、防御が間に合わなかったら避けなきゃ。あと、風壁が無くなった後に固まっちゃだめ。そこだけかな?」
がっくりとして元の場所に戻っていった。だが、無詠唱のコツを聞かれたりしていて直ぐに元のテンションに戻っていた。
「次は、セリネ」
「はーい」
セリネは契約精霊を顕現できる生徒の内の一人である。
「じゃ、始めっ」
土でできた狼が現れる。これがセリネの契約精霊であるケレルである。
「ケレル、土弾を打って」
尖った土の弾が放たれる。だがユグドラシルの風壁によって全てが土くれに変わった。
「前より強く成ってるぅ、すごいね。ケレルちゃん」
ユグドラシルがケレルにグッドと親指を上げる。
「もちろん!私たちが努力していないと思いで?」
ケレル自身は喋れないのでセリネが喋っている。
「まぁ、まだまだだけど」
地面が波打つ。それはケレルを中心として。だが、ケレルは何が起こったのか分からずに周りをキョロキョロしているだけである。
「ケレル、高く跳んでっ」
セリネが叫んだが、遅かった。
土がケレルを中心にドームのように展開される。
「ケレルっ」
だがそのドームをケレルが突破してセリネの前に立った。土でできた身体のの一部は崩れている。
「お、すごーい。ちゃんと判断して抜けれたんだ。完璧っ」
ユグドラシルがそのままエリミアナの方を向く。もういいでしょ?とでも言いたげに。
「セリネ、ケレル。どちらも文句なしだ。これからも精進していけ。あと、こっちのバカのせいでケレルの身体がボロボロになってしまったな」
「うっ、」
シュルシュルと土がケレルの回りに渦巻く。先ほどの攻撃を警戒してか防御の体勢に入ろうとしていた。
「攻撃はしないよ。少し待ってて」
崩れていた身体の一部が完璧に元通りになっている。
「これで文句ないでしょ?」
「まぁ、いいが。次いくぞ」
この後も、ユグドラシルとエリミアナによる精霊魔導のテストを全員に行った。
「そういえば、シリエがいないな。誰か知ってるか?」
シリエとはここら辺では珍しい獣人と呼ばれる種族である。いつも成績優秀で真面目な彼女がいないことが不思議だった。
「誰も分かんないんです。一昨日から居なくって、しかも家にも居ないんです」
「しかも、シリエ。一人で暮らしてるし」
誰も知らないようだ。しかも、家にも居ないとなると家出か失踪である。
どちらにしても、シリエがやりそうではないが。
「わかった、探しておく。今日はもう帰って良いよ。テストお疲れさま」