第十二話 買取
商会から少し歩いた場所に一軒目の家があった。
その家はとにかく広かったがズタボロになっていて改修しないと住めないような代物だった。
「ここが一軒目の家です。何分、ボロボロになってしまっているのでとてもお安くなっています。改修もお安く承りますよ?」
「なし、だね。さすがにボロすぎる」
「あそこやだ~」
「マスターにはふさわしくないですね」
全否定だった。余程、気に入らなかったのだろう。
「ですよね。次にいきましょうか」
断られると分かっていたのか、そそくさと後ろを向いて歩き始めた。
※※※
「ここは、何分。隣がスラムになっておりまして、かなり安くなっております」
その家は、広くもなく狭くもないちょうど良い大きさをしていた。
先程の家と違いボロボロではなかった。少し雨で汚れており、草丈が高いだけでその他に欠点など何も無かった。
「ここが良いっ」
「マスターにふさわしいのでは?魔力も濃く漂っていますし」
二体がかなり気に入っているようだ。
「二人が、言うんだ。ここを買うよ」
エリミアナが即決する。基本、エリミアナはどこでも寝れるし、行動できる。だからこそ、契約精霊達が良い場所で良いと考えていた。
「お、おい。いいのか?エリミアナ。ここは、その。スラムが」
気を使ったのか、小さな声でエリミアナに言う。確かに、隣からは家という家はなくあばら家になっている。
「もちろん。どこでも良いしね、あの二人がよければ、だけど」
「そうか、なら別に良いが」
「本当にここでよろしいのですか?」
「えぇ。ここで」
ヒルレが念を押してきた。たしかに、終わった後で、やっぱ嫌、と言われたら大変であろう。
「なら、頭金で12500Lo、価格が39600Loです」
「合わせて52100Loか。なら大丈夫だ。一括で買おう」
大盤振る舞いである。たしかに、少し前のドミネイグル討伐により領主から金一封を貰っていた。それと、要らないものを全て売り払ったお金を合わせれば余裕で足りていた。
「い、一括でか?相場よりもかなり安いが。もしかして、エリミアナは貴族なのか?」
隣でレーゼが驚いている。即金で買ったことよりもそんな大金を持ち歩いていた方に驚いているのかもしれないが。ここら辺の相場で考えるとかなり安いが、それでも大金である。そんなことを出来るのは、貴族ぐらいだろう。
「いや、貴族じゃないよ。ただ少しお金にゆとりがある普通の旅人さ」
「普通なのか?それ」
たしかに、普通ではない。
「わかりました。ではお譲りしましょう」
「ここで払っても?ほら、荷物全部持ってきてるし」
満面の笑みでそう言ってきた。
「えぇ、そうですね。ならばお受け取りしましょう」
「数えなくていいのか?」
「あなたを信用していますので。まいどあり」
そう言うと、ヒルレは帰っていた。
「よし、マイホームだ。掃除するよ」
「うんっ」
「了解した。マスター」
「三件目見てないけど、まぁいいか」
そんなレーゼの独り言は誰の耳にも入らなかった。
 




