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第一話 喧嘩

 帰ってくると、どったんばったんと激しい音が聞こえていた。


「ティンっ、ユグっ。そこに正座しなさい」

 エリミアナの怒声が家に響いた。その声にびくっ、と反応する二体。

 兎と竜を足して割ったような姿の炎の精霊、ティンカーリュと完全な人の姿の植物の精霊、ユグドラシルである。


「エリ~、ティンが悪いんだよぉ」

「なっ、マスター悪いのはあっちだ」

 右にティンカーリュが左にユグドラシルが正座している。もっとも、ティンカーリュは身体の構造上正座できないので座っているだけだが。


「それで?今回はなにがあったのかな」

 双方を睨み付けて聞き出す。


「あのね、あのね。ティンがユグのお菓子魔力を食べちゃったの!」

 身ぶり手振りを付けてエリミアナに訴えかけるユグドラシル。それを見て、ティンカーリュが吠えるように反論する。


「マスター、あいつの言っていることは嘘です。嘘っぱちです。あいつが私の魔力を食べたのです」


 毎度毎度、飽きずにずぅっーと喧嘩ばかりしているこの二体の精霊とエリミアナは契約している。



 古来より、人と精霊は契約して力を合わせてきた。人はその上質な魔力を精霊に渡すことを条件に精霊と契約し力を得てきた。

 時に日照続きの時は水の精霊と契約した者が雨を降らせたり、逆に大雨が続いたときには土の精霊と契約した者が堤防を補強したりしてきた。

 何百年と経った今でも精霊についてはあまり詳しくは分かっていない。不思議なものだ。


「はいはい。ユグ、私が残留魔力を見れるの忘れてないよね?」

 明らかに、ユグドラシルが震えた。確実に嘘を付いている。もとから嘘を付くのが下手なのもあるが。


「どうしてだろうねぇ。ユグドラシルさんや。あなたの身体に私の魔力が見えてティンの方には見えないのは?」

 笑顔で問い詰めていく。笑い顔がひきつり始める。


「さて、嘘つきにはお菓子魔力は上げないっていつもいってるよね?」

「嘘です。ごめんなさい。ユグがティンの魔力を食べました」

 本当の事を言ったから許して!みたいな顔をしながらユグドラシルが白状した。


「ユグ、明日お菓子魔力抜きね」

 ええぇっ、本当の事言ったのに………みたいな顔を露骨にしている。その隣で、ざまぁみたいな顔をしているティン。


「それとも、一週間が良かった?」

 ユグがフルフルと顔を振っていた。


「嘘をつくからだ。当然の報いだな」

 どや顔でそう言っていた。

 仲が良いのか悪いのか分かりにくいが、喧嘩する程仲が良いとも言うので良い方向で取っておく。


「ティン、盗られた分の魔力だ」

 エリミアナの左手から薄い白色の光の玉が渡される。これが魔力である。大概の人間が持っていて色々な用途がある。契約精霊に渡す分や魔道具を使ったりする時等に。


「ふんっ。一人で食ってもつまらんからな。次から捕らないと約束するなら少し分けてやろう」

 それ前回も言ったよね、という言葉を飲み込んで一応見ておく。口は悪いが優しいのだ。


「うん。約束するっ!ありがとう!ティン」

 それをさっき破ってたがな、という言葉を再度飲み込む。


「ふんっ」

 そっぽを向いておおよそ三等分にしたうちの一つを投げ渡す。そして、そのまま自分も食べ始めた。


「ティンは優しいねぇ。さすが、」

「な、何を言っているっ!マスター。別に私は優しくなんかっ、あいつが物欲しそうに見てからっ」


「はいはい。嘘つきユグさんも良かったねぇ」

「もう嘘つかないもんっ」

 何度目だよ、それ。という言葉を三度飲み込む。いつも言っている常套句である。


「いつもいつも騒がしいねぇ」

 そんなエリミアナの声が部屋に響いた。


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