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機械仕掛けの真夜中

作者: 龍仁あゆん

夜勤中に頭に浮かんだアイデアを作品にしました。ちょっと不思議なお話です。

稚拙な文章で読みづらいところだらけだとは思いますが、一生懸命書きました。

最後まで読んでいただいて、コメントまで頂けたら幸いです。



昔々、誰かが、世界の時間の歯車を外して回った。

時計ではなく、「時間」の。

それからというもの、世界の人や物の時間は空転し、止まってしまった。

ごく少数の外し忘れを残して。


初めに断っておきたいことが2つある。まず1つ目に、こんなふざけた話を真剣に語ったのはお姉ちゃんだ。どこで聞いたのかも分からないおとぎ話を真剣な顔して話すんだ。そして2つ目に、僕だって普通はこんな話、物語として聞くに留めるものだと理解しているという事。だってそもそも時間は進んでいるんだし。いくらお姉ちゃんが真剣に話しても、こんな話は信じない、はずだったーーーーー

2週間前、お姉ちゃんが死んだ。僕がいくら適当に聞き流しても、このおとぎ話を本当のことだと言い張って。

そしてそのままこの世を去った。事故だった。きっと最後の瞬間まで信じていたんだと思う。

おとぎ話を信じちゃうような、ちょっとおかしな、でも素敵な優しいお姉ちゃんだった。血は繋がってないけど、僕はそんなお姉ちゃんが大好きだった。


さて、僕の物語が動き出したのはこの後だ。

亡くなったお姉ちゃんの部屋を片付けていると(もとから綺麗に片付けられて物も少ないが一応)、1冊の日記形式で書かれた本が出てきた。著者はお姉ちゃん。

時間が止まった世界を旅する少女の物語だった。お姉ちゃんがいつも話す「おとぎ話の世界」のお話だろう。

普通の世界に生きる少女が、あるきっかけで誤って「最果ての壁(エンドライン)」の外に出てしまう。そしてそこには、時間の止まった、この世界よりも何万倍も広い景色が広がっていた。僕たちが住む世界とは全く別の写真の中のような世界。見渡せばそこかしこに不思議な形の歯車が落ちていて、普通に動くものーーー自由落下するようなものはその歯車だけだというのだ。

そんな世界を旅した少女は、ある時、真夜中のまま時間が止まった場所に行きついた。そこで、止まった世界で暮らすもう1人の少女と出会うんだ。そこで、少女の旅は終わっていた。

不思議なのはその後、物語の最後の日の日記だ。もう1人の少女と出会って完結した物語。以降5年間更新されていなかった日記が、美しく終わった物語を悲しいものに変える形で更新されいる。

最後のページにはただ一言、「もう1度あの少女に会いたかった」と書いてあるんだ。

しかも、日付はお姉ちゃんが事故で死ぬ前日。

こんな、あまりにも不思議な話、現実にあるだろうか?最後の1日の日記さえなければ、お姉ちゃんが好きなおとぎ話を元に書いた小説で終わっていたはずなのに。

ありえない想像が膨らんでしまう。これは日記形式で書かれた物語、、、じゃない?もしかして、お姉ちゃんが使っていた日記なんじゃないか?お姉ちゃんが家にやってきたのは4年前。5年前までお姉ちゃんが何をしてたかなんて僕は知らない。勿論、普通に考えれば時の止まった世界が「最果ての壁(エンドライン)」の向こうにあるなんて思わない。学校でも習った世界の常識。あの先はただの終わり。空間としての終わりがあるだけだ。それなのに、時の止まった世界が続いていて、お姉ちゃんががそこを旅をしてきた人だと、そんな可笑しな想像が止まらない。

普段本なんか読まない僕が、夢中になってお姉ちゃんの書いた物語を読んだ。何度も何度も、朝になるまで読み直した。

そして決めた。「最果ての壁(エンドライン)」の向こうを見に行こう。

リュックに必要だと思うものをあらかた詰め、お姉ちゃんの本とその下にあった宝箱を持って、僕は家を飛び出した。

日記に倣い、お姉ちゃんがたまたま見つけたという坑道へ向かう。目印にしたという「最果ての壁(エンドライン)」の壁に書かれた「4」という数字を目指して、林のなかをまっすぐ進む。

そして、---見つけた。

起伏の激しい松林にある1本のケヤキ。

その裏の土手(ちょっとした崖と言っても差しさわり無い)は茂み、、に偽装してあるレジャーシートと人工植物だ。

それをめくると日記の通り、暗く長い坑道が続いていた。

「ほんとに、あった、、」

一瞬の逡巡を挟み、僕は進んだ。迷いようのない異世界への一本道を。空間の終わりではなく、時の止まった世界を目指して。

暗闇の足元を照らすのは家から持ってきた手回し充電式の多機能ライトだ。重たい荷物と蒸し返すような湿気、汗が玉となり頬を伝う。張り付くTシャツはそのままで、上着は早々に脱いでリュックに結び付けた。

歩きはじめて1時間ほど、一度座って水を飲む。湿ったシャツの袖口で汗をぬぐいながら、リュックからお姉ちゃんの日記を取り出した。ズボンで手を拭いてページをめくる。最初の数日の日記は後から思い出しながら書いたもののようで、内容が少し薄い。ただ、1日の内に坑道を抜けていることは確かだった。

地上での位置関係を鑑みてもそろそろ着く頃かもしれない。エンドラインのーーー

ーーー最果ての、その先へ。---

一息ついて、これから進む方向に目をやる。特に変わりはない。

リュックを背負い直し、また進む。

歩いて歩いて、歩きぬいて、蒸し暑さと張り付くシャツの気持ち悪さも気にならなくなったとき、視界に変化が現れた。

多機能ライトのその先で、光が映し出したのは石の壁だった。

ペタペタと触って確認するが、やはり石だ。

まさか、、行き止まり?ここまで来て?

それから何回か、無駄とはわかっていながらも壁の周りを探ったり、周りに迂回路がないか少し戻ったり、大声を出してみたりした。

でもやっぱり無駄だった。ここまで来た道を思い出し、へたり込む僕。ひとまず休もう。そして、、諦めよう。今から帰れば晩御飯には間に合うだろう。そんなことを考えて、肩からリュックを降ろした。

水を取り出して、一口含む。小腹も空いたし、チョコでも食べようとリュックの底をあさったその時、手に触れたブリキの感触に目を見開く。取り出すとそれは、お姉ちゃんの宝箱だった。

なんで持ってきたんだろう。

無意識に日記と一緒に持ち出していた。そして今、無意識にそれを見つけ、ふたを開ける。なんだろう、この、何かに操られているような感覚は、、、。

ふたを開くとき、中から光が漏れ出した。煌々と、闇に慣れた僕の目を眩ませる。

思わず目を閉じる。少しして、薄目を開けながら箱の中を確認する。

「なんだろ、、これ、、」

余りに不思議な光景に言葉を失った。

それは、おとぎ話の中の様な、素敵な光景だったかもしれない。お姉ちゃんの宝箱の中にある大小さまざまな不思議な形をした小物たち、題材《モチーフ》はどれも、、、「歯車」のようだった。

そしてその中の一つ、---鈍色の歯車がぼうっと輝きを放っていた。

こんなにも美しいものがこの世にあるのかと、魅了されてしまう。

思わず手に取る。

「あったかい、、」

その時、眼前の石壁が鈍色の歯車と同様に、輝きだした。

僕は一瞬にして、さっきまでのような暗く長い非日常の世界から更に一線を越え、もっと非日常の、幻想的な世界に迷い込んだ。

また無意識に体が動く。鈍色の歯車を石壁に押し当てる。

すると、歯車はすっと石壁に吸い込まれていった。

刹那ーーー

石壁は一層の輝きを放ったかと思うと、次の瞬間には動き出した。というよりは、下に滑るように落ちていった。

どすん、と鈍い音が坑道に響く。

「あ、、、」

視界を埋める降ってきそうなほどの満点の星空。眼下には果ての見えない広大な大地が広がっていた。

「あったんだ、、、本当に、、」

思わず初めて目にした広い世界に見惚れる。

けれどすぐにはっとしてその場に座り込み、リュックからメモとペンを取り出した。そして、今見たもの、感じたことを1日の始まりから書き出し始めた。

その内容はどう頑張ってもおとぎ話のようにしか伝わらないかもしれないけれど、それでも偽りなく、僕の中の真実をありのまま吐き出していった。

「見つけたよ、お姉ちゃん、、」

目にいっぱいの星空を映しながら、僕はそう独りごちた。

最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

いかがだったでしょうか?


実はこの作品、長編をひとつ書いている途中、息抜きに短編を書くつもりで書いたんです。

ところが想像が膨らんでしまって、、、。

長編になりかけた話を無理やり短くして、起承転結の「起」で終わらせました。

頭の中には、この先主人公がどんな風に世界を見ていくのか、続きの話が浮かんでいるのですが、それを書いていくかはまた今度決めようと思ってます。

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