第十八話 天使降臨
目の前に現れた天使に僕は目を奪われた。
淡い金髪のゆるいウェーブがかかった髪はかかとまであり、瞳の水底のような深い青は優しさを灯していた。
足首まである白いドレスはたなびいており白い大きな翼は天使の体くらいある。全体に淡い光をまとっている姿は神々しい。
「君はいったい……」
どこか既視感はあったものの疑問をそのまま口にするも天使は微笑むだけ。
瞳を見つめて浮かんだ考えにまさかそんなはずはない。そう思いつつも口は開く。
「もしかして、エンゲ?」
天使はうなずいた。
瞳がエンゲと同じだったからそう思ったけどまさか本当にエンゲだったなんて!
驚いて目を見開く。
そうだ。それよりも今はみんなが危ないんだ。でも僕には何もできない。
「シュテルヒェ。今の私なら助ける事ができます」
その声は僕の願いを聞いてきた声と同じだった。
どうしてという疑問が顔に出ていたのだろう。エンゲは答える。
「私は星に願いが届き、今だけ力を出せる姿になったのです」
星に願いが届いた……。星に願いは届くんだ。
「これから私は願いを叶えるためにあのドラゴンを止めに行きます。シュテルヒェは皆さんと一緒にいてください。私が護ります」
「待って。僕も一緒に行くよ。僕は君のパートナーなんだ。一緒に行きたいんだ」
自然と出た言葉に僕自身が驚く。
エンゲは微笑んで僕を抱き寄せた。
すると体から力が抜ける。一瞬意識が途切れた。
次に気づいた時、僕は今にもブレスを吐きそうなドラゴンの目の前にいた。
驚く僕にエンゲの声が聞こえる。
――今シュテルヒェは私の中にいます。私の感覚を共有している状態なのです。
中級魔法で召喚獣と共有する魔法があるって聞いたけどそれと同じ状態なのかな。
ドラゴンが突然目の前に現れたエンゲに何も反応しないままブレスを吐く。
僕はびびって飛び上がりそうになる。
しかしエンゲが手のひらをブレスに向けると炎は掻き消えた。
ブレスを消した?
――私は無効化の魔法が使えるんです。それと。
学校全体に魔法陣が浮かび上がる。
柔らかな光が人々に吸い込まれていく。
人々は少しして身じろぎしたかと思えば起き上がった。あの中には重傷者もいたはずなのに。
――今の私は広範囲の回復魔法も使えます。
驚いてばかりの僕を気にしないでエンゲはドラゴンに向き直る。
ブレスが効かない事を理解したのか前脚の鋭い爪がエンゲを襲う。
しかし、その攻撃は弾かれる。
――どうやらこのドラゴンは召喚者を取り込んでいるみたいです。
召喚獣が召喚者を取り込む?そんな事が起こるのか?
――何か原因があるはずです。探ってみましょう。
どうやって?疑問に思ったけど、今度はドラゴンの足元に魔法陣が展開された。
そこから無数の光の鎖がドラゴンに絡み封じ込める。
ドラゴンが動けなくなるとエンゲはドラゴンに向かう。
ドラゴンに片手と額で触れる。
そこで見えたのは少しの光も届かないような闇。
その時、暗闇に一つの情景が浮かぶ。